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シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』No.005

シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』No.005

リーグ第17節のヴァンラーレ八戸戦、終盤の失点で3試合ぶりの勝利を逃したことを誰よりも悔しがったのはGK高橋拓也選手ではなかったか。理由はある。

7月3日(水)に行われた天皇杯2回戦のヴィッセル神戸戦。中2日でリーグ第15節のAC長野パルセイロ戦が控えていたが、小林伸二監督は上位カテゴリーの神戸との戦いがきっと今後のリーグ戦に向けて良い経験になるはずだと考えて主軸選手による先発を組んだ。高橋選手もゴールマウスに立った。

結果は0-4の大敗。力の差を痛感したこと、それでも自分たちがやってきたことが通用する部分があったと自覚できたことは収穫となった。一方で失点場面を見れば自分たちのミスから生じたものもあり、素直に反省しなければならない点もあった。その試合を踏まえて小林監督はある決断をする。7月6日(土)の長野戦のゴールマウスに立ったのは今季加入の後藤大輝選手。高橋選手は今季初めてベンチから試合を見ることになった。

高橋選手から後藤選手への先発交代の理由に挙げた小林監督の答えは明確だった。「高橋の神戸戦でのパフォーマンスもあるし、後藤の練習でのパフォーマンスと調子が良かったからそう決めた」。小林監督の「先発を決める時はパフォーマンスで決める。そのパフォーマンスというのは、日ごろのトレーニングの良し悪しというところ。トレーニングでアピールできているか、それだけが材料」という考えに沿っただけの決断。もちろん、その思考の根底には、ポジションをめぐる競争を常に緊張感あるものにすることが選手個人と、その総和であるチームのレベルアップにつながるとの小林監督の揺るぎない考え方がある。

さて、今回の話のテーマは、そうやってサブに回ることになった高橋選手の、長野戦以降、先発に復帰する八戸戦までの2週間の気持ちの動きと過ごし方である。以下、高橋選手の言葉にそのすべてが表現されている。

「僕も含めてキーパー陣は4人。その中で自分は最年長だから、自分の態度や姿勢、言動でグループ内の雰囲気が決まることをシーズン当初から自覚していました。だから、先発から外れたことはとても悔しいんだけれども、そういう感情を露にするのではなく、あえて平静でいることに努めました。先発の座を取り戻したいという思いを練習から精一杯にアピールしてやろう、そんなふうに気持ちだけが急いても良いことはない。それがキーパーというポジションですし、そのことを僕はこれまでの経験から知っていました。だから、落ち着いた気持ちで練習に取り組み、淡々と自己研鑽に努めました。グループのリーダーとしての自覚があってグループ内の良い雰囲気づくりは意識しているから、練習でほかの3人のキーパーが良いプレーをすれば「ナイスセーブ!」と声は出す。そもそも、なあなあの雰囲気になるのが嫌なので、そういう言葉を出し過ぎないようにしているのですが、出す時は出す。でも、「ナイスセーブ!」の声は、自分を叱咤する言葉でもあるんです。「負けねえぞ!」という、ね。それと、2試合続けてベンチに座ることになった時に、監督の中にキーパーというポジションにおける競争意識を高めようとの考えがあるんじゃないか、とも感じていました。そういう意味で、定位置でプレーすることを当たり前のように思っている自分がいたことを知り、それじゃあダメだと気持ちを引き締め直すきっかけにもなったんです」

そんなふうに考えを巡らせながら2週間を過ごした高橋選手を小林監督はどう見ていたのか。
「自分の意思で良くなろうとしてチームの中に入っていけるのか、それとも離れていくのか、そうやって一人ひとりの選手のことを観察することはチームのことを考える上で、とても大事なことなんです。もちろん、高橋は主軸を張っていた選手ですから早くリカバリーしてほしいという気持ちはありましたが、私がすぐに声をかけるのはよくない。高橋がサブに回ってからの練習でリカバリーに努められるか、それができるのかを、今まで以上によく観察して、それでヨシとなったので再び先発で使った。それだけのことです」

7月上旬から半ばにかけての2週間は高橋選手にとって、またチームにとっての種付け時期と言えるのではないか。つまり梅雨が明けてから秋に向けてが、収穫時期。さて、どう実るか?

文:島田 徹

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