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シマダノメ第19回
深掘りインタビュー
小林伸二監督(後編)

シマダノメ第19回 深掘りインタビュー 小林伸二監督(後編)

『シマダノメ 深掘りインタビュー』の2019年締めくくりでの登場となる小林伸二監督の深掘りインタビューの後編。今季のターニングポイントとなった試合、監督とスポーツダイレクターとの兼務など、シーズンを終えた今だからこそ話せるあれこれを深掘りしました。
(取材日=2019年12月11日)。

―2019シーズンの中で苦しかったのはやはり7月から8月頭、第15節から第19節までの5試合未勝利の時だったのでしょうか?

そうですね。第15節のAC長野パルセイロ戦(2-2の引き分け)と第17節のヴァンラーレ八戸戦(1-1の引き分け)はいずれもホームゲームで先制、あるいは勝ち越しながら、終盤に失点して勝点2ポイントずつ計4ポイントを失う痛い結果になりました。いずれもサイドハーフがうまく戻り切れなくて失った点だったので、夏の補強ではサイドハーフを取ろうと決めました。

―夏の補強は髙橋大悟選手と椿直起選手というサイドハーフとストライカーの北川柊斗選手の3人でした。いずれも攻撃的な選手というところに、「今季はアグレッシブに戦うんだ」という姿勢が表れていたように思います。

そうですね、本当はセンターバックも、という考えがよぎったのですが、攻撃的な姿勢を貫徹するという意味でその決断に至りました。予算的にも厳しいので、最初はサイドハーフ1枚だけという感じで進んでいたのですが、2枚いけるかも、さらに3枚目もいける、という話が出てくる中で、本当に時間がない状況でうまく動くことができて、本当にギリギリのタイミングで北川を獲得することができたんですよね。その時は、私がスポーツダイレクターを兼務していてよかったなと思いましたね。もし、監督である私と玉井行人社長との間に強化担当者がいたら、あの時間内での移籍交渉はできなかったと思いますから。

―結果的に3人の補強は成功しましたね。

椿はケガもあったし、1アシストにとどまりましたが、3人の獲得はほかの選手にも今季は攻撃的に戦い切るんだというメッセージにもなったと思いますし、やって来た3人も試合に出たくて移籍を決断して、それぞれが結果を残すことができたので、良かったんじゃないですかね。

―話を夏の5戦未勝利に戻しますが、その時に選手にはどういう話をしたのでしょうか。

約2週間の中断期間に入る前の試合(第20節)でガンバ大阪U-23戦に(2-1で)勝って何とか未勝利の状態から脱することができました。その時の順位が4位。だから中断期間に入る前のミーティングで選手には「開幕前に掲げた目標である6位以内には入っている。だからここからじっくりと行って、(昇格を)取りに行くぞ、そのためのチャレンジをしよう」と言いました。対外的にはそのころもあくまで目標は6位以内ということにして「昇格」という言葉は一切使わないようにしていたのですが、チーム内では昇格を見据えた戦いをするんだということを明言していました。

―昇格という目標を選手には伝えて外部に対して出さなかった理由は?

応援してくれる人たちの期待はとてもうれしい。でも、その段階での過度な期待が選手たちにはとてつもない大きなプレッシャーになると考えたからです。昇格に向かって戦うという姿勢を内部だけにとどめておくことで、選手たちは淡々と自分たちの戦いに集中できると考えたのです。選手には「下駄をはくまで分からない、という言葉があるけど、下駄を履いても鼻緒が切れることだってあるんだからな」と冗談を入れながら、最後の最後まで分からないから気を緩めちゃいけないんだという話をしたんですけど、ウケませんでした。誰も笑っていませんでした、誰も……。

―今季のターニングポイントは?

一つは、先ほども出た5戦未勝利のあたりですね。7月3日の天皇杯2回戦のヴィッセル神戸戦(0-4の敗戦)で今のチームの立ち位置を知るという意味でメンバーもあまり変えずにぶつかっていって、そこでかなりのエネルギーを使ってしまって、そのあとの5戦未勝利につながったと今は考えているのですが、第20節のガンバ大阪U-23戦で何とか勝てた。そこが一つのターニングポイントと言えるかもしれません。それが中断期間前の最後の試合でしょう? あそこで勝って悪い流れを断ち切って、また新たな気持ちで中断期間に入って再開に向けて準備できたのは本当に大きかったと思います。もし、ガンバ戦を負けていたら、と考えるとゾッとしますね。

―昇格と優勝につなげた、という意味での終盤戦におけるターニングポイントは?

やっぱり第31節のザスパクサツ群馬戦(1-0の勝利)ですね。その前のロアッソ熊本戦を(1-1で)引き分けたこともあって上位争いがより混とんとしてきた。あの熊本戦で優位に進めながら2点目が取れなかったことで、正直、「ウチもここまでかな」と思ったりもしたんです。それで第31節、ウチの群馬との試合は19時開始だったのですが、2位の藤枝MYFCは13時からセレッソ大阪U-23との試合。自分は過去にセレッソのトップチームで指揮を執っていたし、まだクラブに知り合いが何人かいるので「頼むよ」という気持ちで試合をテレビで見ていたんです。そうしたらああいう結果(後半アディショナルタイムの決勝ゴールでC大阪U-23が勝利)でしょ? それはそれで良かったのですが、藤枝の敗戦で、群馬はウチに勝てば得失点差で藤枝を上回って2位に浮上できる状況になったので、かなり気合も入っていた。そういう相手にウチは序盤から積極的に試合に入りました。リーグ序盤ではやっていたけど、しばらくやっていなかった形、両サイドバックをともに高い位置に置いてどんどん押し込んでいく形で試合に入っていったんです。恐らく相手はそれを予想できないから戸惑うだろう、でも時間がたてば対応してくるだろうから、その時はまたやり方を変えようという考えで。実際、相手は面食らったのでしょうね、勝てば2位に上がれるという気合も出せず、ウチの出方に対応するのに苦労していたようです。

―そういうプレッシャーのかかる試合で思い切った采配がよく取れましたね。

賭けとかではなく、久しぶりだけど、その形で入った方がうまく行く、という自信はありました。2019シーズン、私は采配という面でいろいろなチャレンジをしましたが、それは賭けではなく、今のチームと選手なら「やれるだろう」という自信、「やってくれるだろう」という期待がベースとなるチャレンジでした。群馬戦もそうでした。そして期待した通りに主導権が握れた前半にワタル(野口航選手)のオーバーラップからダイゴ(髙橋大悟選手)が1点を決めて、後半に入って群馬も修正してきましたが、ウチは手にした主導権を渡すことなく試合を進めることができました。あの試合で勝てて本当に肩の力が抜けましたし、「こういう試合を勝てたんだ。よし、これで行ける」と昇格を確信しました。

―終盤戦で大きな意味を持つとおっしゃった第31節の群馬戦で決勝ゴールを挙げたのが髙橋大悟選手でした。髙橋選手は途中からチームに加わって計7ゴール、貴重な働きを見せましたね。

リーグ前半戦、サイドハーフの選手で点を取ったのはシンタロウ(國分選手)だけでしたが、ダイゴ(髙橋大選手)が途中からやって来てゴールを重ねたことはチームにとっても大きかったですね。

―結果、チーム内得点王に輝いたのは8得点の町野修斗選手。そして髙橋大選手と同じ7ゴールを挙げたのが池元友樹選手、北川柊斗選手、ディサロ燦シルヴァーノ選手でした。ご自身も現役時代はフォワードとしてプレーしていたから辛口の採点になるのだろうとは思いますが、今季のフォワード陣の活躍をどうご覧になっていますか?

少しは伸びてきたかな、とは思います。しかし、もう少し、相手を見て(ボール)コントロールを変えるとか、そういうところの技術が欲しいですね。運び込んでシュートにまで持って行くっていう意味では、走ってはできるんだけれども、その際の駆け引きで、ファーストタッチで持っていくとか、そういうところが物足りない。ただ、細かい部分で物足りないところがあるのは、フォワード自身の問題だけではなく、サイドハーフやボランチの選手がかかわってくる問題でもあるんです。チームとして押し込んでいる状態の時に、フォワードが「いま!」と思った時にパーンって感じで入ってくる短いスルーパスが少ないんですよね。そういう細かいのを出すっていうのが、時折、シンタロウ(國分伸太郎選手)があるくらいですから。それはフォワードとしたらやりにくい感じがあると思いますね。

―押し込んでいるのにゴールがなかなか奪えない状況となる時の要因の一つがそこにあると?

カウンターなど、スピードアップの方向で切り替えた時はいいんです。でも、相手陣内に押し込んでいる時は長いボールを入れてのスピード勝負には持って行けないんです、もっと隙間に潜っていかないと。そこが多分、ここ何年もないから点が取れないんですよね。打ち合っての攻守の切り替えが速いサッカーはできるけど、もう少し前でサイドハーフがスルーパスを入れる、あるいはボランチが前に出て行ってフォワードと関わるというプレーからの得点を増やさないといけないんです。そのあたりが、3分の1の相手エリアに入っていった時の課題だと思います。確かにそれは難しいのですが、フォワードにしてみれば、そういうサポートがほしいと思うことがあるんじゃないですかね。

―今季のベストゲーム、ワーストゲームは?

ベストゲームは、第31節の群馬戦ですよ。ワーストは……。

―監督は今季、勝っても笑わないことが多かったと思います。あれはどのゲームにも不満があったということですか?

常に不満があったというわけではありません。勝った時に笑っていたら相手に失礼かな、と。笑いたいのに笑えない自分がいたこともあります。

―しかし、負けた試合も消極的な戦いが理由となることはなかったように思います。

はい、ありません。全部前から行きました。だって後ろで守る練習はしていませんから。

―そういう意味では、負けても、あまり引きづらなくてもすむということですか?

はい、もう元気よく! もう1つはトレーニングの中で、点を取られた時に、リカバリーを自分たちでしろ、チームでしろ、ということをシーズン前半にはうるさく言いました。点を取られたあとに、「今度は自分たちが取りに行け」と。そういう姿勢を取ることで、相手も構えざるを得ないから2点目、3点目を取られなくてすむんです。1点を失ってションボリしているから追加点を取られるんです。

―まずは気持ちの切り替えが大事。

はい、それと同時に、まずは足とボールを動かすこと。ちまちま、個人個人がやりたい事をやるのではなくて、まずはシンプルに足を動かし、ボールを動かすことが大事。それが、リズムが悪い時と、スランプに陥った時の鉄則ですから。それは、私がマツダ(サンフレッチェ広島の前身)でプレーしている時にハンス・オフト監督に叩きこまれたことです。

―ヘタに考えるなって事ですか?

シンプルにボールをもらう、パスして動く。そうすると、サッカーのリズムに自分が合う。ヘタに考えていたらノッキングしてしまう、というのはホントなんですよね。自分も実際にプレーしている時に実感したことなので、今、同じことを選手にも自信を持って言えるんです。シンプルに動くことでリズムに乗ってくる。その中で生まれる「自分でやりたいこと」というのが、本当に効果的なプレーだったりするんです。リズムが悪いのに、さっき失敗したから、もうちょっといい事やろうと思ったら、ドツボにハマるんです。

―それはシーズン序盤の練習で言い続けて、半ばくらいになるとその効果が試合の中で見えてきたんですか?

変わってきます。ハードワークするようになります。とにかく練習ではそれを言い続けました。「リカバリーしろ!」、「ちゃんと行け!」って。練習でそういうイメージを持たせるのはとても大事。練習でうまくいくと、試合でもうまくいくものです。いい練習ができた時は週末の試合も絶対にうまくいく。ですから、指導者がいろんなメニューをぐちゃぐちゃに変えて、選手も分からなくなるというのはきついですよ、ほんとに。

―多くのメニューをこなすよりも、同じようなメニューを反復する方が大事、ということでしょうか?

今の時代、たくさんの情報を仕入れられるから、指導者もいろんなメニューを知ることができる。でも、それを単に真似をする、自分が本当に理解してないのにやっても絶対にうまくいかない。自分の中に刷り込んだメニューの中から何を教えられるか。それが大事だし、その方が絶対に選手にとってもいい。複雑なメニューだと、そのルールをようやく理解したころには練習が終わっているという事態になりかねません。もちろん、そのメニューをよりいいものにするための改良は常に行うべきですけどね。

―監督がおっしゃった「いい練習」とは?

ギュッとしてますよね。締まって、テンポ良くて、切り替えが良くて。皆が、次の準備が早い。という時って、パーンってしてますよね。外から見てもきびきびしていると思います。オフザボールのポジションがいいって事ですよ。オンの所の準備は、持った人にビャッといきますけど、それに対してっていう守備もそうですけど、全員が関わっている状態です。だから、鬼ごっことか、ハンドボールゲームなんかもウォーミングアップでやりますけど、そこでしっかり遊べない選手、自分がここにいるって姿を見せられない選手は、かかわっていないということ。それじゃダメ。「俺はここにいるから出せよ」という姿勢が絶対にいいわけで、そういう選手を指導者は増やさないといけない。そういうのを私は「参加」ではなく「参画」と言います。選手には「参画を辞書で調べてみてよ。参加の上なんだよ、参画って。自分の立ち位置があって表現するんだよ」って。自分を表現してくれると、こちらもアドバイスを送りやすくなる。「もうちょっとお前ならやれるだろ。こんなこともきっとできるんだよ」って褒めながら成長させてあげられる。

―今年1年、監督とスポーツダイレクターを兼務されました。

スポーツダイレクターとしても意外と期待されているんだな、ということはチームの練習が終わった後にスポーツダイレクターとしてクラブ事務所に行った時に、いろいろな相談を受けることで感じましたし、それはうれしいことだったんです。だけど、難しい部分もあって。例えば監督として選手には「最後まで何が起こるか分からないのが勝負の世界だ」とはっぱをかけているのに、クラブ事務所に来たら「昇格が決まった時には…」、「優勝が決まった時には…」と、まだ決まってもいない先の話を聞かされるんです。クラブスタッフは懸命にいい準備をしてくれていることは分かっているんですけど……。監督としてスポンサーの方々のところに出向くと、その期待の大きさを感じて「(最下位のような)苦しいシーズンにはしません。勝ちますから」と口にするんです。有言実行でこれまでもやってきた自分ですから、そう言うことに迷いはないんですけど、もしできなかった場合、スポーツダイレクターとしてクラブ事務所に行った時に、どんな顔をしていればいいのか、スタッフの皆はどういう顔を自分に見せるのか、それを考えると恐ろしくて仕方なかった。そういう不安を口にするとね、天野賢一コーチと村岡誠フィジカルコーチが「シンジさん大丈夫ですよ、1年で上がれますから」って。そういうのが、頼もしくて、感謝しつつ、自分もしっかりしなきゃって考えることができましたけどね。

―Jリーグの中でも兼務は珍しい。兼務のメリットもある。

やっている人はいないですね。確かに夏の補強の時を含めて、さまざまな交渉がスピードアップされるというメリットはありました。しかし、メリットはあるんだけれども、例えば、育成の練習も実はあまり見に行けなかったんです。強化部長だけを務めたアビスパ福岡の時なんかはアカデミーの練習も見に行っていました。でも、監督の立場で考えると、特に今季のギラヴァンツ北九州の状況を考えると「まずはトップチームだ」となるんです。スポンサー企業にあいさつに行っても、聞かれるのはクラブ経営のことではなくて、トップチームのことになる、そこの成績を期待されているのが分かるので、まずはトップチームを何とかすることが、クラブの将来にも大きくかかわるのかな、と考えるようにもなり……。自分の中で、“2つのピッチに立つ”難しさを感じた1年でしたね。

―難しい立場を1年間経験したから、2020年はもう少しいろいろなことを効率的に運べるようになるのでは?

2019年は監督とスポーツダイレクターの兼務で本当に忙しくてヘトヘトでした(笑)。でも、スポーツダイレクターとしてクラブスタッフとかかわることでこれまでにない刺激をもらえたし、充実した1年にはなりました。その経験を生かして仕事を効率的にできればいいんでしょうけど、今度は戦うステージがJ2に上がるでしょ? 戦いがより厳しいものになるでしょ? そうすると監督してやるべき仕事も増えると思うんですよ。相手の研究にも時間を掛けるようになると思いますしね。だから、楽になることはないかな(笑)。

―かなり精神的にも疲れた1年になったようですが、でも、練習場で見る小林監督の表情はいつも明るいものでした。

選手に会うとね、やっぱり元気がいいし、選手がエネルギーをくれるんですよね。「おれがオマエくらいの年齢の時はもっとうまかったぜ」なんて冗談を言いながら、とにかく楽しかったですね。

―優勝セレモニーの時に小林監督は本山雅志選手、池元友樹選手らの名前を出していましたが、川島大地選手や内藤洋平選手も含めたベテラン選手の存在をどう感じていましたか?

ダイチ(川島選手)は、シーズン始めには右のサイドハーフで使っていましたが、いろいろなポジションができる選手なので、サイドバックやボランチでの起用も考えたり。それは彼には申し訳なかったんだけど、私には頼りになる選手だったし、采配のアイディアというところでかなり貢献してくれました。イケ(池元選手)は、やっぱり1番、ゲームにいてほしい存在でした。だから彼を入れるという前提で戦略も立てました。本人にも「90分は出なくていい。60分でいい。そこで仕事をしてくれ」とシーズンの最初に伝えました。フルで出られないことに本人は不足を感じたかもしれませんが、でも、ゲームに出られるということはトレーニングが充実しますから。村岡フィジカルコーチにも、過去の例を出しながら「あの時みたいにやっていけば、リカバリーもできるし、集中するし、イケのコンディション管理というところはムラが支えてやってくれ」という話もしました。

―内藤選手はキャプテンとしてチームを支えました。

途中でケガもして、シーズンを通してゲームには出ることができず悔しかったとは思いますが、ホームゲームのロッカールームでは皆の前でキャプテンとしてしゃべってくれ、試合前日にグラウンドでメンバーを発表した後に、恒例のように皆を集めて話をしてくれるとか、そういう、まとめるっていう、ピッチ外でまとめるっていう事をやってくれたんですよね。本山は、1番僕が感動してるのが挨拶。本当にいい。あれだけの実績を残しているベテランがあれをするのかって。生きた見本というだけでは物足りない。挨拶ってコミュニケーションの第一歩ですからね。簡単なようでなかなかできない。しかも本山自身はリハビリの繰り返しというとても苦しい状況の中で、それをちゃんとできるんですから。そういう姿を見た人がどう感じるか、それは私が何かを言うまでもなく、分かるでしょ? それとミーティングの時に一番目が輝いているのが本山でした。あの目の輝きって何だろうって私、考えたことがあるんですけど、あれって映像を見ながら「俺だったらこうするな」ということを考えている目なんですよ、絶対に。まさにサッカー小僧という感じで、彼のああいう姿勢、存在感はチームメイトに対して、ほかの誰も与えられないような刺激になったと思います。

―来季に向けての話を少し。2019年のチームスタイルは来季も継続しますか?

前からプレスを掛けて行って、高い位置でボールを奪って、試合の主導権を握るというスタイルでJ3の優勝を勝ち取りました。そのシーズンの途中、トレーニングマッチで大分トリニータと、天皇杯でヴィッセル神戸というJ1のチームに対して、ウチの前から奪いに行くサッカーが通じたんです。結果的に点は取られましたが、J1のチームが、ウチの前向きなサッカーにアップアップしたんです。その時の手ごたえもあるから、前から圧力をかけていくスタイルは2020シーズンも継続したいなと考えています。かつて指揮を執ったチームでは、3段階くらいのライン設定を準備して状況に応じてラインを上げる、下げる、ということをしていましたが、ギラヴァンツ北九州ではそういうことはしていません。「行けるんだったらどんどん行け」と。もちろん、「こういうふうに牽制して相手のボールの動きをこういうふうに制限をかける」という話はするんですが、細かいことはあまり言いませんでした。

―細かいことを意識してパワーがなくなるよりは、大雑把でもいいから動いてやらせたほうがいいだろう、と?

どうせ前でボールが取れなかったら、下がらないといけないじゃないですか。そこで下がる力があれば細かいことは気にしなくていい。それよりも、ボールを取った後にどうやってカウンターに行くのか、ってところを意識させることの方が勝利を目指す上では重要なんです。引いて構えて守るやり方でも結局、カウンターで出て行くというところを目指すのだから、だったら、前からいったほうがいいなって。でも、押し込まれた時に、ボールを奪ったらまずカウンター、まず走る。走り勝ったら、点が取れます。そこはベースの考え方として必要。で、次にビルディングアップ、ボールを回す、という考え方です。

―あくまでも、スタイルはアグレッシブに。

もうそこは絶対。それを今後のチームのカラーにしていけばいいんです。今後は、そういう姿勢、プレーができる選手を取ってチームを構成すればいい。あるいは、まだそこが物足りなくても、そういうことができる素地かメンタリティーを持ってる選手を取れば、2019年がそうであったように、1年かけて我慢して取り組めば変化、成長していけるんですから。

―最後にサポーター、スポンサー企業の方々、街の方々にメッセージをお願いいたします。

2019シーズン、本当にありがとうございました。皆さんの熱い思いがわれわれを強く後押ししてくれて本当に良い結果につなげることができ、逆に我々が幸せにしてもらったシーズンとなりました。バタバタとする師走ですが、2019年のギラヴァンツ北九州の戦いぶりを少し振り返っていただき、「良かったな」と思えたら、戦うステージが一段上がる2020年もぜひ熱く応援していただき、共に戦えて行けたらと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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