SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season3
第7回 深掘りインタビュー
小林伸二 監督兼スポーツダイレクター
(後編)
『シマダノメ 深掘りインタビュー』のSeason3第7回目、小林伸二監督のインタビュー後編は、スポーツダイレクター専任となる22シーズンに向けての所信表明ともなるインタビューとなっています。(取材日/12月16日)。
「アグレッシブなサッカー」。言葉にするのは簡単ですが、それを実際にやるのは簡単ではない。
そうそうできるものではありません。やはり練習の賜物です。19年、20年の練習は相当にきつかったはずで、選手も逃げ出したいくらいだったと思いますよ。
去年、髙橋大悟選手あたりも「このサッカー、本当にキツイっすよ」と話していました。
周りの人から「面白いサッカーしていますね」とよく言われました。それはうれしい言葉でしたが、やる方は本当に大変。選手は相当に走らなくてはいけないし、僕らは動き続け、切り替えを連続することを選手にやらせる、刷り込むのが本当に大変でした。だから、選手はものすごく練習をした、ということです。
今季終盤に「選手個々は成長したが、それをチームの成長につなげられなかった」というお話しをされていました。
コンディションとか選手個々の状態は良くなっていったのですが、勝っていないから疑心暗鬼というか「これで行くんだ」という形になっていきませんでした。去年は勝っている時の試合の締め方は「ボールを回せ」だった。でも今年はそれをやろうとしたら途中で引っかけられてカウンターを食らってやられるから前にボールを蹴ってそこでキープするという形。去年、ボールを回せたのは、19年のJ3でそこをしっかり積み重ねていたからです。
去年のJ2での躍進は19年J3を戦った時に作り上げたベースがあったから、ですか?
それはもう絶対です、間違いない。ちゃんとやった分だけ体がついてくる。もちろん、そういう攻撃的なところに特徴がある選手を集めたからできた、というところはありますよ。だから守備のところはあまりできないからそこを突かれると苦しむ。だからハイプレスで前から行こう、相手に隙があるうちにボールを奪って高い位置でサッカーをしよう、という考えになったわけですからね。
今年も、うまく行かない中で、攻撃的なスタイルを実践しようとしたことに悔いはありませんか?
ありません。今年、うまく行かなかったけれど、今年いた選手の多くが来年も残ってくれれば、必ず良い方向につながると考えていますから。天野賢一新監督は僕と3年間やってきたし、来年はもっと細かいところにこだわりながら攻撃的なサッカーを追求してくれると思います。天野君は現役時代は中盤の選手でしたから、フォワードだった僕とは同じ攻撃的なスタイルを追求するにしても少しアプローチが変わってくるとは思いますけどね。
現役時代のプレーポジションの違いがどう影響しますか?
例えば僕はフォワードだったから、フォワード視点で物事を考えるところがあると思います。ビルドアップにしても、まずはフォワードに当てておいてから、そこから幅を使っていく、という考え方になりますが、中盤でプレーしていた天野君はビルドアップのところのボールの動かし方は僕とは別のやり方になるはずです。もっと多彩なボールの運び方を選手に植え付けていくんじゃないでしょうか。
来季、チームの指揮を執ることが決まっている天野新監督とチームづくりに関してすでに話していることはありますか?
細かいところはまだですが、「今年苦しんだ選手たちは来年伸びるだろうね」という話はしています。だからJ3に落ちてしまったけれど「チームに残る」と言う選手には期待するし「そういう気概を持つ選手たちを集めたいね」と話しました。
攻撃的なスタイルの継続、という話も?
来年はJ3を戦いますが、J2に上がった時のことも考えたチームづくりはしなくてはいけない。その上でJ2の半分は守備的なチームになる流れはまだ変わらないと思うので、そこを勝ち抜いていくのはやはりそれとは異なる攻撃的なスタイルだと思う。日本人のアジリティーが特徴のフィジカル面を考えても、そっちのほうが良いと思うし、ギラヴァンツ北九州としてのスタイルは攻撃的であるべき、それを追求し続けるべきだと考えています。天野新監督もそこは同じ気持ちのはずです。もちろん、守れないとダメですよ。ただ、同じ守りでもリアクションではなくて自分たちからボールを奪いにいく能動的な守備ができるチームがいい。天野新監督は、アグレッシブだけど、相手によってやり方を変えることもできる柔軟なチームをつくることもできる指導者だと思うので、そこは期待したいですよね。
そもそも天野新監督とはどういうつながりがあったのでしょうか?
僕が北九州の監督を務めることが決まってコーチを探す際に、20年からギラヴァンツ北九州に来てもらうことになるチョーさん(長島裕明コーチ)に「誰か良い人いない?」と聞いたら「流通経済大でコーチしている天野君はどうですか?攻撃に関しての指導は多彩ですよ」「あ、浦和レッズでコーチをしていた?」という流れから東京で会って「J3なんだけど、J1に上げたいから手伝ってくれない?」と話して来てもらったんですよ。そしてガッキー(新垣貴之選手=流通経済大出身)の獲得は天野君の推薦があって決めたんですよ。
今季を総括する中で「チームとして、クラブとして薄っぺらだった、深みがなかった」と口にされていました。
チームとして薄っぺらだったというのは、ここまで話してきたように戦術的な刷り込み、フィジカル、メンタル面での強靭さが足りなかった、それを備えるために時間が足りなかった、ということ。それは大幅な選手の入れ替えでチームとしては「1年目」だった、ということを考えると致し方がないことでもあります。
クラブとしての深みとは、何でしょうか?
ハードとソフト面があります。ソフトに関して言うと、お金があれば良い選手を取ることができますが、そうでないなら自分たちで育てなければならないわけで、それには時間がかかります。そして良い選手を育てるには良い指導者が必要で、その人材を連れてくる、あるいは育てることが必要になります。そのためにも時間はやはり必要。時間はかかるけれども、その重要性を理解して、実際に取り組んでいるのかどうか、そこがクラブの深みの一つだと思います。そうやって良い人材を育てても、良い人材は誰もが欲しがるわけで、引き抜かれる可能性が十分にある。そこも含めて、育成を継続できる仕組み、そこにハード面もかかわってくるわけですが、そこを充実させる。それがクラブの深みを生むのだと思います。
人材が深みをつくる。
そうです。良い人材を残すには当然、お金も必要、そこにお金をかけられるクラブにしなくてはいけません。
そのあたりのことは、来年スポーツダイレクター専任となる伸二さんの仕事になりそうです。
まずは見る。見て、トップとアカデミーをつなげていきたい。特に指導者の育成が大事な仕事になると思っています。あと、クラブとして足りないことがたくさんあるので、それを少しずつ充実させていくこと。
となると、トップチームの練習も見る、と?
見ます。見て一度事務所に帰ってきて、夕方、いずれかのアカデミー・カテゴリーの練習を見に行くつもりです。トップチームもアカデミーも、選手はもちろん見ますが、指導者を見る。そこに寄り添って行きたい。とにかく指導者の育成が肝です。当然、外のチームの練習も見学させていただいて、いろいろと学びたいと思っています。
トップチームの強化も担当されるんですね。
はい、今まさにそこの仕事が忙しくて。今が勝負ですから。
では、天野賢一新監督について。3年間ともにトップチームを指導してきたわけですが、天野さんはどういう人物なんでしょうか?
サッカーが大好きな、情熱家。選手に対して厳しいところがあって、僕が言い切れないところもちゃんと言ってくれました。でも厳しいのは選手を大事に思っているから。勉強熱心で、最新の戦術を常に頭の中に入れているし、40代の指導者の中ではかなり優秀な人材だと思っています。だから、早く指導者S級ライセンスを取ってほしかった。普通、チームのヘッドコーチとして迎え入れたらS級ライセンスを取りに行かせるということはないのでしょうが、僕の後継者だと考えて、それをしてもらった。僕は最初から監督としての仕事は3年で終えてあとは任せる、と考えていましたから。
3年と決めていたんですね?
そう、北九州でね。去年、J1昇格を狙う2チームからオファーが来ていたんですけど、僕は「契約が残っているし、ギラヴァンツ北九州をJ1に上げたいので」と断りました。
今後、どこかのチームの指揮を執ることは?
「どうせムズムズしてやるんでしょ?」と周囲からは言われるんですけど、やりません。
本当ですか?
ん~、まあ今後のことは分からないか…。アビスパ福岡で1年間強化部長をやらせてもらった時に、クラブの見方、チームの見方、選手の見方という部分でとても良い勉強をさせてもらって、その後に監督という仕事をした時に大いに生きた部分があるので、来年からスポーツダイレクター専任となって、またいろいろなことを学ぶと「また指導で生かしたい」と思う可能性はゼロではないかもしれませんね(笑)。でも、スポーツダイレクター専任ですから、さっき話した仕事にまずは集中します。
トップチームとのかかわり方はどのように考えていますか?
出しゃばり過ぎないように、だって監督がいるわけですからね。グラウンドには毎日行くつもりですが、ジャージ姿では失礼なのでスーツで行こうかな、と考えたり。でも、全体練習が終わった後に選手と一緒に走ったり、個人練習の球拾いはしたい(笑)。スポーツダイレクターという立場ですが、ピッチに、グラウンドに行かないと、いろいろなものは解決できないと思っています。それは絶対です。
文・島田徹 写真・筒井剛史
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小林伸二監督兼スポーツダイレクターの一口感想
「すごくやわらかいのですが、ぶりの旨味をしっかり感じられるのと、タレの味も染みていておいしいです!」
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