SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season5
第5回 深掘りインタビュー
野瀬龍世 選手
『シマダノメ 深堀りインタビュー』Season5の第5回はヴァンラーレ八戸からの移籍で今季からギラヴァンツ北九州の一員となった野瀬龍世選手の登場です。あのスーパーゴールのこと、クールな表情に隠された熱いハートの本質について深掘りしてきました。(取材日/6月29日)。
―第15節のAC長野パルセイロ戦で素晴らしいミドルシュートを決めました。相手の監督も「スーパーゴール」と表して脱帽したあのゴールですが、自身の中でも過去一番のゴールと言えるのでは?
好きなゴールであることは間違いないのですが、去年、ヴァンラーレ八戸に在籍していた時のゴールの中にもお気に入りのものがあります。ホームでのFC岐阜戦(第25節/3-1で勝利)でのチーム2点目のゴール。それが気に入っているのは、そこに“背景"もあるから。
―どういう背景でしょうか?
岐阜戦の1カ月前、やはりホームでのいわきFC戦に僕の父親が実家のある北海道・釧路からスタジアムに見に来てくれたのですが、結局、僕はベンチ入りできたものの出番がなかった。しかもチームは0-5で負けました。せっかく父親が来てくれたのに試合に出ることができず、しかも大敗したことも合わさって本当に悔しくて大泣きしてしまったんです。それで次のAC長野パルセイロ戦で後半からの途中出場でしたが、先制ゴールを挙げて3-1で勝ちました。そのゴールが僕にとってのJリーグ初ゴールでした。
―そこから出場機会が増えたんですね。
そうです。第23節のテゲバジャーロ宮崎戦で初先発、そして岐阜戦で3試合連続の先発出場となりました。その岐阜戦にたまたま休みが取れた父親が「先発が続いているから見に行く」と。まず、その岐阜戦では小牧成亘選手のゴールを左のペナルティーエリア角から右足クロスでアシストすることができました。後半序盤に追いつかれたのですが、今度は自分が勝ち越しゴールを挙げることができました。
―どういう形のゴールですか?
八戸では左サイドでプレーしていたのですが、左サイドから中央寄りに入っていき、右足で巻いたミドルシュートをゴールの隅に決めました。父親の前で決めることができた、またいわき戦のこともあり、少し感傷的な意味も含んだ印象に残るゴールなんです。とはいえ、この前の長野戦のゴールは効き足ではない左足でのシュートでしたし、勢いもあったし、甲乙つけがたいというところです。
―左足にはそもそも苦手意識はないのでしょうか?
蹴る分には、そこまでの苦手意識はありませんでした。あまり強いキックはできなくて、どちらかというとコースを狙うようなコントロールしたキックになることが多かったとは思いますが。でも、今年に入って筋トレもしっかりと行い、体成分分析装置で測ったデータからも筋力がアップしていることを認識していましたし、今季は昨季とは違って右サイドでのプレーが多いので、カットインからの左足シュートというものも練習を積んでいたから長野戦での強い左足シュート、それによるあのゴールにつながったのかなと思います。
―ドリブルやトラップも左足を器用に使う場面をよく見ます。
右サイドでプレーするようになったから、自分のプレーの選択肢を増やすという意味でも、意識的に左足を使っているところがあります。左足は小さい頃から使っていたので、ドリブルやトラップは割と自然な感じでできます。
―アシストとゴール、どちらを意識してプレーしていますか?
どちらも。あるいはその二つじゃなくてもチームに貢献できることなら何でも良いと思ってプレーしています。いまは、とにかくチームのために何をするべきかを考えています。例えばプレスのスイッチを入れる役割も責任を持って取り組んでいます。
―第3節から第13節まで11戦未勝利という苦境の中、どんなことを考えていましたか?
自分が思い描いていたスタートとは異なる前半戦でした。ただし、そういう難しい状況になったのは監督を含めたコーチングスタッフのせいではなくて選手の問題だと思います。特に僕は多くの試合に出させてもらっている身なので、責任を強く感じています。だから、いまはアシスト、ゴールだけではなく、さまざまな面でチームの勝利につながることを、できるだけたくさんしなければいけないと考えていました。
―チームが苦境を脱するには、個人のパフォーマンスを上げるだけではない、別の取り組みも必要だったのでしょうか?
去年、八戸にいた時は僕が一番年下でチームメイトからのサポートも受けながら自由にやらせてもらっていた感じでした。だから、どちらかというと、チームのことよりも自分のパフォーマンスにフォーカスしていればよかった。でも今年は、高校卒と大学卒ルーキー、あるいは高校卒2年目の選手もいるので、自分勝手にしちゃいけないという気持ちもあります。だから、少し難しいのですが、自分の良さを出しながら、周りの若い選手の特徴を生かすことも意識するようにしています。どこまでそれができているかは分かりませんが、そうすることでチームのプラスになるんじゃないかと考えています。
―周囲を生かすという思いは、野瀬選手が得意なドリブルにこだわるだけではなく、時にシンプルにボールをはたくとか、そういうところにも現れているように思います。
僕よりもスピードがある、あるいは推進力がある選手がいるので、" 自分が自分が"だけではなく、そういう選手を使った方がチームとしてうまく行くこともあります。タイミングよく周りの選手を使ってあげることで、その先で自分が生きることもありますしね。
―いまの試合内容を見ていると、攻守で安定感が出てきたように感じます。それは今お話しされた個人の特徴をチームのためにどう生かすか、というところがある程度整理されてきたからなのでしょうか?
個人の特徴を出すことももちろん大事ですが、まずはチームのために一人ひとりがやらなければいけないこがあって、そこを優先した上で個性を出していく。いまは選手たちの意識がそういう方向にまとまってきたんじゃないかと思います。
―チームとして手ごたえを感じている部分は?
攻撃で言えば、ボールを持つ時間が増えれば良い戦い方ができます。押し込む時間が長い方が、奪われた後にボールを奪い返すパワーも出しやすい。そういう形が、例えば長野戦とかはできたと思います。ただ、まだ1試合通してそういう形には持って行けないし、何試合か続けてそれができる、というような安定感はまだないと思います。
―去年のいわき戦で大泣きした話とか、今季ゴールを決めた後の雄叫びを上げる場面を見ると、野瀬選手はクールなように見えて、実は感情表現が豊かな選手だなと感じます。
泣くのは年に一度くらいだと思います(笑)。喜ぶのは、自分がゴールを決めた時だけではなく、ほかの選手が得点した時、あるいはチームが勝った時も同じくらいにうれしい。
―そういえば、第14節のガイナーレ鳥取戦で野瀬選手に代わってピッチに入った夛田凌輔選手が後半アディショナルタイムに決勝ゴールを決めた時、12試合ぶりの勝利が決まる試合終了のホイッスルが鳴った時にベンチ前で派手なガッツポーズをしていましたね。
ゴール、アシストはもちろん、チームが勝つために懸けてきたもの、信念がありますし、それは誰よりも強いという自負もあるので、無意識のうちに喜びが爆発するというか。
―一生懸命に努力を重ねてきた分、成果が出た時の喜びが大きい、ということなのでしょう。今季開始時のデータですが、野瀬選手は身長168センチの体重60キロ。選手としては小さい部類に入ると思いますが、そのサイズをネガティブに捉えることはありますか?
まったく、ありません。小学校、中学校の時もクラスで小さい方でしたが、足は速かったし、ドリブルもうまかったし、と、ほかに勝る部分があったので、周りから身長が低いからと馬鹿にされることもありませんでしたし、背が低いことを気にしたことはありません。
―筋トレで体重増加は?
ギラヴァンツ北九州に入って来た時は56キロでした。60キロはほしいという目標を立てて、筋トレに励んで59キロまで増やすことができました。もちろん、この季節ですから試合が終わったあとは57キロくらいまでには落ちます。そこからまた元に戻すのにまた苦労するんです。
―少食ですか?
はい。1回で多くの量を食べることができません。チームが用意してくれる弁当の白米も、半分くらいで十分という感じです。
―でも、食に関してのこだわりは強い、と思っていました。というのは、次の日の朝食、ランチ、夕飯に何を食べるのかを前日にちゃんと決めている、という話を以前にお聞きしたからです。
それは食へのこだわりというよりも、次の日にやること、スケジュール管理のこだわりですね。タイムスケジュールはメモに記すのではなくて頭の中に入れておくのですが、それが崩れるのが嫌です。
―そのタイムスケジュールが誰かのせいで崩れると?
めっちゃ、困ります(笑)。ただ、自分がやろうとしていたことが崩れないんだったら、誰かの合流もオーケー。先日も、高昇辰選手がランチとお風呂を誘ってきて、それは僕も行こうと決めていたので「いいよ」と。
―話は戻りますが、カロリーはしっかりと取りたいですよね、特に夏場は。
ハイ、なのでトレーナーの方に相談して、カロリーの高い間食を入れて1日5食を取るようにしています。
―食欲にも影響しているのだと思いますが、九州の夏の暑さはやはりきついのでしょうか?
はい。北海道育ち、去年も青森での生活ですから。もちろん、北海道も青森も日中は気温が30度近くまで上がることはありますが、湿気と夜の暑さがこっちはハンパないです。夜にクーラーをつけて寝るのも体調を崩しそうで怖いですし、でもつけないと暑くて寝苦しいし。ほんと、困っています。
―北海道のご出身なので、ウインタースポーツはお得意なんですよね?
父親がアイスホッケーをしていましたし、地元の釧路市にはプロのアイスホッケーチームがあるので、僕も小さいころにアイスホッケーをしていました。戦術とか動きにサッカーと似た部分がありますから、アイスホッケーをしている人は、だいたいサッカーもうまくプレーします。母親はフィギュアスケートをやっていました。
―なぜ、そちらの方向に進まずサッカーを選んだのでしょうか?
三兄弟全員がアイスホッケーをしていましたが、長兄が小学校に入ってすぐにサッカーを始めたので、2番目の兄、それから僕も小学校に入ってすぐにサッカーをするようになりました。父親は3人のうち誰かがアイスホッケーをしてくるかも、と期待していたようですが…。
―スキーやスノボーもうまいのでしょうか?
その二つはケガをしやすいからということで、あまりやりませんでした。ウインタースポーツとしてはホッケー1本です。僕、めっちゃ早く滑りますよ!
―アイスホッケーのフィジカルコンタクトはサッカーよりもかなりハードですよね?
もう、小学生でもバッコバッコです。体が小さいのでやられましたが、怖くはない。目の前の相手に絶対に負けたくないという思いで、どんどん向かって行きましたね。
―昨季はスタジアムの施設課で働きながらのJリーガーでした。今季から本当の意味でプロとなりましたが、ここまでの時間をどう感じていますか?
去年とは違い、サッカーに集中できる、サッカーのことを考える時間が増えたことでとても充実した日々を送ることができていますし、そういう生活をできることに幸せを感じています。いまはチームとして苦しい状況ですが、必ず良くなる、今のこの苦しい状況も後に必ず良い経験として生きてくると信じているので、苦しい現実から逃げずに、とことん向かって行きたいと思っています。残りのシーズン、チームのために自分ができることは全部やる。チームみんなでこの苦境を乗り越えて、上に行きます!
文・島田徹 写真・筒井剛史
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