SHIMADANOMEシマダノメ

シマダノメ Season6
第4回 深掘りインタビュー
牛之濵拓 選手

『シマダノメ 深堀りインタビュー』のSeason6第4回目に登場するのは、今季新戦力の一人である牛之濵拓選手です。7月14日に32歳に、ベテランと呼ばれる域に入りつつありますが、ピッチで見せるプレーは常に若手選手以上にハツラツとしたものです。明るくムードメーカーでもある牛之濵選手のエネルギーの源を深掘りしてきました(取材日/7月10日)。

―今季リーグ戦、ここまでのご自身のパフォーマンスをどう捉えていますか(取材時で19試合出場1得点)。

まず数字の所では全然物足りません。そこをもっと伸ばさないといけないと感じています。これまでアシストと得点で結果を残すことでどうにか生き残ってきたと自分自身では思っています。今年は新しいチームに来たわけですが、それを数字が残せない言い訳にはできませんからね。シーズン後半戦はしっかり数字としての結果が残せるようにしていくつもりです。

―ここまでのチームの戦いぶりをどう見ていますか?

シーズン序盤はいろいろと試行錯誤しながら、もともとあった粘り強さに加えて勝ち切るということができるようになり、今はすごく良い流れの中にあるんじゃないかと思います。ここからの後半戦は攻撃面で、みんなでアイディアを出し、それをピッチで表現して得点につなげていく。そうして自分もチームもより上に上がって行きたいなと思っています。

―去年はガイナーレ鳥取でプレーして、リーグ戦では計9ゴールを挙げました。今年のゴール数がそこまで伸びていない理由を挙げるとしたら?

去年も初得点まで8試合ほどかかり、その後に調子よく取れて、そのあとにまたしばらく取れない時期が続くという感じでした。先ほど言い訳にはしたくないとは言いましたが、やはり新しいチームでプレーするようになると、チームのスタイルを表現することや仲間との連係づくりというところに意識が傾くものです。その中で自分の持ち味である得点に向けてどうプレーしていくかを探っていくのに今季は少し時間がかかっているのかもしれませんね。

―チームメートが牛之濵選手の生かした方を理解する、それをピッチで表現できるようになるのに時間を要している、ということも理由かもしれませんね。

そこは自分からもっと発信して理解してもらえるように、生かしてもらえるような努力が必要だったし、これからもそこに意識は向けたいと思っています。

―シーズン序盤はチームとしていかに攻撃を組み立てるか、いかにしてチャンスをつくるのかのトライが続きました。

でも、チームとして得点チャンスをうまくつくれなかったことを僕の得点が少ない理由にはしたくありません。実際に僕には得点チャンスがありましたし、そこで決め切れていればチームとしての勝点をもっと伸ばすこともできたし、僕自身も得点を重ねられていたはず。やはり思うように得点を取れていないのは個人に課題があるからです。そこに目を向けなければ、と思っています。

―去年と今年で個人的な意味での「やりがい」に違いがありますか?

自身の特徴をしっかり出しながらチームとして勝つ、その勝利をファン、サポーターと喜び合う。それがやりがい。そこは変わりません。でも去年は金鐘成さん(キン・ジョンソン、現FC琉球監督)とマスさん(増本浩平監督)の下でプレーしながら、「自分はこういうプレーヤーだよな」という感覚をもう一度取り戻すことができたシーズンでしたし、そう思えることにやりがいを感じていました。今年は僕の縁のある地、福岡県のチームでプレーできるチャンスをいただき、ここで必要とされる選手になりたいと思いますし、地元にいることで生まれるそういうパワーを感じながら期待に応える。そういうところにやりがいを感じながらプレーしています。

―今のお話を聞くと、去年は個人によりフォーカスしていたシーズン。今年は新チームの中でベテランですし、チームを優先してシーズンをスタートさせたんじゃないかと感じるところがあります。

常に個人として点を取りたいとかの思いは持ちながら、でも確かに今年は去年の最下位という結果からのスタートで、チャレンジャーとして一つずつ上に上がっていくという思いが強いチームなので、自ずとそういうところに意識が向いていたのかもしれません。自分としてはやっていることは同じですが、年齢的な立場もあって少しチーム全体を見ながら、という意識が生まれているのかもしれません。でも、やっぱりチームのことは考えながら、でも個人としての結果もしっかり残さなければいけない。そこは最近、強く思っているところです。

―今季は第12節までで2勝しかできない苦しいスタートとなりました。そこで牛之濵選手は何を、どう感じ、考えていましたか?

いつも思うことですが、勝つことは本当に難しい。それを改めて感じる時期でした。しかし、勝利数は伸びませんでしたが、大宮アルディージャなど強敵相手に引き分けることもできました。それは粘り強く守ることができていたからだと思うのですが、そこは今のチームの自信の元というか、粘り強く戦えば1-0の勝利に手が届くという感覚、そのためにハードワークは絶対に外したらダメだよね、という認識を選手みんなが持つようになった、とても大事な時期でもあったように思います。結果的に勝利数は伸びませんでしたが、勝つという成功体験を重ねることでこのチームは伸びるという感覚が僕自身にもあったので、何とか勝利につなげる、そのために目の前の1試合に集中する、そんな思いを強く持ちながらの序盤戦でした。

―今は好調です。そういう時期に自分は何をすべきだと考えているのでしょうか?

チームの調子が良い時は、みんなの判断も良くなっていき、良い結果につながります。でも、少しでも手を抜いてしまったら、また序盤のように苦しい状態に戻ることになる。だから、手を抜かないような雰囲気はつくりたいと思います。一方で、僕自身もみんながつくりだした良い流れにしっかりと乗りたい、という思いも強くあります。

―第17節・奈良クラブ戦、第19節・福島ユナイテッドFC戦、第20節・ガイナーレ鳥取戦と複数得点を挙げました。これはチームの課題である得点力向上に手ごたえが出てきたと言える状況です。チームとして効果的な攻撃を仕掛けることができるようになってくると、牛之濵選手の攻撃面でのストロングポイントも出しやすい状況になるのでは?

そうですね。自分が1人で局面を打開してゴールまで奪える選手であればいいのですが、残念ながらそうではありません(笑)。去年もそういうゴールはほとんどありませんでした。やはり僕は周りの選手に「こういう時は、こんなボールが欲しい」と伝え、また逆に仲間からそういう意志を示されて僕がそれに応じたプレーをする。そういう循環ができて初めて僕はゴールを奪える。そういう選手だと思っています。

―コミュニケ―ションが大事。

周りとのコミュニケーション、連動が僕のプレーの肝になるんです。もちろん今年も自分のことを早く周囲に知ってもらえるように努めたつもりでしたが不十分だったということ。ここからはもっとそういう部分を意識したい。みんなと連動することでゴール前までボールを運ぶことができた時に、僕自身がもっと思い切りの良いプレーを選択できれば、アシストやゴールという結果につなげることができるんじゃないかとも考えています。

―サッカーをプレーしている時の一番の喜びは?

勝利を味方とファン、サポーターとともに喜ぶ。そこですね。

―では個人的に快感を覚える時は?

ゴールを決めた時ですね。何物にも代えがたい喜び、快感。それで勝てばさらに良い。

―アシストよりもゴール?

アシストももちろんうれしい。でもやっぱりゴール。

―自分のプレースタイルを今後変えようと考えますか? あるいはすでに変化が出ているのか?

昔と比べれば、段々と変わっているのかもしれませんが、大きく変えようとは思いません。でも、その時々で必要なモノを獲得したいとは思っていますし、チャレンジしています。できなくなることも出てくるのかもしれませんが、それを越える新しいモノを手にできればうれしいですよね。

―例えば少しポジションを下げてボランチでプレーしてみるとか?

僕は『ザ・サイドハーフ』ですから! フォワード? ボランチ? 想像できません。常に“シャカシャカ”していくんじゃないですか?

―『シャカシャカ』とは?

鳥取でチームメートだった普光院誠選手に「今日の試合もシャカシャカしていましたね」とはよく言われました。サイドで落ち着きなく細かく動きながらプレーすることを『シャカシャカ』と言うんだろうな、僕のようなプレースタイルを表現する言葉なんだろうなと理解しています。

―先ほど新しいモノを獲得する、という話が出ましたが、例えばどういうモノでしょうか?

具体的にコレというものではなくて、意識しながらいつの間にかできるようになったボールの受け方、ターンの仕方、あるいは判断。できなかったことができるようになる、そういう感覚のモノです。なんでこれができなかったんだろうって思うことが毎日のようにあるのですが、それを意識しながらプレーをしていて、それがある日、無意識のうちにできるようになった。それが新しいモノの獲得。だから僕なんてできないことがまだまだ山ほどあるので、新しいモノを手にするチャンスも山ほどあるってこと。

―新しいモノの獲得は苦手の克服とは違う?

得意なモノをより精度の高いモノにする、という感覚ですね。もっとうまくなれるんじゃないかという期待を自分にかけているので、苦手なモノを得意なモノへと変えるのはとても難しいことなので、得意なモノをさらに磨きをかけることに労力を割きたいと考えています。ただ、自分への期待はありますが、なかなか精度の高いモノへと変えることができず打ちのめされることもしばしばです。

―まだ打ちのめされることがあるんですか?

そりゃそうですよ、ミスばっかりですから。でも、僕だけじゃないと思いますよ。サッカー選手はみんな毎日、打ちのめされているんじゃないかなぁ。だから、打ちのめされても立ち上がる強いメンタルが必要なんですよ。例えばミスした後に良いプレーができる選手って相当にメンタルが強い。そういうメンタルを持っている選手が新しいモノの獲得を重ねて良い選手へ成長できると思っているので、僕も毎日打ちのめされていますが、へこたれないようにしています。

―チーム内ではイジられキャラのようですね?

チーム内で、というより僕の人生そのものが“イジラレ”です、小さいころから。でも訂正したいのは、僕の中ではイジられているのではなく、イジらせてあげている。「イジられキャラ」ではなく「イジらせキャラ」、みなさんの認識をそう訂正してください。僕もチームメートのことをよくイジっています、だからイジられることからも逃げません。堂々と、イジられています。

―それは接しやすい人間だということでは?

そこはよく分かりません。ただ単にナメられているだけかもしれません。

―後輩からイジられて怒ることは?

さすがに一線を越えてイジってくる後輩は、まだいません(笑)。

―増本監督との関係について。

まず、僕がイジられキャラだと公に発表したのはマスさんでした。だから僕はそこを期待されての加入だったんだなと(笑)。でも、そういうことを言ってくれるフランクな関係であることは事実です。鳥取で出会って、マスさんの志向するサッカースタイルは僕が生きるモノでもあります。その監督ともう一度、やるチャンスが、しかも地元のチームで、その点から、ここでマスさんのために、という気持ちが強くあります。

―牛之濵選手から見て増本監督は戦術家ですか、優れたモチベーターですか?

戦術家でありモチベーターだと思います。相手の分析は鋭くそれに基づいた戦術を提供して僕らのプレーをしやすくしてくれますし、異なる視点からの提示もしてくれます。そして、心を奮い立たせてくれる熱い言葉も口にします。すごくバランスが良い監督だなと感じます。

―練習後にクラブハウスのロビーや海が見えるテラスで山脇樺織選手がいれるコーヒーをみなさんで楽しむ、くつろぎタイムがありますね。いわゆる山脇カフェですが。

去年鳥取にいた時にクラブハウス内にラウンジがあって、そこで田中恵太選手がいれてくれたコーヒーをみんなで楽しみました。そこで選手同士が良いコミュニケーションが取れたという経験があったので、ここでもできないかなと考えていました。北九州に来てみたら、こんなに良いロケーションのクラブハウスでしたし、カオル(山脇選手)がちょうどコーヒーに凝り出したころだったので「入れてよ」と言ったらカオルもオーケーしてくれて始まりました。

―山脇カフェの発案者は牛之濵選手ということですね?

そういうことになりますね。たぶん。

―コーヒー豆の購入代金は?

みんなで折半しています。最近は新加入選手も増えてきました。例えばハセ(長谷川光基選手)とか。いつもいるのはコウヘイさん(喜山康平選手)、ハルキ(井澤春輝選手)、前田(絋基選手)、アサヒさん(矢田旭選手)。時々、リンペイ(岡野凜平選手)、リュウキ(平原隆暉選手)ですかね。

―当初からのメンバーに大人しいイメージがある前田選手が入っているのが少し意外でした。

そうですか? 彼は牛之濵軍団ですから、いて当然。本人はそう言われるのを嫌がっているかもしれないけど(笑)。

―牛之濵軍団の他のメンバーは?

今のところ前田だけです(笑)。

―山脇カフェは今季のチームのまとまりを象徴する場だと思います。牛之濵選手はチームをまとめようとの意識があるのでしょうか?

鳥取でも「すぐに回したがる」と言われましたが、僕としてはただみんなと話したいだけ。まとめることはできません、ただ雑談はできます、好きです。

―改めて牛之濵選手のストロングポイントとは何でしょうか?

僕はサイドハーフとして、ハードワークなどチームスタイルの根源となる部分をしっかりと表現した上で、ゴール前でチャンスをつくり、また「サイドハーフなのによくゴールを決めるよね」と言われるようなプレーをすることが自分の価値だと思っています。

―牛之濵選手がボールを持つと、グループとしての前への推進力が生まれるように思います。

みんな僕と良い距離感を持ってサポートしてくれる。僕もまた常に味方を探し、一度味方に預けてもう一度受け直すことで自分のプレーリズムをつくっていくタイプなので、僕がプレーするエリアではグループとして前に進んでいくという場面が多くなるのかもしれません。

―そういうスタイルでプレーするためにボールタッチはなるべく少なめにするという意識を持っているのでしょうか?

いいえ、自分がドリブルで仕掛ける、という意識も持っています。そういう姿勢がないと、仲間との連携プレーも生きてこない。でも、自分がボールを持ち過ぎてもグループとしての良いテンポは生まれないので、そこのバランスは非常に難しいところです。常に、もっと自分が仕掛けたらよかったな、あるいはもっと早く味方に預けるべきだったという反省をしています。自分の判断に関する反省は常に出てきます。

―牛之濱選手のように経験豊富な選手でも?

めちゃくちゃ反省します。判断の間違いは常にあって、正しい判断を下せることが多ければ得点もアシストももっと増えるでしょう。いずれにしてもゴール前で味方をうまく使い、自分も使われながらチャンスをつくり得点へつなげる。それが僕の特徴だと思います。

―シーズン後半戦でチームとしてやるべきことは何でしょうか?

前半戦の終盤で調子を上げて「上を見ても良い位置」につけることができました。そうなると当然、J2昇格を意識するようになる。その目標に向かって進むためには、増本監督も話していますが、先制点を取って、追加点を取って、なおかつ無失点で抑える、という本当に強いチームの勝ち方ができるようになることが必要になります。そうなりたいし、そのために自分が何をするべきかをもっと細かく考えて実行に移したい。

―個人的にレベルアップしたいのは、先ほどお話ししていた判断の質でしょうか?

ゴール前で自分が打つべき時にパスを選ぶ。逆にパスを出した方が得点の可能性が高まる場面で自分が打つことをチョイスして外してしまう。そういう判断ミスを減らす、判断の精度を上げていきたいなと思います。

―第20節終了時点で8試合負けなしと好調ですが、このまま無敗でシーズンを終える可能性は低いと考えるのが当然でしょう。負けなしが長く続いたところで「ついに負けた」。そういうタイミングで何が起こるのか、というのは見る側としては少し不安になりますが。

調子が良い時には“見えなくなりがち”なのですが、調子が良くてもチームとして、あるいは個人としての課題は必ずあるものです。調子が良い時だからこそ、その課題に目を向けて日々の練習で改善に向かう。それができているから負けなしを続けることができているとも言えます。そういう努力、積み重ねをしてきたという自信があれば、ついに負ける時が来た時、あるいは昇格に向けたプレッシャーの中でなかなか勝利が挙げられない時期が来た時でも、前を向いて立ち上がれる。だから、負けた時にどうするかを考えるのではなく、その時のために常に課題に目を向けて克服に努めることが、その時が来た時の最も効果的な対策なんじゃないかなと思っています。

―増本監督からも「一喜一憂せずに」という言葉をよく聞きます。

そうですね。チームには波があるものですから、勢いがある時にはその勢いにしっかり乗り、苦しい時にはみんなで耐える。そうしてシーズン全体を通して見た時に「右肩上がりだったね」と言えるようにしようと、チーム内では話しています。

―7月14日に32歳。ベテランと呼ばれる年齢となったわけですが、20代の若い時と比べてサッカーへの向き合い方は変わりましたか?

常にサッカー中心の生活でしたが、サッカーで生活できていることの有難みは感じていますし、それをサポートしていただいた方への感謝の気持ちは大きくなっています。

―大きなケガも経験されたんですよね。

2020年の天皇杯・鹿屋体育大戦で右ヒザ前十字じん帯を断裂。それまで大きなケガがなかったので、その時に負傷離脱する選手の気持ちも理解できましたし、復帰してからなかなか結果を出せない苦しさも知りました。そこからまた点を取ることの喜びも知りました。そういうことがあっての今なので、有難さ、感謝の気持ちを持ちながらプレーしているというのは、若い時との比較で言えば、そこが違いかな、と。でも、まだ僕自身は若いと思っています。32歳ってベテランですかね? 確かにこのチームにおいては、年長の部類に入りますが、ベテランだという意識が自分の中で芽生えると守りに入ってしまうようで嫌なので、自分はまだ若い、まだ攻めるんだ、という気持ちでいたいと思っています。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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