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シマダノメ Season2
第2回 深掘りインタビュー
佐藤亮

シマダノメ Season2 第2回 深掘りインタビュー 佐藤亮

『シマダノメ 深掘りインタビュー Season2』の第2回は、ルーキーの一人、佐藤亮選手の登場です。昨年度の大学サッカー界を席巻した明治大から加入の経緯や、プロデビューを飾ったアビスパ福岡との福岡ダービーについて触れながら、知られざる素顔を深掘り。強く印象に残ったのは、プロの一人となった『自分の務め』についての話。
(取材日=2020年3月6日)。

―2月23日の開幕戦、アビスパ福岡との『福岡ダービー』が、佐藤選手にとってのプロデビュー戦となりました。しかも先発出場!

開幕戦に出るために準備をしてきましたし、実際にピッチに立つと自分が思っていたものよりも、はるかに上を行く良い雰囲気でしたが、チームとしてはとても大事な一戦で勝つことができませんでした。また個人としても結果を出せたかと言えばそうではなかったので、先発で出ることができた喜びよりも、勝てなかった悔しさの方が大きい試合となりました。

―68分間の出場でした。

自分は90分を通して走り切れるところが長所の一つだと思っていて、あの試合もプレーの内容的にはそれほど悪くはなかったと個人的には思っていましたが、外からの評価はそうじゃなかったということなので、開始1分からもっと自分をアピールし続けないとフル出場はできないということを改めて感じました。

―福岡ダービーを実際に経験しました。試合をする前とはイメージが変わったのでは?

試合をする前は、ダービーという視点よりも、シーズン最初の試合という視点で見た時の重要性に自分の意識は向いていたのですが、いざ会場に入った時、ピッチに入ってアップをした時、試合が始まった時、終わった時と、いろいろな場面がありましたが、その時々で「これが福岡ダービーなんだな」と感じましたし、サポーターの方々の熱量というのがものすごく伝わってきたので、福岡ダービーの重要性が身に染みました。

―福岡ダービーの内容を振り返って、今感じることは?

攻守において課題は残りました。守備では最後の大事な場面で足が出るか、シュートコースに入れるか、体を張れるか、という局面での細かな意識がまだまだ足りないと感じましたし、攻撃ではチャンスの数は多くはありませんでしたが、そこで決め切れるだけの技量は身につけなければいけない、得点の確率を上げるためにもチャンスの数そのものを増やしていかないと勝てないんだと感じました。

―福岡の決勝ゴールを挙げたのが遠野大弥選手で、彼は今季の新戦力、さらにトップ下のプレーヤーという点で佐藤選手との共通点がある選手でした。

僕は相手の個々の選手の特徴を気にし過ぎるのもよくないと考えるタイプなので、遠野選手のこともそれほど知らずに試合に臨みました。ただ、試合後のニュースや記事を見ていると、遠野選手はJFL(Honda.F.C.)から上がって来た新加入選手ということで、大卒の僕と立場的にも似ているというところで、点を決められて、勝ちを持って行かれたということにものすごく悔しさを感じました。

―佐藤選手はFC東京のアカデミー出身者ですから、大学卒業後の進路としてFC東京のトップチームに、という思いもあったのでは?

それはもちろん、子どもの頃から長年お世話になったチームですし、地元のチームでもあるので、もしそうなれば家族も喜んでくれると思ったので、大学に行ってもそれを目指してやってきました。でも、それがかなわないとなった時に、だったらFC東京を負かすようなチームに入って戦って勝ってやろうという気持ちに切り替えました。

―佐藤選手が4年時に関東大学リーグ、総理大臣杯、全日本大学選手権の3冠を達成した明治大学での4年間で積み上げてきたものとは?

人間力はものすごく身につけることができたと思います。先輩や目上の人に対する気遣いや姿勢、態度が少しでも抜けていると、チーム自体にスキが生まれるということを常に言われてきましたし、メディアの方々に対する態度、そこで口にする言葉、あるいはピッチ上でのプレー以外の振る舞いの重要性を知ることができました。プレーに関しては、明治大が個の力を追求するチームだったので、1対1の場面における攻守の力というものは身についたんじゃないかと思います。

―今の話にあった人間力について。先輩との上下関係で培われたというのは、今どきの大学では珍しいのでは? 最近の大学での上下関係は昔ほど厳しくないと聞きますが?

関東の大学の中では一番厳しいと言われていたのが明治大学だったので、そういう環境の中で成長させてもらったと思います。サッカー部は寮生活をしていて、同じ釜の飯を食べる中で、先輩への気遣いがまずは大事でした。例えば、ご飯を食べながらテレビを見ていたとしたら、自分はどの角度に座れば先輩の邪魔にならないだろう、とか、話す時の言葉づかいで先輩がどういう気持ちになるのか、気を使わせ過ぎてはいないだろうか、とか、お風呂に入っている時の浴槽のお湯の温度がどれくらいだったら先輩が気持ちよく入れるのか、とか、そういうことを1年生の時から気にしなきゃいけない環境だったので、それが当たり前のことになっていくんです。それはきっと、プロになっても、もっと先になっても生きてくると思っています。

―しかし、先輩から理不尽なことを要求されると反発したくなるものでは?

世の中、理不尽なことはあると思うので、そこにどう対応していくのかは人間としての成長につながると考えていましたし、それを同級生の間で共通意識として持っていました。もし理不尽が過ぎるなと感じた時は同級生たちと「オレたちが上級生になった時は、ああいうことを言う、やるのはやめような」と話していました。反発ではなく、そういう前向きな捉え方をしていました。いずれにしても先輩にはいろいろなことを学ばせてもらいました。

―とはいえ、そこまで自分をうまく納得させられるものでしょうか?

僕が明治大学に入ったことで両親は高い学費を払ってくれていましたし、その中でサッカーをやらせてもらっているのも家族の助けがあったからこそ。だから、自分がそこですねたり、挫折をしたら、僕をサポートしてくれている人たちがそれを見てどう思うのかを一番に考えてきたので、サッカーにおいて、また私生活で人間関係がうまく行かない時も、自分を応援してくれている人がいると思うことで「よし、明日からまた頑張ろう」と思えましたし、それを僕の活力としていました。

―ご両親にはどういうことを言われて育ってきたのでしょうか?

人にやさしくとか、気遣いとか、人に喜ばれることをする、人が嫌がることはしない、とか、本当に当たり前のことを言われてきました。

―ご両親は佐藤選手がプロになったことをどう感じているんでしょうか?

僕は就職活動もしたのですが、プロになるかならないかの決断も自分でしました。そこは大いに悩んだのですが、その時に両親は人生の先輩として多くのアドバイスを送ってくれて、その上で僕がプロになると決めた時は、何の文句もなく、ただ後押しをしてくれました。福岡との開幕戦には東京から両親、兄と姉の家族全員でミクスタに応援に来てくれました。

―就職活動はどのあたりまで進んでいたのですか?

昨年の6月には、ある飲料メーカーから内定をいただいていました。その時点でサッカーには区切りをつけようかなと思っていたんですよね。

―去年の11月、明治大の同期のうち6人のJリーグ入り内定の会見が大学内で行われていましたが、そこに佐藤選手はいませんでした。

あの時点で僕は就職するのか、それともサッカーを続けるのか、続けるにしてもどのチームで続けるのかを決めかねている時期だったんです。いろいろな選択肢の中でどれを選ぶか、決断したのは12月のインカレ(全日本大学選手権)の途中でした。

―決断のポイントは?

大学を卒業した後、自分のために生きるのもいいのですが、人のためにやれることをやるのが一番だと考えて、親を含めて僕を支えてくれた人たちへの恩返しをするというのがまず頭にあって、その中で自分にしかできない恩返しって何だろうと考えた時に、誰もが手にできるわけではないプロサッカー選手への道というのが僕にはあったので、その道をとことん突き詰め、貫くことで恩返しに変えたいと思いました。そして、その道をしっかりと進めば、サッカーに一つの区切りがついた後の自分にもきっとプラスになるはずだ、と考えたんです。

―ここまでの話もそうですが、ほかのメディアでの取材を見ていても、しっかりとした会話ができる選手だなと感じます。もともと話好きなのでしょうか?

話好きではありません(笑)。18年くらいサッカーをやっているのですが、その間に結構取材をしていただく機会が多くて、特に高校の後半からですが、そこで慣れたというのはありますし、先輩方が取材を受けているのを見て学ばせていただいたという部分もあるので。一番は大学4年生の時にキャプテンを務めさせてもらって、その時にかなりの取材を受けさせていただく中で、言葉選びも意識してできたのかなと思います。

―取材を受ける時に何を大事にしているのですか?

サッカー選手として取材をしていただくのですが、僕という人間を分かってもらえるようには意識しています。「サッカーだけがうまい人間」ではなくて、人としても魅力的でありたいといつも思っているので。「人間性に優れているからサッカー選手になれたんだな」というふうに思っていただきたいんです。ただ、その時に話す内容、言葉は事前に細かく決めるのではなく、大枠を決めておくだけ。何日に取材があると伝えられて、実際の取材日までの間に僕の感じ方や気持ちがどう変わるのか分からない。聞いている人、見ている人には、一番新しい気持ちや感情を伝えたいので、ぶっつけ本番、という感じで臨むようにしています。そのほうが、言葉もスムーズに出るんです。

―明治大の多くの同級生がJリーガーになって、その多くが開幕戦に先発しましたね。

同期のうち全部で9人がJリーガーになりました。横浜FCの瀬古樹、サガン鳥栖の森下龍矢、FC東京の中村帆高が開幕戦で先発していましたね。やはり同期には負けたくなくて、先発というところで並ぶことはできたのですが、フォワードである自分は得点という大事な仕事ができませんでしたし勝つこともできなかったので満足はできませんでした。特に、瀬古はゴールを決めました。同じルーキーとして先を行くなら、僕には得点しかないと思っていたので、ボランチの選手に初ゴールを先に決められたのが余計に悔しかったんですよね。

―リーグ戦で対戦する可能性があるのは?

モンテディオ山形の小野寺健矢、サズパクサツ群馬の川上優樹、愛媛FCの加藤大智ですね。

-ギラヴァンツ北九州で背番号「7」を着けることについて。

この上ない幸せでした。最初、マネージャーの方から空いている番号を提示されて希望を聞かれたのですが、その時はただなんとなく「29番で」と答えました。そうしたら後日、7番と聞かされて。その時にはまだ小林監督を含めてコーチングスタッフの方とも直接会っていませんでしたし正直、驚いたのですが、でも、それだけ期待されているのかなと思って誇りに思えてきました。7番がリリースされる前からウキウキしていて、早くみんなに知ってほしいな、と(笑)。7番をつけるのは初めてです。

―沖縄キャンプで3つのJ1チームとトレーニングマッチを行いましたね。

浦和レッズ、川崎フロンターレ、そして名古屋グランパスですね、3試合とも出させていただきました。チームとしての完成度はもちろんなのですが、特に違いを感じたのは守備における個人の力量ですね。寄せ方、追い込み方、間合いを含めた駆け引きとか段違いでした。

―沖縄キャンプから帰ってきて開幕までに取り組んだ個人的な課題は?

自分の特徴をチームメートに知ってもらいつつ、自分に足りない部分を補う、という時間に当てました。自分の特徴は走る力。それは誰にも負けないというのは分かっていましたし、そこは十分なアピール材料になると自信は持てたのですが、例えば、池元さんやディサロさんがするようなワンタッチでのパスからの崩しが本当に足りないと感じたので、そこを意識してトレーニングに臨みました。その部分での僕のレベルが上がればきっとチームとしての攻撃のレベルも上がると思ったので、かなり意識しましたし、今もまだまだなので意識しています。

―開幕前の小林監督の佐藤選手への評価は「活動量もあって、攻守の切り替えが速くて良い選手。でも、周囲との連係が足りないんだよね」でした。そして開幕戦後に再び話を聞いた時は「不十分だと思っていた連係も良かったから驚いたね」という評価に変わっていました。連係アップを図るために努めたことは?

連係を深めるためにはコミュニケーションというものはもちろん大事ですけど、一番は僕自身が周囲をしっかりと見ることだと思ったんです。ボールを受ける前に、もう一人のフォワード、サイドハーフの2人とボランチの2人の5人を少なくとも見ておかないと、相手の対応を上回ることができません。もし2人の位置しか見ていなかったら、1つの選択肢を相手に消されたら残りは1つ、当然、そこも相手は警戒しているから、自分一人で何とか打開しなくてはいけない状況に追い込まれるんです。もちろん個人での打開力も身につけなければいけませんが、複数の選択肢を確保しておくことで、個人での打開がしやすくなりますし、3つ、4つの選択肢を持つことでチームとして表現する攻撃のパワーは段違いのものになるんです。

―もう、5人を見ることができるレベルに到達しましたか?

全然です。今日もできなかった、今日は少しできた、まだまだそんなレベルです。

―なかなかうまくいかない状況に焦りや落胆は?

いいえ、「まだできないこと」を反省するのが楽しいんです。

―楽しい?

できないことがある。でも、それができるようになれば僕はもっと良い選手になれるんだろう、そう考えます。「身体能力がないからできないこと」は、たとえ努力をしても、できるようになるのは難しいこと。でも、「身体能力以外の部分を改善することで、できるようになること」ってたくさんある。だから、「できないことがある、ということは、成長できる可能性や伸びしろがある」ということでもある、と理解しているんです。だから、できなくても、楽しく、ワクワクしていられるんです。そういう考え方なので今は、もっとゲームの時間を増やしてほしいとか、なんなら毎日2部練習でもいい、と思っているくらいです。

―今季も佐藤選手をはじめ大卒ルーキーがたくさん加入しましたし、昨年も同じく大卒ルーキーが加入していて、今のギラヴァンツ北九州は非常に若いチームと言えます。他チームでのプレー経験がないので比較は難しいと思いますが、今のチームに若さを感じる部分はありますか?

ほかのJクラブの練習に参加させてもらったことがあるので、ある程度の比較はできます。その上で若さを感じます。それは活動量の多さです。僕の特徴の一つが、その活動量なので、活動量が武器となるギラヴァンツ北九州でプレーすることは僕にとってもプラスに働くと思いますし、加入の決断にもなりました。

―逆に素晴らしい中堅、ベテラン選手も揃っています。

おっしゃる通りです。池元さん、岡村さん、加藤さん、國分さんたちは、僕に足らない部分を気づかせてくれる大事な先輩です。自分に足りなくて、できなくて悩んでいることを改善するためのアドバイスを本当に細かく教えてくれるんです。そうしてもらっているうちに、「こういう選手がいるからこそ、若手の選手もイキイキとしてできているんだろう」と理解することができました。

―しかし、たくさんのアドバイスをもらうと頭の中が混乱するのでは?

これだけは譲れない部分、というものをしっかり把握していれば混乱はしません。

―譲れない部分とは?

ボールを受ける前に何回も動き直しをしているし、背後のスペースには何回も飛び出している。そこは僕の売りなんです。それがあるからここにいるんだと思いますし、それはこれから試合に出るためのアピール材料にもなると思います。そこはしっかり表現しながら、例えば池元さんのように1タッチ、2タッチでボールを動かしながら相手のマークをかわすとか、シュート技術とか、僕に足らないものをアドバイスによって高めていくという考えでいるんです。もちろん練習後のアドバイスだけではなく、練習中に盗む、ということもしています。

―盗む楽しさってあるんですか?

それはもう。特に僕に足らないものをたくさん持っている池元さんのプレーを近くで見て、覚えて、自分で試す。それは本当に楽しいんです。池元さんは、生きた教材です。

―いま、オフの時間はどう過ごしていますか?

同期、後輩とご飯に行く……、というより、今は区役所、税務署などの役所関係に行くのに忙しいですね。あとは車選び、ですね。

―新車を狙って? いつまでに決める?

まずは中古車を。しばらく乗ってから本当にほしい新車を選ぶ作戦です。期限は決めていなくて、なんなら当分、仲間に頼らせてもらってもいいかなと思っているくらいです(笑)。

―ほかのチームのサッカーの試合を見ることは?

最近、ようやくDAZNで。大学時代はWi-Fiも持っていないからDAZNにも入っていなかったのでほとんど見ていなかったんです。

―ネット環境を整えようとは思わなかった?

Wi-Fiもほしいし、DAZNにも入りたかったんですけど、大学でお金がかかっていたので、そんな贅沢をしたくなかったんです。

―今もその倹約精神は続いている? プロになって自分で稼ぐようになったわけだから、贅沢も許されるのでは?

倹約は続いています。自分で稼ぐようになったからこそ、使うのがもったいないと思うようになっちゃって(笑)。

―最後に今季の個人的な目標を。

すべての試合で先発すること。二けた得点を取ること。あとは、この世界に来たのも子どもたちにだけではなく、いろいろな人たちに自分を知ってもらって、見てもらって、それで次の活力にしてほしいという思いがあったからです。仕事や学校生活を送る中で起こることは良いことばかりじゃないと思うので、苦しかったり、悲しかったり、悩んでいる時に、週末の試合を見て、あるいはメディアに出ている自分を見て、「佐藤亮選手が頑張っているから自分も頑張ろう」とか「佐藤亮選手を週末に見るために仕事を頑張ろう」と思ってもらえるくらいの選手になりたいんです。

文・島田徹 写真・筒井剛史

(次回『シマダノメ 深掘りインタビュー Season2』の第3回目は3月下旬にアップ予定。登場する人物は? お楽しみに!)

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