SHIMADANOMEシマダノメ

シマダノメ Season6
第1回 深掘りインタビュー
増本浩平 監督

『シマダノメ 深堀りインタビュー』もSeason6を迎えました。その初回に登場するのは今季から指揮を執る増本浩平・新監督です。昨季途中で18位に沈むガイナーレ鳥取の指揮を執り、最終的には6位躍進に導いた修正力には目を見張るものがありました。増本新監督のチームづくりにおける哲学、思考を知ることで、今季のギラヴァンツ北九州がどういう形で戦っていくのかのイメージが具体的になるかもしれないとの思いで新指揮官を直撃、深掘りしてきました!(取材日/2月15日)。

―まず昨季の話から。増本監督は去年途中からガイナーレ鳥取の指揮を執りましたが、就任時18位のチームを最終的には6位にまで引き上げました。その修正能力には驚かされました。金 鍾成(キン・ジョンソン/現FC琉球監督)監督が超攻撃的という“とがったスタイル”で指揮を執っていただけに、その修正は大変だったのではないでしょうか?

問題点を目の当たりにしていた分、そこまで難しさは感じなかった。とがっているので、とがったところは残しつつ、そうでないところを修正する、というか、トレーニングすればいいだろうと考えました。2年間ヘッドコーチとしてジョンソンさんと一緒に戦いました。確かに方向性はとがりまくっていました。とがっている部分をより鋭利なものにしていくのがジョンソンさんの考え方でしたが、修正を託された僕はそのとがっている部分を太くするイメージで指揮を執りました。

―金 鍾成監督がつくっていたチームが、鋭利な頂点を持つ底辺の小さい二等辺三角形だとしたら、増本監督は鋭利さを残しながら底辺の長さを増した形の安定感のある2等辺三角形と表現できるチームへと修正したというイメージでよろしいでしょうか。

そうですね。とがった部分は残しながら、でもそれを有効なものとするには「ここはもう少ししっかりしたものじゃないといけないよね」という考えを持ちながらの修正だった、と言えるでしょう。

―安易な言葉で表すなら「攻守も含めたバランスを取った」と言っていいのでしょうか。

そう言ってもいいと思います。

―昨季の第14節でギラヴァンツ北九州が鳥取と対戦して終了間際の夛田凌輔選手のゴールにより1-0で勝った。そのゲームの結果で金 鍾成監督から増本さんに指揮官が交代。第20節のミクスタでの2戦目で増本さん率いる鳥取にギラヴァンツ北九州は1-3で敗れました。その短期間で施した修正は何だったのでしょうか?

守備の脆さについてはジョンソンさんの時から言われていて、でもジョンソンさんは「1点を取られたら3点を取ればいい」という考え方をする人だったので、守備の所には着手せずに、より攻撃的になれるような取り組みをしていました。でも現実的な見方をして「4バックから3バックにして守備の部分を調整してみようか」との考えで臨んだのが第14節のゲーム。でも、どちらかというと3バックにすることで、攻撃時のズレをつくっていきたいというイメージを持ってのトライでもありました。そこはジョンソンさんらしいところですね。それで僕が指揮を執ることになって、すぐに4バックに戻したら混乱するし、北九州戦は負けたけれども選手は多少の手ごたえを感じた様子だったので、3バックから5バックに移行する守備の形を取りながら、そこからどうやって攻撃に移行していくかを模索しながら、第19節までの5試合は3バックで臨みました。

―しかし第20節のギラヴァンツ北九州戦から4バック[4-2-3-1]というシステムに変えましたね?

3バックで守備は安定したのですが、攻撃時に枚数が1枚足りないという印象が残りました。またギラヴァンツ北九州戦でそれまで3バックの右でプレーしてきた鈴木順也選手が累積警告により出場停止になって3バックが組めない状況にもなったので、4バックに変更。僕はもともと4バックを組みたかったし、3バックで戦った5試合で守備面の整備ができていたので、仮に4バックに変えても守備が脆かったあの時には戻らないだろうと感じ、「攻撃の枚数を増やしたいから4バックでしたい」と話して選手の理解も得たので、4-2-3-1というシステムでギラヴァンツ北九州戦に臨みました。

―そもそも増本監督は攻守でバランスを取れたサッカーをしたいのでしょうか。それとも金 鍾成監督が攻撃面で『とがったスタイル』を志向して結果が出なかったからバランスを取る方向に動いたのでしょうか?

たぶんですけど、僕は横河武蔵野フットボールクラブ(現・東京武蔵野シティフットボールクラブ)U-18の監督をやっている時から(2011年~2016年)、基本的にはバランスが取れたチームづくりをしていたと思います。というのは、僕はそんなに面白い人間ではないんですよ。Jチームで一緒に仕事をさせてもらったのが、松本山雅FCのコーチ時代に反町康治監さん(現・日本サッカー協会技術委員長)、同じくコーチを務めたガイナーレ鳥取では髙木理己(現・AC長野パルセイロ監督)さんとジョンソンさんという、すごく特徴のある監督さんの下でチームづくりのサポートをさせてもらったのですが、それぞれが、それぞれにものすごくとがった部分、つまり強いこだわりがありました。だから僕は「Jリーグの監督はこういう人じゃないとできないんだ」と思ったんですよね。逆に自分はどうかと言うと「この部分にめちゃくちゃこだわっています」というのもそんなにはなくて。だから単純にバランスを取る方向にいくんじゃないのかな。

―選手にもバランスを求めますか。

チームづくりを進める上で、監督としては計算できること、見えることのほうが着手しやすいし、バランスを考えたいとは思います。でも、選手には僕が提示する枠、それはプレーする上で、またチームとして機能するためのベースと言えますが、それを越えたモノを出してほしいと考えます。だから僕が言ったことをすべてやれとも言わないし、やってほしいとも思わない。選手が「ああ、マスさんが言っているのはこういうことね。分かった。でもオレはこういうこともできるし、こう思うんだよね」と、いうのでいいと思っています。

―コーチングスタッフとのかかわり方はどうしていますか?

去年の鳥取で言えば、僕が監督をすることになった時にサポートしてくれた小谷野拓夢ヘッドコーチと清水恭孝コーチ(現・FC琉球コーチ)たちの存在は大きかった。僕が全体の所を見ながら小谷野にはポジショニングや分析のところにフォーカスしてもらい、清水さんには『止める、蹴る』や個人戦術を分担してやってもらいました。監督として、それほど面白いものを持っていないと感じている僕が一人でチームをつくっても、面白いチームにはならないと考えます。そして、一人で作ったチームは攻略しやすいと思うんです。

―チームには多様性が必要だということですか?

僕一人でできることは限られていると思います。それだったら、みんなの力を借りた方がより良くなるはずだし、そこで意見の衝突があったしても、それは前進するための力になるだろうし。

―今年もコーチングスタッフにいろいろな部分を任せていますか?

はい、そうです。それをハンドリングしていくのが監督である僕の仕事だと思っています。ただ大枠は僕から選手に伝えてキャンプからいろいろなところを整理しながらトレーニングしますし、その都度、今日のトレーニングのように気づいたことがあれば、その場で選手に伝えることもしますが、トレーニングの組み立てからすべてを一人でやって「この監督、触りづらい」と思われたら、チームとして良い方向には進まないと考えています。逆に言うと、僕は一歩引いた状態で全体を見て、スタッフと選手がそれぞれに良いところを出して行けば、彼らのストロングポイントをすべて出せれば良いモノをつくれるんじゃないか。そう思っています。

―さきほど話に出た横河武蔵野FCでは育成年代の指導でしたね。そこでのチームづくりも少し気になります。

横河では選手の将来を考えてボールを保持しながら相手ゴールに向かって前進していくサッカーというものをベースに指導していたのですが、ライバルチームはFC東京、横浜F・マリノスのユースチームなんですよ。加えて、ディサロ燦シルヴァーノ(現・湘南ベルマーレ)や相馬勇紀(現・カーザ・ピア=ポルトガル)がいた三菱養和SCも。そうなった時に戦い方がガラっと変わる。東京都のリーグで戦う時は自分たちでボールを保持して意図的に相手を崩していくことが可能ですが、クラブユース選手権の予選でJクラブのユースチームとやるときは、逆に自陣に引きこもってカウンターを狙うというような両極端なサッカーをしなければいけない。また、横河のジュニアユースチームに良い選手がいて、彼らがユースチームに上がって来れば強いチームになるぞと期待するけど、そういう選手はJクラブに行ってしまう。だから、毎年の戦力に差が生まれる。つまり同じスタイルを継続するということが難しい環境にあったということ。だから、いろんなことを考えて、いろんなことにトライしました。それは大変なことでしたが、そこに面白さを感じてもいました。まあ、そういう環境で指導者の道をスタートしたことも、「何か一つにこだわる」のではなく「バランスを取りながら」というチームづくりをする今につながっているのかもしれません。

―でも、環境に応じて戦い方を変えるカメレオンのようなチームもまた魅力的ではあります。

まさに、横河U-18の監督をしている時に選手には「カメレオンのようなチームになりたいよね」と話していました。「同じ画は描けるけれど背景に合わせて自分たちの色を変えられるって、一つの強さじゃない?」と。あとは「アメーバみたいにサッカーをしよう」とも。周りの味方や相手の状況に合わせて動きは変わるけど最後はボールを自分たちのものとするためにうまく取り囲んでいる、というふうに。ある学年の時はミーティングで、ミツバチが自分たちの巣に入って来たスズメバチをみんなで取り囲んでやっつける、よく目にする映像を見せて「Jクラブのチームがスズメバチで、あなたたちはミツバチです。でもミツバチもこれだけ束になってかかればやっつけることができる。ということは、ボールを持っている相手に複数でかかってボールを奪って、奪った瞬間に切り替えてボールを前進させれば相手も取れないんじゃない?」って。そういうことも含めて、何か一つのことにフォーカスしすぎないことが、もしかしたら指導者としての僕の強みなのかもしれません。

―先ほどの横河時代の話も含めて考えると、昨季の鳥取でのチームづくりと今季のギラヴァンツ北九州でのチームづくりが異なる可能性もありそうですね。

それはチームを構成する選手が異なりますからね。というか、異なるサッカーになった方が面白いとは思います。

―先に鳥取の話をお聞きしたのは、鳥取の時と同じく、今季のギラヴァンツ北九州にも「修正」が求められているわけです。去年最下位だったチームを変えなければいけないわけですから。さあ、どう修正していくつもりですか?

今は、ボールを大事にしていこうという中で、スピードをどのように使っていくか、というところの話は選手によく話しています。選手の中ではワンタッチでボールをパンパンパンとつないでいくイメージが強いのかなと感じていますが、ツータッチした方が正確にボールをつなげられるんじゃないか、という状況もあるし、またツータッチした方が次にボールを受ける味方が楽なんじゃないか、という問いかけをしながら練習しています。去年の鳥取でやっていたボールを握って相手の裏を取って崩してゴール前に入って行くという形が好きなのは好きなんですけど、そこは求めながら、でもギラヴァンツ北九州の方がより力強いことができるんじゃないかと見ています。だから、そういう形は増えると思います。

―その修正によって結果につなげるために必要なことは?

得点を奪うというところに対してプライドというか責任感をもってもらうこと。今は練習でもなかなかシュートを打たないんですよね、慎重になり過ぎている。それは去年からの流れもあって、負けたくないという思いの中で、選択が安全な方に向いてしまうのかな。そのへんは僕がリミッターを外してあげることができればいいと思っています。

―先ほどおっしゃった「力強さ」というのは、リミッターを外すことで生まれるパワーということですね。

だって、山脇樺織のスプリント能力を持つ選手はそうないないし、長谷川光基の対人場面でのスピードも目を見張るものがあります。坂本翔もあれだけの推進力を持っているし、左の乾貴哉と前田紘基も力強い攻撃的なプレーができますよ。前には高昇辰、岡野凜平もいる。そういうタイプの選手がたくさんいるから、『力強さ』は出して行けるはず。だからシュートを打つという決断を下して行けば得点は増えてくるとは思っています。人とかかわりながらの崩しを増やしていきたいとは思っていますが、シーズン序盤は単発のところで勝負していく機会が増えるかもしれません。

―守備の部分での修正は?

去年は背後を一発で取られて失点してしまう場面があまりにも多かった。第20節で鳥取が3点を取ったのも、そこをしっかりと狙っていたからです。だからここに来て「ボールを奪うのも大事な守備だけれども、ゴールを守るのも大事な守備だよ」というところを話しながら、原理原則の整理をしています。それを理解しないとベースアップができないし、それがないと、それぞれの選手のスペシャルな部分を引き出せないので。

―補強という意味での修正も?

もちろん、半分以上の選手が入れ替わったこと自体も大事な修正作業ですよね。

―今回の補強に関して強化部に何か要望を出しましたか?

特には。

―例えば、牛之濱拓選手は昨年、鳥取で一緒に仕事をした選手です。

鳥取には鹿児島ユナイテッドからの期限付き移籍で来ていたわけで、昨シーズン終了後に、鹿児島に戻るのか、鳥取に残るのかが分からない、浮いている状態にありました。僕は鳥取との契約が残っている選手や契約延長の声が掛かっている選手に「北九州で一緒にやらない?」という声掛けはいっさいしていません。それは甘いのかもしれませんが、鳥取で初めてJチームでの監督を経験させていただいたという恩もあり感謝もしているので、義理はしっかり通したかったから。タクの場合は動向が見えず、アビスパ福岡のアカデミー育ちで福岡県に縁があるし、タクから「地元福岡でもう一度マスさんとチャレンジしたい」と連絡をもらったので、「じゃあ、1年また一緒にやるか」との話から強化部に「タクと話をしてほしい」とお願いしました。

―牛之濱選手以外にも経験豊富な選手を複数獲得しました。

永井龍に関しては、昨年のJ2最終節・ツエーゲン金沢戦でファジアーノ岡山の選手として決めたゴールが本当に素晴らしかった(※左サイドからクロスが上がる前に、ゴール前で相手DFのマークを3度の動き直しによって巧みに外してのワンタッチゴール)ことが大きかった。ストライカーとしてあそこに入っていける、あのボールに触ってゴールを決められるのを見て、ウチでハングリー精神を持ってトライすればもう一花咲かせられるはずだと思いました。また、永井とは松本で一緒になったこともあり、その中でストライカー論で共感することもあったので、まあ頑張ってくれるだろうと思って、タクと同じく強化部にその考えを伝えて話してもらいました。

―チーム最年長の喜山康平選手と矢田旭選手も頼りになる選手ですよね?

チームの中心に置くのに誰か適任者がいないかと考えている時に、松本との契約が満了となり浮いている状態で「間違いないだろう」の思える能力、経験を持つ喜山に目が行きました。いろいろなポジションでプレーできる選手ですが、ボランチとしてチームの心臓となってもらって引っ張ってくれるだろうという期待。それと誰に聞いても人間性が間違いないというところ。それから、永井も喜山も、松本で反町監督の下でプレーしているということで、勝つために大切なことをよく分かっているはず。小手先じゃなく、きれいでもなく、でも泥臭いことの大切さをよく分かった上で、いっしょにチームをつくっていけるんじゃないかと思えたんですよね。強化部と僕の意見が一致して喜山というタレントを獲得できたことはウチとしては大きいと思います。

―矢田選手については?

アサヒはボランチのところも含めて考えていましたが、本人も「攻撃的なポジションのほうが生きると思うんですよね」と話していたので、じゃあ本人がやりたいところで勝負してもらって、彼の技術やサッカー観を若い選手が目の当たりにしたほうが良いと思いました。

―矢田選手は昨季までの愛媛FCでのプレーもボランチがメインでしたが、増本監督はトップ下で起用しています。確かに、ファンタジスタと言いたくなるような技術と抜群の攻撃センスを発揮しています。

アサヒも含めて、喜山、牛之濱、永井、大谷幸輝らベテランと言われるような選手には、「君たちには若手に『もっとこうした方がいいよ』と伝えることは求めていない。そうではなくてポジションを取ってすべての試合に出るつもりで競争してくれれば、それだけでお手本になり、そこで何かを感じた選手は向こうから勝手に話をしにくるから。『勝手に来る選手』しか残っていけない世界ということはそれぞれが分かっているでしょ? だからチームみんながそれくらいどん欲になって、うまくなりたいと思わせるようなことを君たちがしてくれればそれでいい」という話をしました。永井もオファーを受けた時に「オレ、ベテランのひと枠みたいな感じですか」と言うから、「まったくそんなことは考えていない、ちゃんと勝負してほしい」と伝えました。

―増本監督は「戦術、戦略よりもチームの一体感を大事にするタイプの監督だと思う」と自己分析をしていました。一体感はチームづくりにおいてやはり大事な要素なのでしょうか。

大事だと思います。それぞれの考えはあっていいと思う。でも大枠として、みんなが同じ方を向いて進んで行ける、というのは大事なこと。もちろん、戦略、戦術も大事ですが、みんながこのチームで勝ちたいという共通した思い、それが一体感でもあるはずですが、やはりそれがないと。

―増本監督はどうやって一体感をつくりだすべきだと思っていますか?

さあ、どうやってつくるのでしょうか、やってみないと分かりません(笑)。今日の練習でも選手に伝えたのですが、「うまくいかない時にちゃんと考えられるかが大事だ」と。「うまくいかないことなんて山ほどあって、うまく行かない時にイライラしたら負け。その状況を楽しめるかが選手として、また人として成長するチャンスだから、そういう時にどういうマインドを持つべきか」を選手に話しています。シーズン中にうまく行かない時にどこかを向いちゃう選手がいると思いますが、そうならないように、全体を見て、また選手一人ひとりをよく見て、選手の良いところを組み合わせていける準備をしていく。そういうことなんじゃないかな。

―選手をよく観察することが大事な準備なんですね。

学生スポーツではないので、試合に出してあげられるかどうかは選手の頑張りにかかっていますが、「君はいまちゃんとトライしたよね」と言えるように、その瞬間を見逃さないようにすることは大事。選手にも『旬』があると思うので、旬の間に使ってあげて、つかんだらグンと伸びる、そこでつかむか、つかめないかも選手次第ですが、そこで使ってあげられるかどうかは監督の度量。その度量を僕は、負けていても、うまくいかなくても持ち続けないといけない。その度量を僕が持ち続けることができればうまくいってなくてもいずれ持ち直して、良い順位で終われるんじゃないでしょうか。でも、その時に、僕が強化部に対して「新しいディフェンダーを、新しいストライカーを獲得してほしい」と言ったら終わりかなと思っている。

―苦しい時にチームの和が乱れることもあるでしょう。

そういう時に選手もコーチングスタッフもどういうマインドで行けるかが大事。そこで思うのは、監督が一人でやるチームは、うまく行かなくなった時に選手の口から『だからこうなると思ったんだよ』という言葉が出がち。それを聞いた監督も「思っていたなら言えよ」となる。でも選手が言えないのは、監督の責任なのかなと。

―選手が考えを口にできる環境を監督がつくれていない、ということですね。

監督が勝てないことで責任を感じて自分の中に閉じこもる、スタッフもそれを見て何かを言いたいけど言えないという状況では絶対に良いチームづくりはできない。だからそうならないために、監督は一歩引いたところから見る、それによって選手が意見を発信しやすい状況になる。「マスさんはああ言ったけれど、ああいう状況でサイドバックにボールを出したら難しい状況になるんじゃない?」って、例えば、最年長の喜山ではなくて、あるいは主将の井澤春輝ではなくて、2年目の高吉正真が言えたら完璧ですよ。「あ、正真、そこに気づいた? 俺もそう思った。じゃあどうしようか」と話し合いができるような環境をつくりたい。それができれば選手には当事者意識が生まれ、それが一体感というものに成長していくんだと思います。でもそれを短期でつくりあげるのはとても難しいので、年間を通してベースをつくっていくことはすごく大事だし、こちらが短気になってしまうとそこで終わるので、僕は常に一歩引いたところから見る、でもいろんな仕事はしている、というのが多分、一番良い。「マスさん、ぜんぜん仕事してないじゃん」って笑いながら突っ込まれるくらいがちょうどいい。

―増本監督は「選手が能動的にプレーできる環境をつくりたい」と口にされています。能動的とは自主的に、ということだと思いますが、増本監督が考える自主性とは?

ウチのように中堅と言われる層から少し若い選手も多いチームとなると、ある程度、仕込みは必要だし、ネタも与えておく必要がある。でもそうした仕込みやネタの中からどれを選んでプレーとして表現するかは選手の自由。選手にいつも話すのは「ゲームは君たちのモノ。いざピッチに入ったら、僕はベンチから『ナイス!』としか言えないよ。だって分からないから。ピッチ外から見ている僕は準備してきたことなんだから絶対にできるから自信を持ってやろうよ、という感覚にしかならない。ピッチ内のパワーバランスは相手選手と相手チームと実際に対峙している選手じゃないと分からないし、観客数も含めた不確定要素も影響して起こる事態に対して、外から何かを言っても状況を変えられないよ」と。

―ハーフタイムに指示を出せば効果的なのでは?

何が起きているのかを伝えることは効果があると思います。外から言われたことをやるよりも、ピッチ内で、自分で感じてこうすべきじゃやないかと考えて実行に移したことのほうがよっぽど効果がある。それを躊躇なく決断してできるようにすることが僕の役目。選手が自らの決断においてチャレンジすることはとても大事。でもそれが間違った判断だったら、厳しい言葉で修正することも同じように大事で、それを理解してくれるような関係を選手との間でつくっておかなければならない。「ここまでならやっても大丈夫。マスさんも理解してくれるだろう。でもこれは違うな。マスさんじゃなくてもダメだよな」という線引きは選手が見つけて行けばいい。そのために頭ごなしに選手の判断、選択を否定することはいけないこと。ここは実は難しいところで、僕もまだ若くて力が入ることもあるので、そこの修練は必要ですね。

―開幕前のトレーニングマッチについて。Jクラブではアビスパ福岡、テゲバジャーロ宮崎、大分トリニータとのゲームを行いました(取材後にロアッソ熊本戦も実施)。

福岡戦はボールを握られて難しいだろうなと予想していましたが、選手は思っていたより頑張った。そのゲームの後で「相手がこうきているんだからここは突けたんじゃない」というような話をして整理し、共有しました。その後に宮崎戦、大分戦と続くんですが、福岡の強度がハンパじゃなかったけど、ある程度はそこに合わせることはできた。じゃ、宮崎戦はどうだったのか、という反省をして、大分戦ではウチもかなり強度を高くできて、狙いを持った守備ができて、攻撃も良い形でビルドアップができて良い崩しに入ることができた。ただ、その崩しはまだ不十分。そこは今後の積み上げが必要なところ。崩しのところは、鳥取でジョンソンさんに教わったことをうまく生かした感じ。まだブラッシュアップの必要性はありますけど。大分戦での出来を次の熊本戦で生かせるか、そこは開幕戦に向けてのポイントになりますね(※18日の熊本戦は4本実施、トータルで7-2の勝利)。「良かったのは大分戦だけだったじゃん」となるのか、そうならないのか。楽しみではあります。

―大分戦で複数のチャンスをつくることができた要因は?

ビルドアップのところを少し整理したからだと思います。あとは福岡戦でやみくもにボールを奪いに行っても奪えなかったことや、あとは奪いたい場所をミーティングで話したことで選手の目線が一致したことも良かったと思います。逆に失点場面は良い勉強になりました。実戦とその後の確認で、確かな成長が見て取れることは開幕に向けてのプラス材料ですね。ただ、選手皆が真面目過ぎて、立ち上げの様子見の段階から僕の考えにアジャストする意識に変わっているけれども、アジャストするんじゃなくて、僕はそこからはみ出ていってほしい。僕が求めるところをやるのは当たり前、それをベースのこととして、そこから何を出せるのか、それを選手には求めたい。それができるようになると面白いサッカーができるし、面白いチームになると思います。

文・島田徹 写真・筒井剛史

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