SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season5
第2回 深掘りインタビュー
夛田凌輔 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season5の第2回は今季のチームキャプテンを務める夛田凌輔選手の登場です。主将として、またチーム最年長として若いチームをどのようにけん引していくのか。またチームの一員として、どのようにしてポジション争いに挑むのかを深掘りしてきました。(取材日/3月23日)。
―過去にキャプテンを務めた経験はありましたか?
プロになってからは初めて。育成年代の時はありました。
―そのキャプテンの決定ですが、監督からの指名ではなく、選手が選んだ形になりました。
選手みんなで選んでくれたということは素直にうれしかったです。若い選手が多いので、恐らく最年長である僕が選ばれたのかなとは思っています。僕自身も、仮に若い選手がキャプテンに選ばれて、その重圧で自分のプレーができない状態になることは嫌だったので、そういう部分も含めて引き受けることにしました。
―今のチームの雰囲気を夛田選手はどのように捉えていますか?
一言で表すなら『和気あいあい』。みんなよくしゃべっているし、年齢でグループが分かれるようなこともなく、若い選手も年上の選手に普通にかかわっていくし、僕ら歳上の選手も若い選手と自然に絡んでいく。年齢という壁がなく、みんなが言いたいことが言える雰囲気ができていると思います。
―そういう雰囲気は、戦う上でどのようなメリットがあると思いますか?
『和気あいあい』という言葉を使いましたが、ただ単に仲が良い、ということではありません。僕らは戦う集団であるべきですし、そのことはみんな理解しています。よくブラジル人選手が「僕らはファミリーだ」と言います。それは、人として深いつながりがある、ということ。そのつながりって、戦う上でとても大事な要素になると思うんです。
―「つながり」があることで具体的にはどんなメリットが生まれてくるのでしょうか?
つながる、ということは互いのことをよく知る、関心を持つ、よく観察をする、ということ。だから、いつもは口数が多いのに最近はあまりしゃべっていないな、とメンタルの変化に気づくことができる。そこで声を掛ける時も、その選手の気質を知っていれば、気軽に声を掛けた方がいいのか、しばらく黙って様子をみていたらいいのかというところの判断もできます。また、ミスをした時にかける言葉は、強めのほうがいいのか、それとも優しい方が効くのか、も分かります。つまり、技術や戦術ではないチームの大事な土台となる一体感というものをつくりだす上で、選手同士で分かり合えているということ、つながっているということは、とても大事になると考えます。
―キャプテンに指名された時に、こうしよう、ああしようと思ったことがありますか?
そもそもキャプテンであろうがなかろうが、自分がとるべきスタンスややるべきことに変わりはないと思っているので、特別なことをしようとは思いませんでした。これまでも、キャプテンではないけれどチームのために言わなければならないと思ったことは口にしてきました。ただ、改めてすべての言動はチームのためであるべきだ、ということは肝に銘じました。自分の感情に任せて言いたいことを言うのではなく、チームのために言うべきか、言わないのかの判断を下す。そのためにはいつもチームの雰囲気や、選手の状態をよく観察することが大事になりますね。
―周りに目を配る、ということは前からできていたことですか?
周りを観察するということをしてきたタイプだと思います。このグループは盛り上がっているけど、その中にいるあの選手はいま一つのれていないな、とか。ただ、みんなと一緒に盛り上がれないのは良くない、というふうには見ません。ただ、あの選手はそういう気質なんだな、と知る、理解するということ、そのための観察です。だから、目を配ること自体に僕がストレスを感じることはありません。もちろん、今回はキャプテンになったので、その観察をより細かくしてみようとは思っています。
―田坂監督はボトムアップという考えの下、選手に自主性を持たせようとしています。キャプテンの選出を選手に任せたのもその一環でしょう。選手が自主性を持つという点に関してどう思いますか?
昔はいろいろなところで「やらされている」という感覚があり、それが当たり前でしたし、それで成り立つことも多かったと思います。でも、そうだから大事なところでチームの足並みが揃わない、ということも多かったとも言えます。だから自分たちで考えて自分たちで行動するというのが大事だし、特に今の選手には合っている方法なんだろうと思います。そこをターさん(田坂監督)が考えたんでしょう。それが選手のためであるし、チームのためである、と。そうは言いながら、最終的な意思決定をするのは監督ですし、それらすべてを含んで責任を取るのも監督。そこを踏まえて選手の自主性を尊重するのは大変なことだと思うし、だからこそ僕ら選手は監督のそういう覚悟をありがたいと思うべきだし、それに応えるために、選手それぞれが責任感を持って日々を過ごし、プレーしなければいけないんです。
―まだシーズンは序盤ですが、いまチームの中にある自主性のレベルはどの程度のものと感じていますか?
そんなに簡単なことではありません。特に自分のアイディアや意見に大きな責任が伴うというところを本当に理解することは難しい。特に若い選手はそうだろうと思います。そこはターさんも理解していると思います。だから、それを分かっている選手、そこに年齢はあまり関係ないのかもしれませんが、それでも多くのことを経験している僕ら年上の選手が若い選手をうまくリードする必要がある。そうすることで若い選手の振る舞い、言動も変わってくるだろうし、そうなれば自主性というものはチームの大きな武器になると考えています。
―今日の練習で夛田選手は積極的に左足シュートを狙っていました。左利きですか?
ボールを蹴る時は右足がメインですが、両利きと言えるくらいのレベルで左足でも蹴ることができます。手も両利き。書くのはもともと左手でしたが、小さいころに両親に言われて右でも書けるようにしたので、いまはどちらでも掛けます。ほかは結構自由です(笑)。おはしを持つのは左手。歯磨きも左。野球で投げる時は右なのに、ボーリングでは左。もう、本当にバラバラ。左右のどちらを使うかの判断は……、自分がやりやすいほうで、という感じですね。
―だからサッカーでは両サイドで、同じレベルでプレーすることができるんですね。今季、ギラヴァンツ北九州の一員となったわけですが、ここまで住んでみての北九州の街の印象は?
正直、十分に楽しめている、と言えるほどの時間はたっていないのですが、ただ随分と暖かくなってきたので子供たちと行けるような公園探しは始めていて、そうするとかなり良い公園があるんですよね。だから、子どもたちを育てるのに良い街だな、という印象を持っていますし、これからもっといろいろなことを楽しめるんじゃないかと期待しています。あとは、釣りが趣味なので、そろそろ繰り出したいな、と。
―お子さんはお一人?
2人です。
―どんなパパなのでしょうか?
溺愛しているので、激甘な父親だと思います。
―子育てにおいて注意していることは?
特にありませんが、妻と僕の子どもへの接し方がバランスよくなるように、とは気を付けています。どちらかが怒ったら、もう一人はフォローに回るとか。親も日々成長、という感じです。
―さて、夛田選手はギラヴァンツ北九州に加入する前に7つのクラブでプレーしています。一つのクラブ一筋でプレーすることで得るモノもあるのでしょうが、多くのチームでプレーすることで得ることもあるのではありませんか?
最初にセレッソ大阪でプロになった時には、長くプレーしてクラブの顔になりたいと思っていました。でも実際にフタを開けてみると、こうしてクラブを転々とすることになりました。やっぱり多くの人とかかわることでいろいろなことを知り得た、と思うんです。県民性や土地の文化は、そこに暮らしてみないと分からないことが多いですし、たくさんのチームに在籍したということは、多くの監督の下でプレーしたということ。監督それぞれが志向するスタイルの中で求められるプレーをして、信頼をつかんで、ポジションを獲得する。そうすることで自分のプレーの幅が広がり、戦術眼を高めるとことができたと思っています。また、多くの個性的な選手とプレーすることでいろいろな刺激や学びを得ることもできました。それは恐らく一つのクラブにとどまっていたら手にできないモノだと僕は思います。
―目を配るというテーマのところで夛田選手がお話しされた、良い悪いではなく、それがその選手の気質だと知ることだ、とおっしゃいました。人それぞれは違う、個性は異なるものだと認識するその感覚というのは、多くのクラブでプレーして、多くの人、さまざまな環境を知ることで得たものなのでしょうか?
僕はもともと人の好き嫌いが激しいタイプでした。「アイツとは合わないな」とか。でも、それって、僕の物差しで好き嫌いを判断しているだけのこと。もしかしたら、向こうも僕のことを合わない、嫌いだと思っているかもしれない。でも、その感覚のままプレーしたらどうなります? アイツとは合わないからパスを出さない、嫌いだからアイツからのパスを受けない、なんてことをしていたら試合に勝てませんよ、勝てるわけがないんです。そういうことを考えながら、いろいろなクラブでプレーして、いろいろな人とかかわる中で、僕の感覚や考え方だけが正解ではなく、自分とは合わないと思っている人の感覚や考え方が絶対に間違っているわけではないと気づき、そこから人を受け入れるようになったように思います。
―人の個性、長所、短所を全肯定も全否定もしない、という感覚でしょうか?
その人のありのままを受け入れる、という感覚ですかね。そしてその人の長所や良いところが出るようなサポートをすることにできるだけ力を注ぎたい。例えば、さぼっている選手がいるとします。そこで「さぼるなよ!」というきつい言葉をかけるのは簡単ですが、そうすることで果たして彼がさぼることなく、彼が持っている長所をうまく発揮できるのだろうか、と考えます。彼は咎められるよりも乗せて気分よくプレーさせてあげた方がいいのではないかと考える方に自分を持って行きたい。だから「いいぞ、いいぞ」とか、ミスがあっても「大丈夫、大丈夫!」という声掛けを極力するようにしています。それがチームのためになるし、それが回りまわって自分のためになるだろうと、思うからです。
―人に「自分」を押し付けない、ということは、どこかで「自分」を前に押し出さないように必死になっている、ということでもあるのでしょうか?
う~ん、応えるのが難しい質問です。僕はサイドバックでのプレーが多いので守備陣の一人、よく言う「後ろの選手」です。そして主に攻撃に携わるのが「前の選手」。その後ろと前って、本当の意味では、分かり合えない関係だと思うんです(笑)。
―どういうことでしょうか?
後ろの選手は1失点すると自分たちの仕事を果たせてないということになるから、一つのミスもしないように神経を研ぎ澄ませて90分間を戦う。でも前の選手は5本のシュートのうち4本を外しても1本を決めればヒーローになれる。そういう立場の違いがあるから、もちろん互いの仕事は理解していても、心の中で納得できない部分があります。でも、その気持ちを押し殺して悶々としながらプレーしているかと言えばそうではありません。僕は相当な負けず嫌いです。恐らくはプロ選手のほとんどがそうです。だから一番優先するのは勝利。勝つためだったら、大げさに言えば、どんなことでもする。そういう気持ちでピッチに立っているので、分かり合えない(笑い)前の人が気持ちよくプレーして、得点が取れるように僕もプレーする。そして自分たちはしっかり守って失点を抑えて、勝つための条件を整える。そういう気持ちで、僕はプレーしています。理解してほしいのは、前の選手とは分かり合えないけれども、仲が悪いわけでもない、勝利のために戦う同志であると思っていることです。
―今季のチームの全体像は、田坂監督が開幕前に言葉にして選手たちもそこを強く意識している「最後まで走り、戦う」というところだと理解していいのだと思いますが、それはそれとして、ほかにも今季のチームが表現するサッカーの魅力があれば教えてほしいのですが?
走る、戦うことはサッカーの原点であり、基礎となる部分。それが見る側からすれば一番分かりやすいところだとも思います。「よく走っているな、戦っているな」というのは、まだサッカーに詳しくない方にも理解していただけるはず。まずはそこを認めてもらったうえで、例えば戦術的な部分にも目を向けてほしいなと思うところはあります。
―田坂監督は試合によってメンバーの起用、その配置、ボールの運び方、守り方を変えているとおっしゃっています。
そうです。走る、戦うという部分はいろいろな戦術を表現する上で欠かせないものですから、とても大事。でも、それだけではありません。
―走るだけじゃない、戦うだけじゃない、ということですね。
はい、そうです。戦術的なところの詳しい話はここではできませんが、今日のゲームはこういう狙いがあるんだろうな、今日はあそこを攻略しようとしているんだな、ということは、少し目をこらしてもらえれば分かる時があると思います。「今日はやけに右サイドから攻めに出ているな」とか「いつもより相手サイドバックの裏にロングボールが出る回数が多いんじゃない?」、「今日のビルドアップはいつも以上にボランチの選手が絡んで来るな」とか。そういうことを考えながら見てもらえると、ただ選手が走り、戦うだけじゃなくて、目的を持ってチームとして動いているということが分かってもらえると思いますし、今季のギラヴァンツ北九州や選手のいろいろな魅力も分かっていただけるはずだと思います。そして、サッカーというスポーツをもっと楽しんでもらえるんじゃないかと思います。
―キャプテンである夛田選手はチームをまとめるという役割を背負っていますが、一人の選手としてポジション獲得に向けての戦いにも臨まなければいけません。
開幕して4試合が終わりましたが、僕は第3節のカターレ富山戦で今季初先発。そのゲームでは右サイドハーフでプレーしました。求められる役割とポジションでプレーすることが大事なのは分かっていますが、僕が本職とするサイドバックでまだ先発できていないという事実があります。そして、そのことはやはり悔しくもあるのです。それに対して何も感じないのであれば、プロのサッカー選手はやめてほうがいいと思っているので、サイドバックとして先発できるように、日々のトレーニングから必死のアピールを続けています。
―どのようにアピールするのでしょうか?
ただがむしゃらにアピールするだけではなくて、いまのチーム状況においてサイドバックに何が求められているかの、次のゲームでサイドバックとしてどうプレーするべきなのか、そこでほかの選手との違いをどう出すか、を考えながら練習に臨むことが大事だと思っています。
―自分のアピールとチームをまとめるという同時作業は簡単なものではありませんね。
バランスは難しい。でも、その難しい作業にチャレンジしたい。当然のことながら試合には出たい。そしてチームとして優勝した上でJ2に昇格したいという強い思いもある。どちらかだけではなく、その両方に成功した喜びを味わいたい。
―昇格だけではなく、優勝というところにもこだわる?
個人的に昇格の経験は過去にあるのですが、優勝したことがまだないので。
―昇格の経験はどのチームで?
ターさんが監督だった2012年の大分トリニータでJ2からJ1へ、プレーオフを戦っての昇格でした。その時はゲームにほとんど絡めませんでしたけど。そのあと、栃木SCで2017年にJ3からJ2へ昇格、2020年のSC相模原でJ3からJ2への昇格を経験しています。
―それは非常に頼もしい経験です。ぜひ、二つの目標の同時達成を!
はい、全力を尽くします!
文・島田徹 写真・筒井剛史
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