SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ 第7回
深掘りインタビュー 國分伸太郎選手
『シマダノメ 深掘りインタビュー』の第7回目は、大分トリニータからの期限付き移籍で今季加入のMF國分伸太郎選手の登場です。試合を経るごとに存在感を増している國分選手の武器であるパスと、考えてプレーすることへのこだわりを深掘りしました。“自由"を謳歌している人の言葉は実にイキイキとしたものでした(取材日=2019年5月9日)。
―大分の人っていうイメージで見ていたのですが、違うんですね。
はい、大分出身と思ってらっしゃる方が多いんですけど、生まれたのは岡山なんです。
―大分のU-18チームに入る前にはサンフレッチェ広島のびんごジュニアユースでプレーしています。
小学校3年生の時に母親の実家があった広島県の御調(みつぎ)という町(2005年に尾道市に編入)に引っ越しました。最初は『御調FC』という総勢20名くらいの街クラブでプレーしていたのですが、少し物足りなくなって『サンフレッチびんご』でプレーすることになったんです。小学校4年の途中で岡山に戻ることになったのですが、島卓視さん(現・KELT FC=東広島市の代表兼ジュニアユース監督)や成山一郎さん(現・CRIACAO SHINJUKU=関東社会人2部リーグの監督)という、当時のびんごの指導をされていた方々のはからいで、ジュニアユースまで、びんごでプレーすることができました。
―その後に、大分のU-18チーム、そして京都の立命館大学でプレーしていますが、小学校から大学まで、さまざまなエリアでプレーしてきたことは人間としての成長にも何らかの影響を及ぼしたのでは?
社交性というか、人付き合いがそこそこうまいあたりに、その影響が出ているのかなとは思います。この前もヨウヘイ君(内藤洋平選手)とケンタ(福森健太選手)と、ヨウヘイ君の知り合いの方と食事をする機会があったのですが、その知り合いの方の甥っ子さんが、僕の高校時代の同級生だったんです。まあ、当然、「オ~っ」て話は盛り上がりますよね。そうやって知り合った方の多くが今の僕を応援してくれて、僕の力にもなっているし、多くの方と出会うということは、いろいろな考え方を知る、学ぶ、ということにもつながっていくと思うので、いろんなエリアで生活してきたことは自分にとってプラスになっていると思います。
―そういう過程を経て今季ギラヴァンツ北九州に加入されたわけですが、サポーターの注目を一気に集めたのは第7節のブラウブリッツ秋田戦だと思うのです。試合はスコアレスドローに終わったのですが、國分選手は鋭いパスで複数の決定機をつくりだしました。第1節のFC東京U-23戦では5分間の出場でチームの2点目を決め、第4節のSC相模原戦で加藤弘堅選手の先制点をCKのキッカーとしてアシストした國分選手ですが、それでも秋田戦は出色の出来でした。秋田戦での好パフォーマンスはいろいろな面でのコンディションが上がってきたからなのでしょうか?
僕自身のコンディションというよりも、チームの状態が上向いていたことが一番大きいと思います。シーズンの序盤は新しいチームとしてのやり方が十分に浸透しているわけではなかったので、ピッチ上で表現するのは、とてもシンプルなプレーでした。やることがはっきりしている、というか、誤解しないでほしいですし、言葉は悪いかもしれませんが、見ていて面白くないサッカーというか、とても生真面目なサッカーというか。それはチームづくりにおける過程の中でどうしてもそういう時期があると思うのですが、そういう時期に僕のようなタイプの選手は使いづらいというか、むしろ不要だったんだと思います。だから監督も先発で僕を使わなかったんだと思います。
―秋田戦あたりからチーム状況が変わりつつあったと?
変わりつつある状況と、その変化の先にあるもの、そこで必要になってくるものと、僕のプレースタイルやサッカー観というものがうまくマッチングしたので、監督も秋田戦で先発させてくれたのだと思います。
―秋田戦では絶妙のスルーパスを2本出したのですが、いずれも左足によるものでした。右利きなのに左足で。
僕の考え方として、自分が左サイドに立っている時は左足でボールを持つ。右サイドなら右足で、というものがあります。それはスルーパスを出す時に、相手ディフェンダーの背中を取るボールを出しやすくなるからです。左サイドにいる時に右足で出したパスというのはディフェンダーに対しては縦寄りのコースとなり、ディフェンダーの裏に抜けるようなコースには出しづらい。逆に左足で出せば、ディフェンダーの背後を取った上でボールは相手ゴールに向かう、つまり僕からのパスを受けた味方がシュートを打ちやすいコースになっているのです。
―そういう考え方は、誰かに教えてもらったものですか?
いいえ、自分で考えたものです。
―誰かに教わらなくても感覚的に覚えていく選手もいると思うのですが…。
僕の場合は、考えまくっています。感覚的に表現したプレーよりも、考えた末に表現したプレーの方が効果的で、価値あるものだと僕自身は思っています。
―國分選手がボールを持つ時、独特の間合いを感じるのですが、あの間に“考えまくって"いる?
僕が一番にしたいのはワンタッチプレーです。ダイレクトでスルーパスを出せれば当然、チャンスの質は高まりますからね。大分でプレーしている時は、そういうプレーが多かった。それは僕がボールを受ける前に動き出す選手がほとんどだったからです。今のギラヴァンツはまだチームとして成長している過程なので、そのあたりの質が不十分なので、僕も含めて各選手がボールを保持して周囲の動き出しを待ちながらプレーしている状態だと思います。だから、チームとしてワンタッチパスがリズム良く連続して回るようになった時、見ている人たちには「チームとしてまた一つ成長したんだな」と感じてもらっていいと思います。
―パスにもいろいろな種類がありますが、スルーパスに特にこだわりたいですか?
スルーパスというよりも、中盤の選手としては、ラストパスのクオリティーを持っている選手がこれから上に行くべき選手じゃないかと思っています。足下の技術が高い選手、トラップがうまい選手はたくさんいるんです。でも、ゴール前の、相手にしたら本当に危険なところに正確に、自分のイメージ通りのパスを通せる選手が上に行ける選手だと思っているので、僕は常にボールの置き所、キックの種類を増やさなければいけないと感じています。
―クオリティーの高いラストパスを出すためには何を、どうすればよいのでしょうか?
僕の場合で言うと、試合に入る前にある程度のイメージを持って、そして試合が始まったらすぐに、自分に対してどこからプレッシャーが来るかを把握します。例えば、僕が左サイドハーフでスタートしたら、大体は相手の右サイドバック、右のボランチ、時に右サイドハーフの選手が僕に対してアプローチに来ます。それを把握していれば、ボールを持った瞬間にそこから圧力が来ることを想定したボールの持ち方ができるので圧力に焦ってボールを失うことはないですし、そうすることで、ほかのところを見る余裕が生まれるんです。これが大事。意識というものを、相手の圧力ではなく、『ほかのところを見ること』にどれだけ向けることができるか。僕はこれを一番大事にしています。
―キックの種類も大事になる、ということですが、もっと詳しく。
秋田戦で言うと、ヒロト(新井博人選手)に出したスルーパス(※14分、左から中央裏のスペースに走った新井選手にスルーパスを通し、新井選手がフリーのディサロ燦シルヴァーノ選手に折り返した決定機)は、蹴るというより、上から左足でたたく、という感じのキックですね。足を大きく振ると相手にコースがバレるので、ちょっと詰まった感じに見えたとは思うのですが、ボールの底に向かってクサビを打つようなキックで出しました。相手には、「足下に詰まっているのでまだパスは出てこない」と思わせることができたと思います。
―38分の中央から相手ゴール向かって左寄りのスペースに抜けた池元友樹選手に出したスルーパスは?
あれは、リュウ(川上竜選手)とパス交換していたソウヤ(藤原奏哉選手)から僕にパスが来た時、僕の左側から相手のサイドハーフの選手が来たんですよね。それは分かっているので右足で右にかわして顔を挙げた時にイケさんが動き出していたのが見えたので、そのタイミングを逃さないように、そしてさっき話したようにイケさんがダイレクトでシュートを打ちやすいゴールに向かうパスとするために左足インサイドを使いました。パスって、受け手の状況に合わせることが大事。だからどんなタイミングでも出せるようなトラップの仕方、ボールの置きどころが大切だし、受け手の体の向きやスピードに合わせられるキックの種類をたくさん備えていることも大事なんです。
―80分、相手選手のブロックに阻止されましたが井上翔太選手の強烈な右足ボレーにつなげたのは、右サイドから上げた左足クロスでした。
自分が持っている位置、タイミング、そしてショウタ君のポジションを見て左足でのクロスを選択しました。
―クロスに関してはスルーパスとは異なる考え方がありますか?
クロスは僕の中では、完全に一人の選手を目標にして上げるという考えです。「そりゃそうだろ」と言われるかもしれませんが、案外、ゴール前に複数の味方がいれば、相手キーパーの手が届かないところ、大体のポイントに向かって蹴ることが多いものなんです。点で合わせるだけのキック精度を持っていない、持っていても複数のポイントに合う可能性がある方が良いと考える人は、そういう蹴り方になるんです。でも僕は複数いる内のこの選手に合わせるんだという気持ちで蹴っています。その方がシュートに至る確率は高い、そしてそのシュートが決まる確率は高いと考えるからです。秋田戦のあの時も、ニアに2人の選手が走って相手選手を引っ張ってくれたのでファーサイドにいるショウタ君に合わせる選択をしました。
―一つの目標に向かって蹴るという考え方はセットプレーでも同じなんでしょうね。例えば、相模原戦でのコーナーキックからの加藤選手のゴールのアシストも?
そうです。ニアに入るコウケン君に合わせる、どの高さのボールを? そういうところまで絞って蹴ったからコウケン君も合わせやすかったと思うし、結果、キーパーが反応しづらいシュートになってゴールインしたのだと思います。
―アバウトなボールではなくポイントを絞ることは大事だということですね。
キックの精度を上げたいなら、絶対に的を絞って練習することをおすすめします。それが精度を高める早道だと僕は思いますし、実際にそうしてきましたから。そしてその的、目標は細かければ細かいほどいい。誰に合わせるのか。その選手にどういうシュートを打たせたいのか。そのためにはどの高さに、どんな種類の、どんなスピードのキックをチョイスすればよいのか、そういうところまで突き詰めることで、精度が上がると信じています。
―他チームからギラヴァンツ北九州にやって来て、いま感じることは?
僕がプレーしていた立命館大というチームは選手主体のチームでした。監督がチームとしての約束事は明確にしてくれますが、選手主体となって出てくる意見も大いに尊重してもらった。今のギラヴァンツもその雰囲気に近いんですよね。チームが目指す方向は小林伸二監督が明確にしてくれた上で、その手段を自分たちで考えて実践できる環境にあるので、ありがたいんですよね。
―でも、監督の指示に従うのが良い、簡単、楽だと考えるプロ選手もたくさんいると思います。
原則、約束事、やらなければならない事というのは必ずあって、それを選手一人ひとりがきっちりと実践しないとチームとしては成り立ちません。でも、それ以外の範囲のことを選手たち自身で考え、表現することが許容されている今のギラヴァンツは僕に合っていると思うし、だから僕自身、今はプレーすることが楽しいし、そういうことが許されているから、いまはまだ課題が多いけれども、もっともっと良くなる可能性を秘めているチームだと思います。決められたことを忠実にこなすことでチームに一体感は出ます。けれども、それだけだと時間の経過とともに相手にバレるというか、対策を立てられて行き詰まることになりますからね。
―自由は楽しい。でも、大変でもある。その覚悟を持ってプレーしている、と?
そうです。考えられる自由というものがあることは僕にとって本当にありがたいこと。でも、自由にプレーするというのは、感覚的に、気ままにプレーするという意味ではないんです。感覚とかセンスは選手にとっても大事な要素だとは思いますが、そこに考えることが加わればもっと良いプレーができるし、もっと良い選手になれるんだと思う。僕は今、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティの試合をよく見るんですが、あそこで感心するのは、個々の技術の高さはもちろんなのですが、フリーランニングの質の高さなんです。「あそこに走れば相手がこう動くから、ボールを持っている選手がああいうプレーができる」。ただやみくもに走っているのではなくて、そこに必ず理由があるんです。まさに理にかなったプレーと判断。そこが素晴らしいと思うし、僕もそういうプレーをこのチームで表現したいんです。
―個人で表現するだけでなく、チームとして理にかなったプレーを表現するにはお互いのコミュニケーションが必要になります。だから試合中の國分選手もかなりの声を出しているのでしょう。味方への声掛け、コーチングで大事にしていることは?
ああしろ、こうしろ、と決めつけの指示を出さないこと。選手はそれぞれ、プロとして誇りも経験も持っているから。自分のプレーを他から決めつけられるってこれほど苦痛なものはないでしょ? やっぱり自分で考えて決断する。それが楽しいし、やりがいだと思いますからね。僕だけが自由でも意味はない。チームのみんなに自由がないと意味はないでしょ? だから、「こうした方がいんじゃない?」「こういうアィディアもあるけど?」というくらいのコーチングが良いと思います。若い選手には自分で考えてプレーとして表現する楽しさを知ってほしいし、そこにやりがいも感じてほしい。そういう選手が増えればギラヴァンツ北九州はもっと強くなると思うし、それが見ている人をワクワクさせるサッカーなんじゃないかなと思います。
文・島田徹 写真・筒井剛史
(次回シマダノメ『深掘りインタビュー』の第8回目は6月初旬ごろにアップ予定。登場する人物は? お楽しみに!)
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