SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ Season4
第3回 深掘りインタビュー
中山雄希 選手
『シマダノメ 深掘りインタビュー』Season4の3回目は今季加入組の一人で、攻守でハードワーク、トップやサイドハーフと複数の攻撃的ポジションでプレーしている中山雄希選手の登場です。献身性の高いプレーの源やパーソナリティーを深掘りしてきました。(取材日/6月29日)。
―ご出身は埼玉県ですね?
いまは、さいたま市に編入された岩槻という街で育ちました。埼玉スタジアム2002まで自転車で行ける距離にある街です。
―埼玉県はサッカーどころですね。
岩槻に住んでいましたが、小学校時代にプレーしていた少年団は浦和のチームです。浦和の少年団はレベルが高いということで、まず父親が見学に行って、良いチームだからそこでプレーしてみよう、となりました。父親は練習のたびに車で送り迎えしてくれました。その少年団も含めて浦和のチームのレベルは本当に高くて、そこでプレーできたことが僕にとっては良かったと思います。
―どういうサッカー少年でしたか?
フォワードでしかプレーしたことがなくて、とにかくゴールを取ること。それだけに無我夢中で、チームメイトへのパスなんて考えない子どもでした(笑)。
―今とはかなりイメージが異なりますね。
そうですか? 中学校くらいまではそういうエゴの強いプレーヤーでしたね。とにかくゴールを決めることが喜び。でも、そういう年代って、もしかしたらそういう気持ちも大事で、だから上達していった、とも思えるんですよね。
―そこから気持ちやプレースタイルが変化していった?
中学になるとうまい選手が増えて、そういうレベルの高いところでは自分の力だけではうまくプレーすることができないと痛感しました。高校でも同じように苦しみましたが、一番は早稲田大学に入ってからですね。厳しい環境の中で何とか踏ん張っている間に、自分のためだけではなくて誰かのために、ということを大事にするようになっていきました。プロになることができたのも、そういう気持ちの部分の変化が大きかったと自分では思っています。
―サッカーをプレーする上で大事にしているマインドはありますか?
いつも意識しているのは感謝の気持ちを念頭に置いてプレーすることです。ここまでサッカーができているのは、まず両親のおかげ。いろいろな面で僕を支えてくれた家族への感謝と、プレーヤーとしての自分を成長させてくれた指導者の方々への感謝をいつも持ちながら練習に励み、試合に臨んでいます。
―そういう方々への感謝はプレーにどういう影響を及ぼすのでしょうか?
自分のためにプレーするとどうしても独りよがりのプレーになるし、そこで出せるパワーも限られたもので終わるような気がします。でも、誰かのために頑張ろうと出すパワーはそれとは比較できないくらい大きなものだと思います。その「誰かのために」が僕の場合は感謝の気持ちとつながっています。
―2017年に横浜FCでプロとしてのスタートを切りました。プロになってから気持ちに変化は?
感謝の気持ちで、という軸は変わりませんでしたが、もっと自分を磨くために試行錯誤は必要だろうと考えるようになりました。
―18年シーズン途中で横浜FCから鹿児島ユナイテッドFCへ移籍。そのあとアスルクラロ沼津(19―20年)、SC相模原(21年)、そして今年ギラヴァンツ北九州に。北九州がプロになって5クラブ目ですが、移籍はやはり大変なことなのでしょうか?
最初の移籍となった鹿児島の時は苦労しました。シーズン途中、夏の移籍でチームになじむのも大変でしたし、一人暮らしも初めてだったので、生活面でもいろいろと大変でした。
―初めての一人暮らし?
大学時代は寮生活でしたし、横浜FCでプレーしていた時は父親と一緒でしたからね。自炊も初めてでした。
―その後の移籍については?
鹿児島での経験があったので、かなり助かりました。オフシーズンの過ごし方も工夫しました。やっぱり新しいチームに行って自分の存在をすぐに認めてもらう必要があるので、ストロングポイントを始動してすぐに、あるいはキャンプでしっかり表現できるように、オフの間にかなりコンディションをトップレベルに近いくらいにまで上げていくようにしていました。
―ここまでのプロ生活で一番苦しかったのはいつですか?
相模原でプレーした去年ですかね。夏以降に出場機会も増えたのですが、残留争いという苦しい戦いを過去に経験したことがありませんでしたからね。そして結果的に降格となり大きな責任も感じました。むずかしいシーズンでした。
―相模原で降格が決まった瞬間はどんな気持ちに?
東京ヴェルディとの最終節で勝てば残留できるという試合で僕は先発出場。試合序盤(17分)に1点を食らって、後半にさらに2失点。正直、何もできないまま敗れたゲームでした。完敗しての降格に、自分とチームの力不足を痛感させられました。勝てば自力で残留できるというところまで持って行けたのは良かったのですが、最後に能力不足という事実を突きつけられた格好でしたから、悔しかったし、情けなかったです。
―その悔しさを感じて今季加入した北九州で何を残したいと思いましたか?
もちろんチームの最重要目標であるJ2昇格に貢献したい、という思いです。
―同じJ3チームへの移籍です。
そこは最後まで悩んだ部分でもあります。でもサッカープレーヤーとしては先がそれほど長くない28歳という年齢にもなったので、別のクラブで、別の経験も積みたい、という思いもありました。
―北九州への移籍を決断した一番の理由は?
去年相模原の一員として対戦した時にすごく良いクラブ、チームだな、と。正直、相手としてはとても戦いづらいチームでした。逆にもしそのチームの一員になったら、と考えるとすごく楽しいだろうし、また自分のためになると考えたので移籍を決めました。
―2022シーズンが始まって半年。加入前にイメージしていた時と比べると?
チームとしても個人としてもまだまだ足りない。チームとしては順位的にも低く、サポーターやスポンサーの方々を含め、支えていただいている人たちに悲しい思いをさせてしまっているので、シーズン前に描いていたものではありません。ただ、まだ終わっていないので、ここから巻き返せるチャンスは十分にあると思っています。同時に崖っぷちに立っていることもチームのみんなが理解しています。だから、シーズン前のイメージに届くように、まだまだ諦めずに戦っていきます。
―崖っぷちでの挑戦にはメンタル的なたくましさも必要です。
僕はいろいろなチームで手にした経験があります。沼津ではJ2クラブライセンスを持っていない状況で戦う難しさを経験しました。鹿児島ではJ2昇格を経験し、逆に去年は相模原でJ3への降格も経験しました。そういう経験をする中で少しはメンタル的にもたくましくなっていると思います。
―第5節から13節まで9戦未勝利という苦しい時期に心がけていたことは?
チームのためにハードワークをいとわないこと、それを常に念頭に置きながら、前線でプレーしているので得点に絡んで勝利に導く、という思いですね。
―第14節・カマタマーレ讃岐戦で10試合ぶりの勝利。久しぶりの勝利で、あらためて大事だな、と感じたことは?
チームが連動していた、そのつながりは大事だな、と。プレーで複数の選手がつながる、ということはもちろん、それだけではなくて、最後に押し込まれた時間帯に「みんなで踏ん張ろう」という精神的なつながりがしっかりとありました。プレーと心、両方がつながっていることの大切さをあらためて感じました。
―精神的なつながり、は押し込まれた時間帯での選手同士の声掛けに表れていたのでしょうか?
そうですね、いつも以上に言葉を掛け合っていました。その声も前向きなものが多かった。セットプレーが連続した終盤では、お互いの集中力を保たせるような厳しい言葉、良い意味で殺気立っていました。
―そういう声が出るようになったのは9戦未勝利の苦しさを味わったから?
そうだと思います。一人ひとりの危機感の表れだと思います。それが、つながった、のだと思います。
―北九州に来て半年。この街はいかがですか?
いろいろなところで、いろいろな人に話していますが、お世辞抜きでとても良い街だと思っています。人が温かい、ギラヴァンツ北九州を支えてくれる人、愛してくれる人が多いこと。あとは自然と都会のバランスが良くて住みやすいんです。
―お気に入りのスポットは?
スーパー銭湯とか。
―佐藤亮選手の動画もぜひ見てください。北九州に来て変えたこと、変わったことはありますか?
去年いた相模原ではグラウンドの使用時間が決まっていたので、チームの全体練習が終わったらすぐに引き揚げなければならず、自主練ができませんでした。でも北九州は自主練ができるので、そこはありがたいです。
―天野賢一監督が中山選手に「やり過ぎるなよ!」と声を掛ける場面を目撃したことがあります。
そうですね、やり過ぎない、そのバランスは大事です。でも、去年できなかった分、思い切りやれることがうれしい。そこも感謝です。筋トレルームもあるし、高め合える場所であることをありがたく感じています。
―自主トレが十分にできるようになってプラスになったことは?
コンディション面は去年よりも良いと感じています。練習後のたった20分のジョギングでも、それを継続するだけで体の感じが全然違います。去年は試合で足がつることがあったのですが、今年はありません。ジョギングしていることが理由かどうかは定かではありませんが、実際に疲労の蓄積をうまく解消できているんだろうとは感じています。
―オフの楽しみは?
家でサッカーのゲームをやっていることが多い。あとはスーパー銭湯、サウナに行くこと、ですかね。
―先日は、「筋トレを語る」の動画でいろいろと教えていただきましたが、食事の面もかなり意識しているんじゃないか、と思いまして。
最低限のことを意識している感じです。ラーメンを含めた麺類、パンなど小麦由来の食事は摂らないようにしています。血液検査をした時に、そういう食事は控えた方がいいだろうとのデータが出たので、そこから意識するようにしています。
―基本は外食でしょう? 栄養のバランスを取るのが難しいのでは?
外食は多いのですが、栄養士の方の話を聞き、参考にしながら野菜をプラスするとかすれば、問題はないのかな、と。ただ、自炊もしなきゃ、とは思っていて、そろそろ始めようと思っています。
―包丁はうまく扱えるのでしょうか?
持っていることは持っています。もし、指にテープを巻いていたら自炊始めたな、失敗したな、と思っていてください(笑)。
―今季はここまでサイドハーフとトップでプレーしています。
両サイドハーフ、1トップ、トップ下と、ありがたいことにいろいろなポジションでプレーさせていただいています。そこに関しては自分のプレーの幅が広がるという意味で、天野監督には感謝しかありません。
―ポジションによって当然、意識することも違うと思います。
フォワードでプレーするときは、相手最終ラインと駆け引きして裏を取ること、あるいは起点をつくるためにしっかりボールを収めることを意識しています。サイドハーフでプレーする時は、外に開いてボールを受けることが多いので、ドリブルでの打開を意識します。基本的にはどのポジションでプレーしても自分のストロングポイントをしっかり表現することをまずは意識しています。当然、守備面はポジションによって役割が異なるので、それぞれで求められていることを理解して実践しています。
―中山選手のストロングポイントとは?
背後への抜け出し、左足のシュート、一瞬のスピード、そういうところです。それはどのポジションでプレーする場合においてもしっかり表現したい、しなければいけない。あとはハードワークとチームのために、という思い、ですかね。
―複数のポジションで起用されているということは、戦術理解度が高いからでもあると思います。
そういう評価ならうれしいのですが、自分ではまだまだ足りない部分だと思っています。
―少年時代に得点にこだわっていた中山選手ですが、今は得点とアシストのどちらを重視していますか?
やっぱり得点への思いは強い。前線のプレーヤーである以上そこはなくしてはいけない気持ちだし、そのためにエゴを出すことも大事。ただ、アシストも得点することとチームを勝利に導くために大事な仕事だという視点で考えられるようになったので、バランスよく取りたい。
―今季ここまでリーグ戦で1ゴール、天皇杯で1ゴール(7月2日時点)。この数字に関しては?
全然、ダメ。試合出場時間と回数からしたらまったく物足りません。チームのためにプレーしたいと言いながら、その数字では話になりません。
―まもなくシーズン前半戦が終わります。個人的な意味でのベストゲームは?
相模原戦は古巣戦ということもあり気持ちが昂り、PKでの得点と狩土名禅選手のゴールに絡むことができましたが、結果的には敗れました。やはりベストゲームは自分が勝利に導いたゲームであるべきなので、まだベストゲームはありません。
―シーズン後半戦に向けてチームと自分に期待することは?
かなり苦しみましたが讃岐戦で久しぶりの勝利を挙げました。それを大事な一歩としてシーズン前半戦を良い形で締めくくって後半戦に入り、少し遅れましたが、昇格への逆襲へ向かいたい。ここからまだやっていける期待感はありますし、自分もこのままでは終われないという思いもあるし、自分が昇格への原動力となってやると強く思っているので、ここから爆発してチームに貢献したいと思います。
文・島田徹 写真・筒井剛史
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