SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season6
第6回 深掘りインタビュー
岡野凜平 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』のSeason6第6回目に登場するのは、チーム一番の『元気印』岡野凜平選手です。さまざまなポジションでプレーできる多様性が持ち味で、それぞれの位置で求められるタスクをしっかりとこなして増本浩平監督からの厚い信頼を得ています。昨年プロ1年目で経験した過酷なシーズンが自身に何をもたらしたかを含めて大きな成長を遂げたリンペイの中身を深掘りしてきました(取材日/9月12日)。
―先日の練習場で小学生のファンから「リンペイ、リンペイ!」と呼ばれるのを目撃しました。「岡野選手」でも「リンペイさん」でもない。
小学生に限らず、ほぼ皆さん「リンペイ」と呼んでくれます。チームの中で言えば、僕とスンジン(高昇辰選手)くらいが下の名前で呼んでもらえる。ほかは苗字、下の名前でも「君」づけですね。
―オープンマインドの性格が伝わっているからでもあるでしょうし、「リンペイ」という名前自体が漫画の主人公っぽくて親しみがあるし、つい口に出して「リンペイ!」って言いたくなるんだと思います。
今まで「凜平」という名前が身近にいる人とかぶった経験はありません。もちろん両親がつけてくれたものですが、女の子だったら「りん(凜)」にしようと考えていたらしく、でも男だったので「平」をつけてリンペイにしたらしいです。僕自身、この名前がとても好きです。
―第27節時点で26試合出場1得点、4アシスト。この数字に関ししてどのように感じていますか。
1得点4アシストを達成したのが、シーズン折り返し前だったと思います。5ゴール5アシストを個人的な今季の目標としていたので、このペースなら達成できると思える状況でしたが、そこからゴールもないし、アシストも伸びていないので、焦りはありませんが、残り試合で一つでも多くの結果を残したいと考えています。
―ここまでは自身で満足の行くシーズンになっていますか?
最終節を終わってからじゃないと満足できるかどうかは言えません。ただ、去年がある分、今の充実ぶりをうれしくは感じています。去年の悔しさは忘れられるものではないし、それがあっての今の僕、そしてチームだと思っています。
―加入2年目の同期である高昇辰選手と高吉正真選手も岡野選手と同じく26試合出場。今季ここまでの好調は、新加入選手の力も大きいとは思いますが、昨季大いに悔しい思いをした2年目の選手の働きぶりも大きいと感じています。去年のことを今はどう振り返ることができるのでしょうか?
最下位となりましたから、もちろん結果の部分で「良いシーズンだった」とは言えません。でも、去年があったから今の自分、今のチームがあると思うので、そういう意味では「去年があって良かった」と思えます。去年はなかなか勝てなくて苦しかったのですが、でも僕自身はプレーするのが嫌、試合に出るのが嫌、と感じたことは一度もありませんでした。この状況を何とか打開したいと思っていたし、僕以外の選手もみなそう感じていたと思う。そう思えたのはファン、サポーターの方々も本当に苦しいシーズンだったはずなのに、常に僕らを後押ししてくれたからです。そういうことをプロ1年目の僕が感じられたことも含めて、やっぱり「去年は良いシーズンだった」と思えるんですよね。
―去年のようになかなか結果が出ない1年を経験したことが過去にありましたか?
う~ん、ないですね。小、中、高、大学までで「最下位」を経験したことがなかったし、あれほど勝てなかったシーズンは経験したことはありません。だからプロ1年目で、かつてない苦しい経験ができたことはこれから先のことを考えても良かったんだと思います。
―試合後には厳しい言葉も投げかけられたと思いますが、それも糧になった?
厳しいことを言われることが当たり前の状況でした。お金を払って見に来てくれた方々に対してああいう結果しか見せられなかったのだから、いろいろなことを言われるのは当たり前。それを受け止めるしかないと考えていました。
―「去年があって良かった」と思えるのは、「今季のプレーが充実しているからでもある」と先ほどお話しされましたが、去年のことをどうやって今年につなげたのでしょうか?
まず僕自身は、どんな苦しい状況でも自分次第で前へ進むエネルギーに変えられると思っていました。だから日々の取り組みを大事にすることに努めました。あとは、なかなか結果が出ないのは試合に出ていた僕ら一人ひとりにあると理解していたので、とにかくうまくなりたい、強くなりたいと思うようになりました。ただ落ち込むだけではなく、そう考えられたことが今年につながっていると思いますし、そういうふうな考えを僕が持てたのは、周囲の助けもあったからだと理解しています。
―そういう苦しい去年を経験して臨んだ今シーズン。どんな思いとイメージを持ってスタートしたのでしょうか?
結果のところもそうですが、練習からとか、外からではあまり見えない部分にもしっかりと目を向けて、チームに貢献したいという一心で始動を迎えました。
―開幕後4試合は勝利がなかった。去年のことが頭によぎりませんでしたか?
よぎらなかったと言うとウソになります。でも去年を経験しているからこそ、ここで踏ん張らないとまた去年と同じになるというすごく強い危機感が僕だけではなくて、みんなにあったと思うし、それでチーム内で積極的に声掛けができた。そういう雰囲気は去年あまりなかったので、ここから行けるんじゃないかと思えました。
―少し前に増本監督に岡野選手について話を聞く機会がありました。その時に「どこで使おうが、試合途中でどこにポジションを移そうが、常に期待通りの仕事をしてくれるので、リンペイは頼りにしている」と話していました。
本当ですか、ありがたいです。
―監督ばかりではなくチームメイトからの信頼も厚いと思いますが、そうした信頼感を得るために必要なことは何でしょうか?
信頼を得るために「こうしよう」と考えているわけではありません。いろいろなポジションを任される中で、これは当たり前のことだとは思いますが、手を抜かない、軽いプレーを絶対にしないようには心がけています。僕に求められていること、それは強度を出すことや安定感を発揮することだと思うので、そこに全力をかけています。そういうところがもしかしたら信頼につながっているのかもしれません。でも一度得た信頼を失うのも一瞬だということも理解しているつもりなので、自分に求められていることを1試合の中でやり続ける、そしてどの試合でもやり続けることが大事だとも考えています。でもそういう考えは中学のころから自分の中にはありました。もちろん、プロになってからそういう思いは強くなったし、より突き詰めるようにはなりました。
―手を抜かない、軽いプレーをしない、というふうな考えになったのは?
例えば僕の身長だとシンノスケ(伊東進之輔選手)との空中戦ではまず勝てません。でもハードワークという点では勝負ができるし、僕の自信を持っているところ。要するに自分が自信を持ってできることは何なのかを考えた時に出た答えが、そういうことだったんですよね。
―今年のチームはハードワークを重要視するスタイルだから、そういう意味でも岡野選手は今季のチームで活躍できるし、信頼も得ることができているんですね?
そこを出さないと試合には起用されないでしょうね。やっぱり試合には出続けたいから、そこの特徴は常に出す、出し切ろうと思います。
―7月の始めころに岡野選手が試合中に足をつる光景を目にしました。珍しいと思いました。
気温や湿度も関係するんですかね。確かに何試合かでつりました。つった瞬間はものすごく痛いんですけど、チームメイトに伸ばしてもらうと、またすぐに走り出せる。筋肉量が多いのか、それで強いのかは分かりませんが、これまで肉離れとか筋肉系のケガをしたことはありません。
―丈夫な筋肉なんですね。
よくトレーナーの方たちからは「筋肉が柔らかい」とは言われますね。でももともとそういう筋肉であるのかもしれませんが、ストレッチはかなり意識してやるようにはしていますから、それも関係あるのかもしれません。
―今年、やったことがないポジションは?
キーパーはもちろんありませんが、センターフォワード、ボランチ、左サイドバック、センターバックはやっていません。去年はボランチもやりました。
―ポジションが変われば、やるべきこと、タスクも変わってくるはずなのに、よく混乱もせずにできますね。
中学と高校でもいろいろなポジションをやることが多かったので「慣れ」があるのかもしれません。あとは、Jリーグが中心になりますが、いろいろな試合を見ていて、自然といろいろなポジションの選手に目が行くので、そこで何らかのイメージトレーニングができているのかもしれませんね。でも、どのポジションでプレーするにせよ、自分の表現の仕方は変わらない。やっぱりハードワークとか戦うところとか、そういうところを出していくしかないんです。できることが明確だから、ポジションが変わっても戸惑わない、そういうことかもしれません。
―いろいろなポジションができることは本当に大きな武器だと思います。
ユウスケさん(須藤右介コーチ)からも、いろいろなポジションでプレーすることは今後にもつながるし、そこの意識は持ち続けるべきだと言われています。
―いろいろなポジションでプレーできる岡野選手が一番のお気に入りのポジションは?
やっぱりトップ下は楽しいし、やりがいもあります。今年で言えばプレスのスイッチ役としても貢献できますから。でも、課題もあって、ライン間でボールを受けた時にもっと周りを見てプレーすること。それができれば相手も嫌だし、チームの決定機をつくることもできるので。それはマスさん(増本監督)からずっと言われ続けていることです。試合の映像を振り返った時に、リョウ君(永井龍選手)が本当に素晴らしい動き出しをしてくれているのに、僕が見ていない、見えているけれどもトラップが少しズレたがために良いタイミングでパスが出せない。そんな場面が本当に多い。そこは今も意識してトレーニングしているのですが、なかなか。少しずつでもそういう場面を減らしたい。
―ここまで4アシストを記録していますが、そういう意味では藤原健介選手の加入は刺激になっているのでは?
僕だけではなく、ケニー(藤原健介選手)の加入で多くの選手が刺激を受けていると思います。練習に早く来てしっかり準備する姿、練習中の意識の高い要求、それから彼自身のプレーからも良い刺激、良い影響を受けていて、彼の加入はチームにとって完全なプラスです。
―藤原選手は20歳ですが、年齢とかは気にせず、周囲に厳しい要求を出しています。
それが上のレベルでは当たり前のことなんでしょう。もちろん、その要求は正しいものなので、みんなが納得して、応えようとする要求です。そのあたりも勉強になります。
―藤原選手にかなわない部分がありますか?
悔しいけれどもあります。同じポジションの選手ならなおさら感じる部分があるのかもしれません。だからこそ、チームにとってはプラス。最高の刺激剤だと思います。
―永井選手や藤原選手が頼りになる選手であることは事実ですが、彼らに頼りすぎるのもここから先の戦いでは良くないこと、ということを増本監督が話していました。
この前のミーティングでも「人任せにし過ぎている部分と、逆に自分でやり過ぎている部分のばらつきというか、そこのバランスが良くない状況だから、そこを少し意識しよう」とマスさんが話していました。ここからは総力戦になりますから、確かにそこの塩梅は鍵になってくるはずなので、チームで良い塩梅具合を見つけていきたいです。
―岡野選手の4つのアシストの多くはセットプレーからのものですが、昔からキックの精度には自信があったのでしょうか?
ユースの時はセットプレーは蹴っていません。大学の時に蹴り始めましたが、去年は蹴っていない。今シーズンから久しぶりに蹴っている感じです。練習後の自主練でCKをユウスケさんやカネさん(兼村憲周ヘッドコーチ)に手伝ってもらいながらやっていく中で、何とかアシストにつながりましたが、まだまだです。
―永井選手へのCKからの見事なアシストもありました。
あれはリョウ君が素晴らしい。相手との駆け引き、ポジショニングの良さ、そこに入って行くタイミング。
―高昇辰選手とは大学の同期でもありますが、やはり仲はいいのでしょうか?
仲が良い、というレベルはすでに超えています。スンジンといる時間は長いです。今年でもう6年目ですから。
―高昇辰選手は大学時代と比べて変わりましたか? 彼自身は「怒りを抑えるようになりました」と聞きましたが?
えっ、それはウソでしょう。大学時代は監督が怖かったので、そういう態度を少しでも見せると試合には使ってもらえなかったので、抑えていました。だから、今の方が感情を露わにしていると思うんですけどね。
―でも、第27節のFC今治戦でかなり危ないタックルを受けても何も文句も言っていませんでしたよ。
あれはスンジン自身が後で言っていましたが、ケニーとかベンチにいる選手とスタッフが自分よりも前に出てきていたから、驚いていたと言っていました。たぶんキレたかったと思うんですけど。
―4アシストの中で高昇辰選手へのアシストは?
ありません。リョウさんにセットプレーで二つ、ガイナーレ鳥取戦の横パスのもので計3つ、あとはハセ君(長谷川光基選手)にCKから。スンジンにはまだありません。あと少しでゴールという場面がいくつかありましたが、スンジンが決め切れない、あるいはオレが合わせ切れなかった。もう少し互いに合わせれば、取れると思うんですよね。今後に期待していてください。
―岡野選手はコミュニケーション術に優れているイメージがあります。練習生にも下の名前で呼びながら積極的に話しますし。
初めましての人と話すのは結構好きです。掘れば掘るほど面白い人がいるので、そこへの興味ですね。例えば練習生が来て硬いから緊張をほぐしてあげよう、という優しさで話しかけているわけではありません。ただ、その人に興味がある。
―オフはどういう過ごし方を?
マストで温泉には行きます。あとはカフェに行ったり。
―それは1人で?
温泉はスンジン、シンノスケ、シンゴ(大森真吾選手)とかと一緒に。
―伊東選手とは相性が良い?
シンノスケこそ、掘れば掘るほど面白い人間ですよ。最初の印象では面白くなさそうなんですけど、一緒にいると面白いし、メッチャかわいい。愛くるしい、憎めない。アイツに何をされてもたぶん、怒りません。向こうも「リンちゃんに何されても怒んないと思うわ」と言います。シンノスケは、プレーの方もすごくいいんですよね。空中戦に強いし、ボールを失わないし。だからあとは、戦うところとスギ君(杉山耕二選手)やコウタ(工藤孝太選手)のように後ろからの声で前の選手を安心させられる力。そこができれば、アイツ、ここから来ますよ。アイツ、向上心が高いんです。練習試合とかトレーニング時の映像もよく見返すし。見た目『努力しない顔』なんですけど、しっかり努力をする。そこがまたかわいい。
―残りシーズン、どういう姿勢で戦いますか?
「本気で戦う、戦わなければいけない」と前向きな気持ちでいられる今の状況に感謝して、一戦一戦、本気で戦うだけです。最後まで本気で、全力で戦い抜きます!
文・島田徹 写真・筒井剛史
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