SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』Season.2 No.001
0-1の惜敗に終わったアビスパ福岡との『開幕・福岡ダービー』。対戦前に多くの選手がダービーへの強い意気込みを口にしていたが、今思えば、それは単に『ダービー戦』の重要性について口にした言葉だったように思う。福岡戦に先発したほとんどの選手が福岡ダービー未経験の若い選手だったことを考えると、厳密にいえば『福岡ダービー』が何たるかの本質を十分に理解できていないままの言葉でもあったようにも感じる。
しかし、実際に満員に近い1万4000人弱の観客を前にして、また多くのサポーターのいつも以上に熱のこもった声援を耳にして、あるいは局面での激しいボールの奪い合いを繰り返す中で『福岡ダービー』の本質を頭の中ではなく五感でもって具体的に知ったはずだ。だから試合前に「特に緊張はしていません」と若干のクールさとともに語っていた選手の多くが、試合後にはかなり深刻な表情で「本当に悔しいです」と口にしたのだと思う。もしかしたら、勝つよりも負けることで福岡ダービーの重要性を実感したのではないか。そう考えれば、第33節のアウェイでの福岡ダービーは今から楽しみでしかない。
福岡ダービー敗戦の悔しさを隠さなかった選手の一人がセンターバックで先発した生駒仁選手だった。『良い試合をしながら負けてしまったゆえの悔しさ』がチーム総体としての今回の感情とするなら、個人に焦点を当てた場合の悔しさは2通りあると思われる。『良いパフォーマンスを発揮できなかった悔しさ』と、『良いパフォーマンスを発揮したけれども勝利に導けなかった悔しさ』と。生駒選手の場合は後者だった。
「沖縄キャンプでの名古屋戦での出来がそれほどでもなかったけれども、その後の大分とのトレーニングマッチの出来は良かったし、去年のJ3最終節の藤枝戦(0-1の敗戦)も先発して悪くなかったので、福岡戦での先発を決めました。実際、福岡戦ではフアンマにもヘディングで勝っていたし、今日の練習でもイキイキしてたんですよね」を話す小林伸二監督も福岡戦での生駒の出来を評価していた。では生駒本人の自己評価はどうだったか。
「まず、先発できたことが良かったし、うれしかったんです。去年はケガで長く試合に出られない中で、最終戦(藤枝戦)で先発フル出場することができたことが個人的には大きくて、今年の始動、キャンプ、そして開幕にうまく気持ちをつなぐことできました。福岡のフアンマ選手のイメージは『強い』というものでしたが、試合が始まって体を実際にぶつけてみると、これは偉そうに聞こえたら申し訳ないんですけど、自分が思っていたイメージよりも少し下だったので、気持ちが楽になったんです」
確かに、開始序盤は空中戦でも地上戦でもフアンマに対するアプローチが遅れていたように見えた。生駒選手の言葉からすれば、イメージの中にある強さを警戒して、間合いを取ってプレーしていたためだったと理解できる。しかし、イメージではない実像を明確に理解した後は徐々にフアンマへのアプローチ速度は早まり、間合いも短くなり、自由を与えないようになった。ファンマの強さがイメージよりも下だったのは、生駒選手自身のフィジカルを含めた能力がレベルアップしたからなのではないかとのこちらの問いには、「さあ、それは分かりません」と笑った。
フアンマとのバトルで互角以上の成果を出していたのが、福岡戦で生駒選手に目が行った理由の一つだが、それ以上に目を奪われたのがフィードだった。前半序盤と終盤に見せた2本のキックが素晴らしかったのだ。1本目は左サイドバックの新井博人選手へ、2本目は右サイドバックの野口航選手への物で、小林監督が「シュルッ!」と表現する、低弾道のスピードボールを両選手の足元へピタリとつけた。J1のセンターバックでもなかなかお目にかかれない矢のような鋭さを持つパスだった。
もともと正確な前方へのフィードは生駒選手の持ち味だったが、昨季の中足骨骨折からの復帰を目指す過程で、天野賢一コーチとほかの若手選手との居残り練習で何本も蹴り続けていたのが、その低弾道のスピードボールだった。相手選手が横にズレるスライド対応の時間を与えないスピードボールは効果的なサイドチェンジを実現するために非常に効果的。苦しい時間の中で生駒選手は自身のため、またチームのためになる大きな武器を手にしたことになる。
今後のゲームではぜひ生駒選手の低弾道スピードボールによる効果的なサイドチェンジに注目してほしいが、生駒選手はその武器をさらに有効なものとする手段も習得しようと考えている。
「テラさん(寺岡真弘選手)がとてもうまいのですが、サイドバックへのパスを予感した相手ボランチがその阻止に動いた時に、ボランチの頭を越えて、味方サイドバックの前にいるサイドハーフの足下やスペースにつけるフワリとしたパスを身につけたいんです。それができれば、速いパスも生きると思うので」
新型コロナウイルスの感染拡大予防のためにJ2の3試合分の延期が発表されたが、その期間、チームは福岡戦で出た課題改善を含めて、さらなるレベルアップに努めるが、生駒選手はそれと同時に『天野塾』と呼ばれる居残り練習で、フワリと落とすフィードに磨きを掛けることだろう。ぜひ、再開後の生駒選手のキックに注目を!
文:島田 徹
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