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シマダノメ
第1回 深掘りインタビュー
小林伸二監督(前編)

シマダノメ 第1回 深堀インタビュー 小林伸二監督(前編)

今週から始まる『シマダノメ 深堀インタビュー』。第1回は小林伸二監督兼スポーツダイレクターの登場です。前編後編と2回にわたりお届けしますが、前編の今回はチームスタイルやチームづくりにおけるスタンスや考え方を中心に深堀りしました(取材日=2019年1月24日)。

―監督を務めるのは2017年の清水エスパルス以来ですから2年ぶりとなります。その間、1年ほどは解説の仕事をするなど外からサッカーを見てきて、ご自身の指導哲学などに変化はありましたか?

まず1年が空いただけですが、とても新鮮な気持ちで監督という仕事に向き合っています。そして指導の考え方という点では当然、変化はあります。それはサッカーそのものそして日本サッカーが変化してきているので、それに合わせて自分の考え方も変える必要は出てくるんです。ただ、軸の部分での考え方は大きくは変わっていません。

―『軸にある変わらない部分』とは?

例えば、リーグ戦を戦う中で結果を残そうと思えば、守備はやはり大事になります。勝点を少しずつでも積み重ねるため、つまり負けないようにするためには失点をしないことが必要不可欠だからです。ただ、失点をゼロに抑えるだけでは勝てない。つまり勝点1は取れても3は取れないということ。だから、勝つためには攻撃、点を取ることも必要になるのです。ただ、私の中では守備と攻撃は決して別物ではないという考えがあります。守備と攻撃は表裏一体。表と裏の密接な関係にある。だから守備をしている時も攻撃の備えはするべきだし、逆に攻撃をしている時は守備の準備をする。それが私の中で変わらない考え方の一つです。

―例えば、新しい監督が来て新しいチームづくりをする、ということになった場合、「まずは守備の構築から」というのがセオリーだとも聞きますが?

そういう考えが必要な時もあるでしょう。ですが、私の場合、攻守は表と裏だと考えるので、同時進行で整える、というやり方になるのが当然だと考えます。ゲームの流れによっては、相手がボールを握る時間が長い時も当然出てくるわけで、そうなった時にはわれわれは守備を固める。そうしたら相手は攻めあぐむ。攻めあぐねている相手というのは、どこかにスキが生まれるもので、そこにわれわれが攻撃をする機会と得点のチャンスが隠されている。ただ、その好機を生かせるかどうかは、「守りながらも、そのスキをうまく突こう」ということをチーム全体として意識できているかどうかにかかっているのです。

―外側から見る人間は「このチームは堅守速攻型だ」とか「パス中心のポゼッションスタイルだ」と定義づけたがります。それはそうした方が便利だからです。そうした方が理解し、自分の頭の中を整理しやすいからでしょう。

そうですね、メディアの方はそうやってスタイルを決めた方が書きやすい、あるいはインパクトが強くなるからでしょうね。「どちらかというと守備的だ」あるいは「超攻撃的だ」とかね。ただ、サッカーは攻撃も守備も両方やらないとダメなんですよ。僕だけではないとは思いますが、チームをつくり上げる中で「守備的にしよう」あるいは「攻撃的にしよう」と考えながらやっているわけではありません。あくまでもどちらも必要、どちらもレベルアップさせるべきなんですよ。

―では、監督の就任会見や新体制会見でおっしゃられていた目指すスタイルについて。「コレクティブ(組織的)に動き、攻守で素早い切り替えができるサッカー」というものを小林監督が指揮を執るギラヴァンツ北九州のスタイルにしたいとお話しされていました。

そうです。攻撃も守備も選手が組織的に動くことで質の高いものが表現できると思いますし、相互の切り替えを速くすることで、うまく守れるし、効果的に得点を挙げられると考えているので、そういうスタイルを表現できるチームにしたいですし、それで結果が残せると考えています。ただ、そのスタイルを実現するためにはチームに繊細さが必要です。

―『繊細さ』とは?

フィールドプレーヤー10人のうち5人で攻撃を仕掛けた場合、もし途中でボールを相手に取られたとしても守備のために5人が残っているので対応は難しくない。だから、そのバランスというのは一つの正解ではある。でも相手の守備がとても堅くて点がなかなか取れないと感じた時は、6人で攻めるという考えが選手の中に出てくるかもしれない。それを私は否定するつもりはありません。けれどもその6人は『もしボールを取られたら守備は残りの4人でしなければならないこと』を理解して攻撃を仕掛けなければならないし、残った4人は、『もしかしたら自分たちは数的不利な状況で守らなければならないこと』を理解して準備をしなくてはいけない。そういう細かな配慮が『繊細さ』と私が言った理由ですし、そこまでの意識を身に付けるために、われわれコーチングスタッフと選手が日々のトレーニングの中でつくりあげる作業もまた繊細である必要があるということなのです。

―チームをコレクティブにするために、監督はどんなアプローチをしますか?

一つは規律や約束事を設けることです。例えば、こういうコースで前の選手が相手のプレーを限定したら、その後ろの選手はどこにポジションを取るべきか。前からプレスに行ったけれどもボールが取れない場合は、最終ラインをどの位置に置くのか。例えば、陣形をコンパクトにするという狙いの下で一人ひとりの選手がどうすべきか、どう動くべきか、は日々のトレーニングでしっかり浸透させておく必要があります。もっと総体的な規律、約束事で言えば、それは先ほど話した、私がやりたいスタイルを実践するために選手に求めること、とも言えるのですが、例えば技術だけではなく走る能力も必要ですし、走る能力に限って言っても、前に出る走力だけではなくて、リスク管理を考えれば後ろに戻る走力も必要なのです。

―前に出る走力、後ろに戻る走力が必要だということですが、チーム始動後すぐに村岡誠フィジカルコーチを中心に選手のフィジカルデータを細かく取ったようですね。

サッカーにおいては、ダッシュして止まりボールに絡み、またダッシュして、の繰り返しの動きが多くなります。いわゆるスプリント能力です。特にですが、いわゆるスピードを武器とする選手は、このスプリント能力に長けているので、試合の中で何度もそれを繰り返すことができます。ですが、爆発的エネルギーを要するだけに体への負担も大きい。しっかりとした素地がなければやがてケガをすることになります。例えば、その素地づくりにデータが活用されるわけです。太ももの前と後ろの筋力のバランスが悪いと、スプリントの繰り返しで、どちらかを肉離れしてしまう。それを防ぐための個人的なメニューを組むのにもデータは活用していきます。

―「縦に速い攻撃を一番に狙うべきだが、それで詰まった場合は幅を使ってボールを動かすことも大事だ」と監督はおっしゃっていました。

そうです。同じ縦でも足元へのボールもあるし、裏を狙ったボールもある。個人としての必要なこと、磨くべきこと、そしてチームとしての狙い。これらを私が明らかにして選手に伝え、それが浸透することでチームが本当の意味でコレクティブになる、と考えます。

―さきほどから小林監督のお話を聞いていると、一方向・一面性ではなく多方向・多面性を選手に求め、それが目指すサッカースタイルのキーワードのようですね。

攻撃している時に守備の事を考える。その逆もあり。あるいは、縦を見ることも必要だけれども、そこを相手に警戒されれば横方向へボールを動かしてみる。あるいは、同じ縦でも足元へのパスを続けて相手のセンターバックが食いついてくるようだったら、背後のスペースを狙った縦パスを入れてみる。そして、背後を狙うのがフォワードに偏りがちだったら、2列目の選手が代わって狙ってみる。当たり前のことだけれども、ゲームには相手がいる。相手にも当然狙いはあるし、私たちの狙いを理解してそれを阻止しようと動いてくる。だから、私たちもその相手の対応を見て、さらなる対応を取る必要が出てくるわけで、一方向の視線、考え方だけで相手を上回ることはできない。いろんな角度でピッチを見て判断、プレーを決める、そんな能力を選手に持ってほしいのです。それができるように、私は選手に具体的な言葉で伝えていくことが必要だと思っています。特に攻撃は個人の力だけで取るのが難しいので、グループでコレクティブに崩すことが必要なわけで、その動きを引き出すには、私からの具体的な言葉で伝えてイメージを共有させていくことが必要だと思いますね。

―攻撃の話が出たので。プレーヤーとしてフォワードでプレーしていた小林伸二監督は過去に豊田陽平選手(現・サガン鳥栖)をモンテディオ山形時代に、また2019年のアジアカップを戦った日本代表の北川航也選手(清水エスパルス)をユースからトップチーム昇格時に指導して、その才能を開花させたように、ストライカーの指導でも実績を残しています。今季、ギラヴァンツ北九州にも新加入選手のディサロ燦シルヴァーノ選手と町野修斗選手、2年目の佐藤颯汰選手など、若いフォワードが揃っているので、指導にも熱が入るのでは?

それぞれに良いものを持っているので楽しみですね。清水では北川選手と金子翔太選手の二人はトップに昇格した次の年から2年間、ほぼ毎日居残り練習で指導をしていました。サイドバックでしたが松原后選手もいました。北川と金子はいずれもフォワードの中では2番手、3番手の存在でしたが、練習を見て、気づいたところを一つ、二つアドバイスしたら、本当に伸びていったんですよね。

―例えば若いストライカーの指導ではどんなアプローチをするのでしょうか?

最初は得意のシュートパターンを徹底的に身に付けさせる。『必ず入る』という自信に満ちたシュートを打つためには、来たボールをどこに止めるかが大事になる。では、自分が打ちやすいところにボールをしっかり止めるにはどういう体の向きでボールを迎えに行き、その時にどういうステップが必要なのか。そういうポイントを個人の特徴に応じてつくってあげれば『ここからなら絶対に入る』という得意のコースやパターンができるんです。それが一つできると、今度はそれを利用した逆パターンのシュートも狙えるようになる。そうして選択肢を増やしていくとゴールの確率も上がって行くんですよね。

文・島田徹 写真・筒井剛史

(後編に続く/次回更新をお楽しみに!)

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