SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ
深掘りインタビュー!第12回
高橋拓也選手
『シマダノメ 深掘りインタビュー』の第12回目は、神奈川県横須賀市生まれ、ギラヴァンツ北九州在籍3年目のGK高橋拓也選手の登場です。冷静沈着な分析家に、今季ここまでのチームの戦いぶりと自身のプレー、リーグ後半の見どころ、そして、観戦時にキーパーのプレーをどのように楽しむべきかなどを深掘り。きっと「なるほど~!」とうなずいてしまう新たな発見と解釈のあるインタビューとなっているはずです!(取材日=2019年8月22日)。
―このインタビューは第20節を終えて入った約2週間のリーグ中断期間中に行っていますので、ここまでのチームの戦いぶりをどのように見ているかをお聞きかせください。
僕で大丈夫ですか?監督にお聞きになった方がいいと思うのですが……、でも、分かりました。えらそうに聞こえないように注意してお話させていただきます!
―ではまず、開幕4連勝について。
今季は監督、そして選手も大幅に入れ替わって、しかもプロ1年目の選手がたくさん加入したこともあって、未知数の部分がありました。そして、プレシーズンマッチではあまり勝てなかったし、失点が多くて不安感が大きかったのですが、一方で内容面では手ごたえを感じる部分もありました。ということで、開幕前はどちらかと言うと、半信半疑の状態。でも、開幕戦でFC東京U-23に2-0で勝ち、そのまま開幕4連勝できたことで、そこまでやってきたことに関して「うん、これでいいんだ」という自信を持つことができたんです。
―しかも開幕から3試合は無失点に抑えました。
あの時期は、今のボールを握って相手を押し込む展開ではなく、どちらかと言うと、耐える時間が長かった。例えば第3節のガンバ大阪U-23戦は16本もシュートを打たれたのに失点はゼロ。攻め込まれてシュートをたくさん打たれている時は本当に危ないスペースをみんなで消すことができているし、味方の選手との距離感も近いので、カバーの質も高いし、ボールにしっかり寄せることができている分、フィールドプレーヤーのシュートブロックが決まる確率も上がる。そうやって本当に危険なシュートコースというものを消すことができているので、僕のセーブ率も上がってくる。そういう展開がその3試合の内情だと言えます。一方で、例えば第14節のいわてグルージャ盛岡戦はシュート4本で2点を失った。その2試合を比べた時に、無失点勝利のガンバ戦の方に価値がある、という見方もあるのかもしれませんが、今年のギラヴァンツ北九州の戦い方からしたら、その評価が必ずしも正しいとは言えない、と僕は思っています。
―どういうことでしょうか?
今季のギラヴァンツ北九州は、前から相手ボールを奪いに行って、高い位置でボールをキープして相手を押し込む、アグレッシブで能動的なサッカーを目指して準備してきました。だから、相手に押し込まれて耐えながらつかんできた開幕4連勝を手放しで喜ぶことはできなかったんです。シーズンのスタートだから勝つことはとても大事で、実際に内容的には芳しくなくても勝利を重ねることで勢いと、特に若い選手は自信を手にしましたし、新しいチームとして発するエネルギーを外から見ている人に感じてもらうには良い機会になったとは思います。でも、僕を含めて多くの選手は確信めいたものを感じることはできず、だから、もっと相手を押し込むためには何が必要か、どうすべきかを選手間で頻繁に話し合った時期でもあります。
―第6節のアスルクラロ沼津戦が今季初の敗戦となりました。
沼津はJ3の中で一番相手の嫌がることをしてくるチームだと個人的には思っています。相手の背後にしつこくボールを入れてくる、あるいは相手ボールに対して粘り強くプレスをかけてくる。かと思えば、割り切った守備をする時もあって、5-4-1のシステムを組んで、こちらがいくら揺さぶりを掛けても動じない、慌てない、完全に引き込んで対応しようとする。そんな嫌らしいチームにセットプレーから1点目、クリアミスを拾われ追加点を決められて前半だけで2点を失いました。2点のビハインドを追うのは今季初めての展開でしたが、結果、引かれた相手を崩し切れずにそのまま0-2で負けました。シーズン最初の敗戦は確かに悔しかったのですが、じゃあ、引かれた時にどうすれば崩せるのか、そこを真剣に考えてレベルアップしようとする姿勢が生まれたのは、この試合がきっかけになりましたし、その後、第10節の熊本戦で負けた時に敗戦を教訓にしようという雰囲気に自然となれたのも、そして今季ここまで連敗がないのは、あの沼津戦があったからです。小林監督が負けた試合の後に、敗因でもある改善点を挙げた上で「それがチームにある伸びしろだ」と言ってくれますし、同時にその負け試合で良かった点も挙げて、それをさらにパワーアップするためにどうすべきかを明確にしてくれるので、僕ら選手は前向きな考えや姿勢でいられる。それが今季の一つの特徴である『敗戦後の成長』につながっているんだと思います。
―熊本戦の話が出てきました。今季最初の九州ダービーでしたが1-2で負けました。
負けて言うのも何ですが、今季ここまでで一番内容的には良かった試合だと思います。熊本も真っ向からウチに勝負を挑んできたので、ウチが前向きな、高い位置でのサッカーを実践できた試合です。向こうが前からかけてきた圧力以上の圧力をウチが掛けたことで主導権を握ることができた。ただ、内容に伴う結果を出せなかったのは僕のせいです。実はあの試合、いつものようにキックオフ直前にピッチに水を撒くことをしなかった。しかも風が強かったので、すでに芝に含まれていた水分が乾き切っていたので、序盤にあったロングボールのバウンドの予測を見誤ってしまい、ゴールを決められました。そのことを含めて、あの敗戦から学ぶことは多かった。あれだけ攻め込むと最終ラインの裏のスペースが空くので、その対応をどうしようか、どうやってカウンターに対処しようか、とディフェンスラインの選手と話し合いをしましたし、押し込んでいる中で確実にゴールを挙げるために何が必要かをチーム全体で話すようになりました。さっきも話したように、この熊本戦もチームを一段階成長させた試合だと言えます。
―開幕からここまでの戦いぶりを踏まえて、リーグ再開後にチームのどんなところをサポーターの皆さんに楽しんでほしいですか?
序盤の良いスタートで自信をつかんで内容的にもレベルアップしたけれども、今度はその勢いを削ごうとする相手が用意周到に練ってくる策に抑えられる格好となった。それがここまでの流れだと思うんです。もちろん、そのパワーというのは当初の狙い通り、攻撃の部分でのパワーアップです。しっかりと組まれた守備ブロックをいかにして崩して、押し込んでいる時間に比例する得点数としていくか、です。
―リーグ前半戦終盤には失点が増えましたが、その解決策は?
失点は少ないに越したことはないんです。だからと言って、「ゴール前に人数を割いて守ろう」とはならないのが今季のギラヴァンツ北九州です。なら、どうやって失点を抑えるのか。その答えは、「攻撃力をさらに上げる」です。ボールを握る時間を増やすことは、相手の攻撃の時間を少なくするということ。そうすれば失点の可能性も下がる。その上で、こちらが押し込んでいる時にしっかりゴールを奪えば、落ち着いて試合を運べるし、そこで余裕が生まれれば追加点やダメ押しゴールにまでつながり、そうなれば相手の戦闘意欲も失われ、失点の可能性は限りなくゼロに近づいていく。それはあくまでも理想ですが、その形に近づくように努力することが大事だと思いますし、そのために僕を含めた守備陣は、いかに攻撃に貢献できるか、というところを、いかにして守るのか、と同じくらいに真剣に考え、そして意識してプレーしなければいけないのです。
―ではそろそろ個人の話を。去年と今年でチームスタイルは変わりましたが、それが高橋選手のプレーにどんな影響を及ぼしましたか?
今年のチームのスタイルと、僕個人が強みとするスタイルが合致している部分があって、チームが成長し、強くなればなるほど、僕が得意とするようなプレーが、キーパーには求められると思っています。具体的に言うと、攻撃的に出ると最終ラインは高くなるので、そこにできたスペースのカバー、あるいはビルドアップの時のパスとかですね。つまり今のチームスタイルは僕のストロングポイントを出しやすいものだということです。
―今季はビルドアップ時の高橋選手の動きはとても激しいですよね?
ウチのディフェンスラインのビルドアップにはいくつかの形があって、それに合わせて自分のポジションは変えなければならないし、ビルドアップしている時の相手のプレスのかけ方によってポジションを変える必要があり、その都度、正しいポジションというものが変化していくので、動き自体は増えるんです。小林監督からは「相手がプレッシャーをかけづらい位置に動け」「次のパスコースが見える、つくれる位置に動け」と言われていて、それはこれまであまりやったことがなかったので、そうすることで見える景色がまったく違ったものになりました。それがやっていて面白い。今、おっしゃったように、激しく動いているのは、その正しいポジションを探しながら動いている、つまりバタついているからで、これがもっとレベルが上がってくると、効率よく、目立たない動きで的確なポジションが取れるはずです。でも、ボールを受ける前のポジショニングに関しては僕だけではなく、ほかの選手もかなり意識しているし、そこに面白さを感じているし、だからチーム全体としてボールがスムーズに動かせるようになってきたんでしょう。
―今季ここまでで個人的に悔しい思いをした試合、敗戦はありましたか?
さっきも話に出ましたが、熊本戦ですね。心に残る試合。自分が壊してしまった、という思いがあって、精神的に強い負荷がかかったゲームです。
―そもそもポジション柄、かなりの精神的負荷がかかってくるのがキーパーです。その負荷に対する防御態勢というか、その負荷の逃がし方は個人で異なると思いますが、高橋選手の場合は?
世界的な選手でも、代表選手でも、J1で長くプレーを積んだキーパーでも、ミスというのは起こってしまうもの。もちろんノーミスでチームのピンチを救い続けるという理想を追い求めてレベルアップには努めるのですが、『誰にでもミスは起こり得る』ということを自分自身でしっかり理解することがまずは大事。そして、起きてしまったミスを引きずらず気持ちを切り替えることも大事な場合もありますが、ミスした時と同じ現象、場面を繰り返し練習して二度と同じミスを犯さないようにすることの方がもっと大事だと僕は考えています。「もう忘れて気持ちを切り替えよう」ではなく、気が済むまで向き合って納得しないと前に進めないのが僕なんです。
―明るい性格なので、素早く気持ちを切り替えるタイプだろうと思っていました。
いやいや全然です。ミスした翌日なんてかなりの落ち込みようです。だから熊本戦の翌日なんて、もう……。北九州にきて今年で3年目ですが、去年までは自分の致命的なミスというのはあまりなかったところで、あの熊本戦があったので、本当に落ち込んで。ここで精神的に崩れてしまったら、あるいはまた同じミスをしてしまったら、自分のキャリアも終わってしまうかもしれない、と本気で思ったので、何とか立ち直らなきゃ、そして同じミスを繰り返さないようにしなきゃ、と考えて、これまで以上に、本気でミスに向き合ったんです。
―あの熊本戦は高橋選手にとって、大ごとだったんですね?
大ごとですよ!でもメディアの皆さんがお優しいんでしょう、あの熊本戦のどの記事を読んでも見ても僕を批判するものは見当たりませんでした。だから忘れようと思えば、忘れられたかもしれないのですが、責任というものもありますから、僕はミスにちゃんと向き合い、前を向いた状態をつくって、次の試合は何が何でも無失点で終わらせるんだ、という思いで準備に入りました。
―それで熊本戦の次のYS横浜戦はきっちり2-0の勝利、と。では、うれしい勝利、あるいは満足のできるプレーというのがあれば教えてください。
富山戦(第18節、1-1のドロー)の後半半ば、左サイドを崩されて折り返され、ニアの選手が後方に落としたボールを(前嶋洋太選手に)至近距離から打たれたシュートに対して僕が手に当てて、ボールがクロスバーに当たって外に出たシーンがあったのですが、あれは良い対応ができたなと思います。相手はフリーの状態で思い切り足を振り抜いて、キーパーにしたら一番手が出にくい頭の上にシュートを飛ばしてきたのですが、それに対して先に動くのではなく、最後まで我慢して、そのうえでスッと手が出て指先で当てることができた。恐らく見ている人は触ってないように見えたと思いますが、あれ、指先で触ってるんです!あの瞬間的な反応は日々のトレーニングの賜物だと自分には言い聞かせています。
―そういう自分でも驚くような反応をするには、メンタルも影響してきますか?
だと、思います。止めなきゃという気持ちが強過ぎると、前に出て行き過ぎたり、我慢できずに先に動いてしまったり、ということになりますからね。状況を見極める冷静さって大事になるんです。富山戦のその場面もそうで、シューターがボールを持った時にボールが少し浮いたんです。だから、ボレーに近い形のシュートで、思い切り足を振り抜いたらこのくらいのところにボールが飛んでくるんじゃないかというイメージが一瞬湧いて、それで反応することができたんですよね。
―イメージって大切なんですね。
もちろん大切ですけど、そこに頼り切ると相手に裏を突かれることにもなるので、イメージしながら、最後の最後は体が自然に反応する、というのが僕の場合はベストだと思います。
―今の話にもつながりますが、キーパーの「ここを見てほしい」という側面でお話をしていただければ。
いろいろあり過ぎて困りますが、では一つ。キーパーがセーブしようと動き、でも失点した時に「あれはシュートが良かった。(止めに動いたキーパーにとって)ノーチャンスだったよ」と、慰めも含めて語られることがあります。でも、止めるチャンスがまったくないシュートなんてない、というのが僕の考え。ノーチャンスに見える時、それはキーパーがポジショニングでミスしている時なんです。例えば右45度からドリブルでカットインされて右足インサイドのカーブでファーサイドに決められることがよくありますよね?あの時、キーパーがポジションを前に取ると、シューター側からしたら奥行きが生まれて、キーパーの手が届かないコースができているんです。つまり、キーパー自らがノーチャンスに見えるシュートコースをつくってしまったということ。もし、前に出ず、低いポジショニングを取っていれば、曲がってくるボールには十分に反応できるはずなんです。
―なるほど。簡単な処理にこそファインプレーがある、と?
僕も去年、ダゾーンの「週間ベストセーブ」に選ばれたことがあるのですが、そのうちのいくつかはポジショニングが悪いから派手なセービングになって、それで選ばれたんだなと思うものがありました。だから、僕的には複雑というか。地味に見えるけれども失点数が少ないキーパーというのが優秀なキーパーだと僕は思っていて、例えば、リバプールのアリソン・ベッカー選手(ブラジル代表)やアトレティコ・マドリードのヤン・オブラク選手(スロベニア代表)などが、そうですが、彼らが無失点に抑えることが多いのはポジショニングが良いから。僕は2人のプレーがすごいと思うし、大いに学ばせてもらっています。
―Jリーグの公式ホームページにある高橋選手の個人データを見ると、『ペナルティーエリア外シュートセーブ率』が100パーセントで、J3リーグで1位となっています!解説を。
ペナルティーエリア外からのシュートでゴールを奪われていない、というデータです。理由の第一はチームのディフェンスが良いからです。もし、自分に何かあるとすれば、先ほどから話しているポジショニングですかね。というのも、実は去年は今年と違って、ペナルティーエリア外からのものを中心にスーパーゴールと言われるものを結構決められていて、その原因のすべてではないだろうけれども、自分のポジショニングに問題があるのではないかと、上杉哲平GKコーチと一緒に分析して今季は改善に取り組みました。良いポジショニングを取ることで、まずはすべてのシュートに対してストップできる可能性をつくる。そうすると、自分の中にあるステップや反応の速さを生かせるのではないか、と。同時に、先ほども言いましたが、止めてやろうという気持ちが強過ぎるとどうしてもポジションが前になるので、メンタルコントロールもあわせて意識するように。上杉コーチと一緒になってのその取り組みの成果は数値にも表れていますし、実感しているところです。
―高橋選手は第20節のガンバ大阪U-23戦でJ3での試合出場が121試合となりました。すべてJ3でのプレーということで、上のステージでプレーしたいという意欲ももちろんありますよね?
それは当然。そして、このギラヴァンツ北九州の一員として上がりたい、という気持ちが強いんです。特に去年、苦しい状態でも励まされ、応援していただいたのが大きかったですね。それで北九州という街、クラブ、ミクスタにものすごい愛着が湧いちゃいましたから!このチームで上のステージに登っていく、それってすごく価値のある経験になると思いますね。リーグ後半戦、チームとしても個人としても、もう一段ギアを上げて行きますので、期待してください!
文・島田徹 写真・筒井剛史
(次回シマダノメ『深掘りインタビュー』の第13回目は9月中旬にアップ予定。登場する人物は?お楽しみに!)
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