SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season5
第4回 深掘りインタビュー
本村武揚 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season5の第4回は6月20日に26歳の誕生日を迎えた本村武揚選手の登場です。今季は守備の主軸としてスタートするも、しばらく負傷により戦線を離脱。しかしリーグ戦4試合ぶりの先発となった第14節のガイナーレ鳥取戦でセンターバックとして無失点、12試合ぶりの勝利に貢献しました。北九州の一員となって3シーズン目となる今季に芽生えた牽引車としての自覚と、守備者としての技術を深掘りしてきました。(取材日/6月15日)。
―お母さんが有名だという話を聞いたのですが?
一昨年かな、開幕前のキャンプ時にチームでインスタライブをやったんですけど、その視聴者として僕のお母さんが入って来たので、僕が「あっ、母ちゃんだ」と言ったのを機に、「本ちゃんのお母さんが来たぁ~」というコメントがどんどん入って来て、それからサポーターの方々の間で有名になって。おととしチームにいた髙橋大悟とか生駒仁、去年までいた西村恭史は母ちゃんとSNSをフォローし合っているみたいですよ。周りからは「JK」と言われているみたいです。女子高生みたいにパワフルでノリがいいからでしょうね。
―お母さんもすべての試合で応援に駆けつける?
東京に住んでいるので、関東圏の試合だけ、です。
―どういうお母さんだったのですか?
ほめられたことはほとんどありません。サッカーを始めた時に「私はあなたが日本代表の青いユニホームを着るまではほめません」と言われて、それから本当にほめられたことがなくて。でも大学4年生の時にユニバーシアード代表に入って、そこで手にした、背中に「HOMMURA」と入った代表の青いユニホームを持って撮った写真を送った時に、初めてほめてくれました。
―最近、ほめられたことは?
ありません。ただ、「私も頑張るから、あなたも頑張りなさい」と。最近、フットサルをしていてヒザを痛めたみたいですけど(笑)。
―プレーに関していろいろと教えてあげることもできるのでは?
いや、逆に「教えてあげる。私ならこうするけど」って(笑)。小学生4年生の時に50メートル走で僕が負けたんですよ。母ちゃんは昔、陸上競技のハードルの選手だったみたいでね。そのことを今でも引きずって、「私、勝ち逃げしているから」と、まだマウントを取ろうとするんですよね。
―頼もしい味方がいるので、もっと頑張らないといけませんね! さて、去年のリーグ戦出場は20試合。うち先発は12試合でした。その実績を踏まえて今季はどういう気持ちでシーズンに入ったのでしょうか。
まず開幕スタメン。プロになってからまだ一度もできていなかったので。それと、去年、試合に少し絡んで自信もついていたので、今季は若手中心のチームになったこともあり、チームを引っ張っていきたい、そんな気持ちでシーズンに臨みました。とりあえず、開幕戦出場は果たしたのですが……。
―しばらくして戦線離脱。
昔から大事なところでケガをしてしまう傾向にあるんですよね。意気込んだ割にはそういうことになってしまったので、改めて気持ちを入れ替えてというか、少し生活の部分も改めて、今は良いコンディションで日々の練習、それから試合に臨めるようになりました。
―生活面をどう改善したのでしょうか?
例えば睡眠ですね。以前までは睡眠をあまり重要視していなくて、午前0時近くまで起きていることもありました。でも今は遅くても11時前には寝るようにしています。朝も決まった時間に起きて必ず朝食をとる。すぐに変えられるところから手を付けていったのですが、それだけでコンディション面が随分と変わったような気がしています。練習に入る時のフィジカル的なコンディションはもちろんですが、メンタル的にも良い感じで、すごく集中してメニューをこなせていると思います。
―チームを引っ張る、というところの意欲についてもう少し詳しく。
僕自身はリーダー気質ではないと思うのですが、今まで指導していただいた方や監督から「お前はチームをまとめる能力があるから、もっと自分の意見を周りに伝えたほうがいい」と言われてきました。例えば、去年の天野賢一監督にも「お前がリーダーになれ」と言われました。そういう中で、センターバックというポジションも周りに指示が出しやすいですし、ほかのチームなら年齢的に中堅ですが、この若いチームにあっては年長の部類に入るので、いろいろな情報を発信し、共有しながらチームをまとめる、そういう役割も果たしていこうと考えるようになりました。
―表に立つリーダーにはなるべくなりたくなかった?
そうですね、向いているとは思えなかったので、やりたくなかった。でも、大学4年生の時にキャプテンを務めることになりました。人前に立って自分の意見を言うことがすごく苦手だし、嫌だった。自分はどちらかというと、黙々とプレーするタイプだと思っていましたから。でも、いざキャプテンを務めてみると、「自分の意見を言わずに、今までよくやってこれたな」と感じるほどでした。ただ、そこで「自分はキャプテン向きだ」と思ったわけではなくて、自分の意見を言葉に出さないと、自分を理解してもらえないし、チームの一員としてチームの力になれない、ということが理解できた。もともと人の意見を聞くことはできていたのですが、自分の意見を発信することが苦手、その意義が分かっていなかった、ということです。
―流通経済大と言えば、多くのJリーガーを輩出している名門校。そこのキャプテンを務めていたなんて、本当にすごい!
実際、キャプテンとして何かをやったという実感はありませんが、日本代表に定着している守田英正選手は先輩、先の代表選で追加招集された浦和レッズの伊藤敦樹はセンターバックとしてコンビを組んでいた後輩。ほかにも有名な選手がたくさんいるので、改めてすごいチームでプレーしていたんだなとは思います。
―チームは今季苦しいスタートとなりましたが、そのことで発信することの重要性も感じましたか?
センターバックとして試合に出させてもらっている中で、センターバックの相方、キーパー、それからボランチ、近い方のサイドバックとコミュニケーションを取ることが大事だということは、いろいろな失敗を経験する中で改めて大事なことだと実感できました。ただ自分の意見を発信するだけではなくて、周囲の声にも耳を貸す。そして、そういう選手たちの会話を聞いている田坂監督がチームとして向くべき方を定めてくれる。そういう流れの中でチームづくりが進んでいます。
―しかし、意見交換をし、何とか前を向いて進もうともがいても、なかなか結果に表れないとなると、その作業に否定的になったりしませんでしたか?
我慢強さは必要。でも、みんなが必死に考えて出した方向性を実現するためにいろいろなことにチャレンジすること自体は間違っていない。特に、それぞれが自分の武器を生かすためのチャレンジをやめてしまったら、それこそ、そこで終わり。それがみんな分かっているから、踏ん張れるんだと思います。チャレンジのすべてが成功するとは限りません。でも、失敗から学ぶことはできるし、その修正に向かえば個人とグループは成長していくはずです。
―今、口にした本村選手にとっての「自分の武器」とは?
縦に入れるクサビのパス、フォワードの背後に入れるパス。守備は対人プレーの強さ、カバーリング、それから身長はそれほどありませんが、ヘディングですね。
―守備者としての理想像は?
海外の選手で言うなら、ここ2年はイングランドのチェルシーでプレーしたブラジル代表のチアゴ・シウバ選手です。確か38歳だと思いますが(1984年9月22日生まれ)、プレースタイルが自分と似ていると思っています。ここだと思うタイミングとコースで縦パスを刺すし、ヘディングも高さとタイミングが抜群です。僕は学生時代にサイドバックやボランチでもプレーしていたので、その時は長くバイエルン・ミュンヘンでプレー、サイドバックやボランチでプレーした元ドイツ代表のフィリップ・ラームとチアゴ・シウバの合体版を目指していました。
―ヘディングについて。
中学の時にセンターバックとしてプレーするようになり、その時のチームが守備を大事にしていたので、かなりヘディングを鍛えられました。特に意識するように言われたのはフォームです。きれい、汚いがあるんです。きれいなフォームのヘディングというのは、飛んだ時、空中での身体バランスが整っているもの。バランスがいいから、相手と競り合っても態勢が崩れずにきれいに頭でボールをヒットすることができます。そうすると、遠くに、また思った方向に飛ばすことができます。ジャンピング・ヘッドは基本的には手を使ってバランスを取ります。そこは中学時代にたたきこまれましたし、今でも自信を持っています。今のギラヴァンツ北九州の守備陣の中でも、ジャンピング・ヘッドをするときのタイミングは自分が一番分かっているな、と思っています(笑)。
―飛ぶタイミングについて、もう少し詳しく。
ボールの落下地点の真下、垂直跳びに近い感じで飛ぶと、空中で相手選手とコンタクトした時にバランスを保つためのパワーが足りない。落下地点の少し手前で斜めに飛んで前方へのパワーをつくりだしておくと、フィジカルコンタクトにも耐えてバランスが保てるんですよね。
―縦パスについて。
最初は左のセンターバックとして試合に出ていたんですけど、そうなると利き足とは逆の左足でクサビのパスを入れる機会が多くなる。左足キックの精度は右足に比べるとどうしても落ちるので、少し消極的になってしまう部分があります。今は右のセンターバックとしてプレーする機会が増えて右足で出せるので、思い切りがよくなったんじゃないかと思います。それと最近、意識しているのは、縦パスを入れる時の視線です。今までは受け手の味方フォワードだけを見て出していたのですが、その背後や前方、横にいる相手選手のことも見るようにしました。そうすると、パスの成功率が上がるんですよね。味方だけを見て出したパスはインターセプトに遭う確率も高かったので。視野が広がったというのが、今季になってから成長した部分だと思います。
―試合に出場していなかった間に外からチームを見て何を感じましたか?
勝ちたいという気持ちは伝わってきました。でも勝てない。そうなると、何かを変えないといけないんだろうし、練習で変えるためにしっかりと取り組まないといけない。それは当たり前の事ではあるのでしょうが、その当たり前のことを改めて感じたし、僕はそれを練習で表現して、ほかの選手も同じように考えていたから、結果は出ていないけれど、練習には活気がありました。それが、負けたけれども天皇杯2回戦の岡山戦で、攻守で躍動感のあるサッカーの表現につながり、リーグ戦の第13節・奈良戦でも、後半立ち上がりの失点はいただけないにしても、前半を無失点で終えるという成果になって表れたのだと思います。
―何かが足りない、何かを変えなくちゃいけない。それを感じ、足りないことを補い、変えるべきところを変えていく。これを繰り返すシーズン前半戦だったのでしょうか。
そうですね。課題ややるべきことが多いから、それを繰り返してもなかなか結果につながらなかった、というところだったと思います。
―今のチームとしての課題は?
力を使う場所、タイミングを的確なものにすること。90分を全力で、というのは現実的には難しいし、そうしたら途中で息切れをおこしますし、そこで失点することになる。例えば、攻撃に出る時のカウンターでいかに爆発的なパワーを出すのか。ほかには、ボールホルダーに関わる時の数的パワーの使い方とか。一人じゃなく、ここは2枚、3枚でかかわればゴールにより近づけるという感覚、それをグループとして合わせる。そういうところが今の課題だと思います。課題は次々に出てきますが、新たな課題に向きあえるのは、その前にあった課題をクリアしているからでもあります。だから間違いなくチームは成長している。そう実感しています。
―昨季からセットプレーのキッカーを務めることがありますね。
小学校のころはFKのキッカーを務めていました。キック力に自信があったので。でも、CKを蹴ったのはプロになって、おととしが初めて。チョウさん(長島裕明コーチ)が僕のキックをほめてくれて、落ちるボールを蹴ることができる選手がいないから蹴ってみたら、ということで、少しトライさせてもらいました。今年も、田坂監督から「キッカー、本ちゃん」といきなり指名受けたことがありましたね(笑)。
―自主練でやることが多いメニューは?
やっぱりヘディングになりますが、一番効果が出るのは実戦なので、ほどほどに。今後はステップワークに取り組みたいなと思っています。背後のボールへの対応を考えると一瞬の足運びが大事になるので。
―残りシーズンに向けての個人的な目標を。
試合に出続けて目に見える結果を出し続けること。第5節のヴァンラーレ八戸戦でプロ初ゴールを取れたから2点目、それからアシストも狙って行きたい。でもディフェンダーなので無失点を増やしたいし、そこで頼りになる守備者になること。先輩、後輩問わず「本ちゃんがいれば大丈夫でしょ」と言われるくらいになりたい。そこを目指します!
文・島田徹 写真・筒井剛史
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