SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』No.006
リーグ前半戦の終わり、第15節から第19節まで3分け2敗と、長く未勝利の状態が続きチームが苦しんだことは記憶に新しい。3週間のリーグ中断期間中に、その足踏み状態を振り返った小林伸二監督は「いま思えば、選手の足が動かない試合が続きましたね。天皇杯2回戦の神戸戦(7月3日/0-4敗戦)が水曜日にあって日程的に詰まったことを機に、また連日の厳しい暑さもあって選手に疲労がたまっていたんだと思います。それと、対戦相手がウチのやり方をかなり研究してきて、構えて守る方法を選んで臨んでくる中で、ウチがそのブロックをなかなか崩せなかった、というのが、大きかったと思います」と話した。
選手のコンディションについては中断期間中にうまく修正できたし、まだ暑さは残るがこれから秋に向かえば、足も自然と動くようになるはず。問題は研究し十分な対応を練ってくる相手の策をどうやって上回り、勝利につなげるかという点だ。この課題に対して小林監督は攻守における質の向上、パワーアップ、そして新しさが必要になると考えたようだ。中でもポイントになるのは、相手が対応するのに苦労するだけの“新しさ"をつくりだすこと。その手段の一つが北川柊斗選手、髙橋大悟選手、椿直起選手の獲得であり、そして、攻守でオプションを加えることだった。
新戦力加入の効果は、それぞれの選手自身の活躍によって前節のヴァンラーレ八戸戦ですぐに表れた。また、彼らがいることで、周囲の選手のかかわり方も変わるので、自然とこれまでとは異なる攻撃や守備の形が垣間見えた。そんな中、既存選手でありながら“新しさ"をチームにもたらしている選手がいる。7月に25歳となり、若いチームの中では中堅にあたるDF福森健太選手だ。
これまで右サイドバックを基本ポジションとしていた福森選手が、第20節のガンバ大阪U-23戦と前節の八戸戦でついたのは、左サイドバックだった。その起用理由について小林監督はこう話している。
「完全非公開だった鳥栖とのトレーニングマッチでケンタ(福森選手)は、チアゴ・アウベス選手に対して持ち前の1対1での強さを発揮してうまく抑えたんです。ちょうど、第19節の長野戦で(左サイドバックの)新井(博人)の裏のスペースを狙われていたこともあって、次のガンバ戦でケンタを左サイドに置いてみたんです」
守備のところを意識して福森選手を左サイドに置いたという小林監督だが、むしろ、右利きの選手を左サイドに置くことで表れる新しい変化への期待が高いようにも思える。それはこんな言葉からだった。
「例えば、右サイドハーフに新垣(貴之選手)やダイゴ(髙橋大悟選手)を置くと、縦にも抜けられるけど、内側にカットインして左足シュートを狙えるというふうに、選択肢が増えますよね。こちらの選択肢が増えるということは、相手からすれば2つの対応を頭に置きながらのプレーになるので、戸惑いが生まれるわけです。それと同じように、右利きのケンタを左サイドに置けば、ウチの選択肢は増え、相手は対応が難しくなるということです」
指揮官の言葉に福森選手自身が次のような言葉を添えてくれたので、こちらの理解も深まった。
「例えば、僕が左サイドでプレーする時、右隣りのテラさん(寺岡真弘選手)から横パスが来たとします。そこで僕が右足で受けようと構えるだけで、相手はイケさん(池元友樹選手)たちフォワードへダイレクトで斜めのパスが入る可能性も考えてポジションをとらなければならない。左利きの選手だと右から来たパスを斜め前方に出すことが非常に難しいので、相手は縦方向のパス、または縦突破の動きを抑えるためのポジショニングを取れば済む。もちろん、僕が左利きの選手と同じように左足でボールを受け、パスを出し、前に持ち出すことをしないと、相手も迷いませんけどね」
福森選手が左サイドバックでプレーした2試合、特に八戸戦でのプレーを振り返れば、意識的に左足でトラップし、前に持ち出し、また左足でキックする場面が多いことを確認できる。そして福森選手がそこにいることで、彼の前方にいる國分伸太郎選手のポジショニングも変わるし、そうすることで、さらにその前にいるフォワードが使えるスペースの位置も変わってくるということ。そういったさまざまな変化がつまりは、チームにとっての“新しさ"ということになる。
しかし、新しさをつくりだす作業というのは、口で言うほど簡単ではないようだ。福森選手は言う。
「自分のポジショニング、体の向きで相手の反応が変わることは確かなことなのですが、その分、相手のことをよく観察しなければならないし、その反応の後に、自分がどういうプレーを選択すべきか、まだやり慣れていない分、迷うこともたびたびです。そういう意味では、新しいチャレンジの成果はまだまだ出ていないとは思います。でも、とてもやりがいがあるトライだし、頭をフル回転させてピッチに立っていることが今は本当に楽しいんです」
付け加えるなら、福森選手の左サイドバック起用により、新井選手はポジションを失うことになるが、小林監督は「それがどうした?」という感じで軽い調子で言った。「この機会に新井は1対1の強さを身につければいいんですよ」。新たな新井選手が生まれれば、チームはまた新しさを手にすることができるということなんだろう。新井選手がそうなった時、今度は福森選手が……。この無限ループは考えるだけでワクワクしてくる。
まずは、ニュー・ケンタのプレーと、彼がチームにもたらす新しさを楽しむとしよう。
文:島田 徹
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