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シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』No.004

シマダノメ『見たよ!聞いたよ!練習場で!』No.004

5月26日の天皇杯1回戦の徳山大戦で今季公式戦初ゴールを挙げた池元友樹選手は安堵しながらもそのゴールがPKによるものであることと、「やはりリーグ戦で取らないと」と、素直な思いを口にして満足からは程遠い表情を見せていたが、ついに待望の初ゴールが生まれた。Y.S.C.C.横浜とのリーグ第11節の後半54分、藤原奏哉選手の縦パスをペナルティーエリアの左で受け、お得意のシザースフェイントを入れた後に左足を思い切り振り抜いて逆サイドのネットを強烈に揺すったのだった。背番号と同じ「11」試合目にして生まれた歓喜の初ゴール。その裏話がなかなか興味深いものだったので、紹介を。

このYS横浜戦は開幕から10試合連続で先発していた池元選手がついにベンチスタートとなった試合でもあった。試合前日までにベンチスタートとなることを小林伸二監督から知れされていた池元選手だが、指揮官からどんな言葉でそれを伝えられたか確認すると「熊本戦ではパスの選択肢もあるところで、僕は全部シュートという選択をした。そうして8本のシュートを打ちながら一本も決めることができなかった。そういう結果なので、今回はベンチからのスタートとしたい、と伝えられました」との答えで、これは小林監督がYS横浜戦後の会見でも語った言葉通りのものだった。

まず、この小林監督の言葉で池元選手は良い意味で奮起した。不満を口にするわけではなく、出場した時に備えて集中力を高めることに力を注いだのだ。試合に備える練習でサブ組に入ってプレーする池元選手のパフォーマンスの良さに気づいていたのは先発組のゴールマウスを守る高橋拓也選手だった。「イケさん、めちゃくちゃプレーがキレてたんですよ。だからYS横浜戦では何かやってくれるかも、という予感がしていたんです。これ、後付けじゃなくて、本当に」。この高橋選手の予感が的中することになるわけだが、あの今季初ゴールが生まれる流れをつくった出来事の一つが『今季初のベンチスタート』である、と言っても間違いないだろう。

そしてもう一つ、これも小林監督が試合後の会見で話していたように「思い切り足を振り抜く」というアドバイスも効いていた。「なかなかゴールが取れないことで、ていねいにシュートを打とうという意識が働いて、どこか置きにいくようなシュートが増えていたように見えたので、まずは思い切り足を振り抜いて強いシュートを打つことを意識するようにイケには話した」と言う小林監督のアドバイス通り、あのゴールはまさしく左足の強振シュートによるものだった。

ただ、小林監督の見立てと少し異なるのは、熊本戦で8本のシュートを放った池元選手はそれが得点にならなかったことを反省しながら、でも焦っていたわけでもなく、だからシュートを置きに行っていたわけでもなかったということ。「あの熊本戦、久しぶりにフォワードとして楽しめた試合でした。これまで長くプレーする中でさまざまなシュートバリエーションを身につけてきて、それをあの試合ではたくさん出すことができた。それが楽しくて。まぁ楽しみ過ぎて、小細工が過ぎて、結果、それが考え過ぎているようにも、あるいは置きに行っているように見えたのかもしれませんね。でも、これを続けて行けばそのうち点は取れるんじゃないか、なんて思っていたりもしたんです」。

つまり、なかなか点が取れない状況にもかかわらず、池元選手は焦るどころか、手ごたえをつかんだことによる余裕さえ持てる状況にあったということ。だからこそ、ベンチスタートという厳しい決断を下した小林監督のアドバイスを素直に試してみようと思えたのだろう。「確かにいろいろと考え過ぎたかなとも思っていたので、監督に言われたように純粋に強く打つというところに戻ってみようかなと思ったんです」。それが左足の強振に至るまでの流れだ。

強く打ち抜くという初心に戻って結果を残した池元選手に初ゴールで自分の中で変化が生まれそうかと尋ねるとこんなふうに返してきた。「あまり変わったとは思わないけど、でもきっと変わるんだろうなと思う。変わったと自覚するのは、これから得点を積み重ねいったときだと思う。だから、次の2点目を早く取りたいし、そこから、もっともっとゴールを重ねて自分の中に起こった変化をしっかりと感じ取りたい」。

ここまでが今季初ゴールを主人公である池元選手の目線で見たという意味で『裏話のオモテの話』とするなら、小林監督から見た場合の『裏話のウラの話』もあるので、続いて紹介を。

熊本戦で結果が残せなかった池元選手に対するYS横浜戦でのベンチスタートという小林監督の決断はとても厳しいものだったが、その厳しさの裏には優しさと、選手の個性を生かすことに力を惜しまないというこだわりが隠されてもいた。実はYS横浜戦も池元選手の先発起用を継続しようとの考えが小林監督の頭の中にはあった。得点は取れていないが、高いキープ力と豊富なアイディアがもたらす攻撃面と、気の利いたプレスバックを含めた守備面の両方での貢献度を高く評価していたからだ。しかし、「このまま(先発で)押すことが果たしてイケのためになるのか」の考えが浮び、再考の末にベンチスタートを選択したと言う。

そこに至る決断には天皇杯1回戦の徳山大戦での成功例が大きく影響していた。「徳山大戦もベンチスタートだったが、残り30分という短時間のプレー時間での得点を求めた。そして、イケは見事にこたえてくれた。得点はPKによるものだったが、そのPKも自分が倒されて得たものだったし、そのほかにもシュートチャンスをきっちりとつくりだしていた。これを僕は評価していた。そして熊本戦も確かにチャンスをものにはできなかったけど、パスではなくシュートを打つという決断とその心意気はフォワードとしては実に良いことだと思っていた。だから、プレー時間を短くすることで得点により集中できる状況をつくりだしてみようと考え、YS横浜戦の先発から外した」と、ベンチスタートが池元選手の奮起を促すためだけのものではなかったことを明かした。もちろん、これを池元選手は知らない。

小林監督は選手個々に異なる個性や特徴をどのようにすればうまく引き出せるか、それをチームの中でどう生かすかに、全力を傾けられる人。時間はかかるかもしれないけど、粘り強く刺激を与え、時に見守りながら、未来に向けての種を撒き、輝く芽を育てる達人だ。これが池元選手の今季初ゴールにまつわる裏話のウラの話。

文:島田 徹

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