SHIMADANOMEシマダノメ
シマダノメ 第10回
深掘りインタビュー 藤原奏哉選手
『シマダノメ 深掘りインタビュー』の第10回目は、攻守で貢献するMF22藤原奏哉選手の登場です。加入2年目の今季、一皮むけた印象が強い藤原選手のボランチとしての成長・変化と、こだわりについて深堀りしました。謙虚さはそのままに、でも、ただ控え目なだけでは終わらないぞ。そんな欲が見えるインタビューとなりました(取材日=2019年7月10日)。
―今季最初の試合出場は第7節のブラウブリッツ秋田戦。以降、先発での起用が続くわけですが(第15節・長野戦まで)、なぜ出場機会を得られたのか、そこを自分ではどのように分析していますか?
シーズン序盤は、監督、コーチが代わる中で自分の良さをアピールできていない、それをうまく伝えることができないから出番がなかった。あとは、コンディション調整が不十分だったというのもあるかもしれません。去年もそうだったんですよね(※第9節の秋田戦で初出場、以降15節まで連続先発)。そこの部分の出遅れが序盤に出場機会を得られなかった原因かな、と。そして時間はかかったけれども、自分を出し、理解してもらえたタイミングというのが秋田戦の前だったんだと思います。
―新しい監督やコーチへのアピールが遅れるというのは、人見知りとか、性格も関係しているのでしょうか?見ていると、藤原選手は、例えば本田圭佑選手のようにビッグマウスというか有言実行タイプではないような気がするんです。
言葉で監督に自分の存在をアピールすることはありません。えっと、ほかの選手ってそういうことしてるんですかね?する人もいる?そうですかぁ。僕も本田選手のように堂々と物を言えるってことはすごいことだと思います。なかなかできるもんじゃないです。自分もああいうふうにならなきゃ、とは思います。上に行けば行くほど、自己主張って大切になってくるはずですから。でも、簡単ではないんですよねぇ。
―今現在は、控え目な性格に見えるのですが、昔からそうでしたか?
小学校のころは、やんちゃというか、自分が一番、という感じだったんですけど、中学校に入ってから変わりましたね。
―何がきっかけで?先輩にガツンとやられたから?
中学の時は街クラブの所属だったので、そんなに上下関係が厳しかったわけではありませんから先輩の影響ではありません。おそらく、小学校の時に先生とか監督から結構怒られていたので、中学校に上がったら変わらなくちゃ、こんなんじゃダメだ、と、自分で思ったんじゃないですかね?
―それが人のことを考えてプレーする、という今の藤原選手のスタイルにつながったのでしょうか。そういうサポート気質というのは、自分のストロングポイントだと、去年加入した時に藤原選手から聞いた言葉でした。ですが、今季、出場機会を得るようになったきっかけは『欲』にある。これは小林伸二監督に藤原選手のことを聞いた時に出てきた言葉でもあるんです。「例えば安全な横パスやバックパスが多かったのに、挑戦的な縦パスが出せるようになったし、ほかの人のサポートでも、後ろではなく前にポジションを取って、次の攻撃に向かう意識が強くなった。ソウヤの中で欲が出てきたんじゃないかな」と小林監督がおっしゃっていたのです。
監督には練習の時から「常に前を意識したプレーをするように」と言われていて、それを頭の中に置いてプレーしてきたので、徐々にできるようになってきたのかもしれません。
―守備ではインターセプトの回数が増えたように思いますが、それも『前』を意識した成果なのでしょうか?
守備の第一の選択はインターセプトで、それは以前から意識していたことではあったので、いまの話の流れの中にある欲とは関係ないと思います。そして僕がインターセプトできているのは、チームとして前から相手に圧力を掛けることができているからです。前の選手がプレスに行ってくれてボールホルダーの選択肢を限定してくれているので、僕はパスコースを読んで思い切ってインターセプトを狙いに行けているんです。
―では、攻撃における『前への意識』の解説をお願いします。
今季はチームとして速い攻撃、どんどん前に出て行く攻撃というものを狙っていますから、配球役となる僕たちボランチもなるべく早く縦にボールをつけることが必要になります。確かに去年までは、横パスやバックパスが多かったと思います。それは奪ったボールを大切にするという意識が働いてのものだったとは思いますが、今年は攻撃的に、常にチャレンジしていくというチームスタイルなので、セーフティーよりもチャレンジを取るというか、常に前を見て、そこに向かう攻撃を意識するので、フォワードへのクサビのパスや相手の背後を突くパスを狙うようになりました。実際に今季はフォワードの選手と目が合うことが多くなったんです。そこは僕にとっての大きな変化ですね。
―前に向かってプレーするためにはポジショニングや体の向きも重要ですか?
それはとても大事です。前を見ることができる位置取り、あるいは体の向きは去年よりもより強く意識しています。例えばボールを受ける時は常に半身の姿勢で。ただ、まだまだ不十分ですけど。
―ボールを持ち出す、つまりドリブルでボールを前に運ぶことは意識しますか?
もちろん相手が出てこない時は自分でボールを持ち出すこともしますが、それでも僕が大事にしているのは、止めて出して、動いてまたボールを受けて、というプレーです。
―スピーディーな攻撃を仕掛けるために自分のところではあまり時間を使いたくない?
いわゆるゲームメーカータイプの選手なら、自分がボールを持つ時間は多少長くてもいいと思うんですが、僕はそういうタイプの選手ではないので、なるべく僕のところで時間を使わずにボールを動かして、チーム全体としての攻撃のテンポを上げることが大事だと思っています。
―前の選手が良い状態の時に、良いタイミングでボールを受けて、余裕を持ってプレーできるように、自分はシンプルにプレーする、と?
そういうことです。
―藤原選手のようなプレースタイルだと、『黒子的な』という表現をついついしてしまうのですが?
チームスポーツなので、一人ひとりの役割は異なります。自分では黒子の仕事をしてやろうと思っているわけではありません。ボールを奪って、前の選手に良い状態で渡す。これが自分の仕事だし、その仕事ができるのは自分だからだし、それが武器だと思っているので、黒子とか脇役とか、そういうふうに思ってプレーしているわけではありません。
―最近はあまり使われなくなりましたが『リンクマン』という言葉があります。守備と攻撃をリンク、つなげる人を表現する言葉で、今なら藤原選手のようなタイプのボランチを指す言葉です。
僕、つなげられていますか?いや、つなげられていないと逆にヤバいな(笑)。
―シンプルにプレーすることが身上の藤原選手ですが、ボールテクニックにはかなりの自信があるのでは?と言うのは、ペナルティーエリアに入ってプレーする時はすごいターンをしたり、ヒールパスのワンツーを狙ったりと、急にファンタジスタになりますよね?
自陣では決してしないプレーですが、相手ゴールに近いところでのプレーでは思い切るというか、僕のようなタイプの選手がしそうもないプレーをすると相手の意表を突く効果があると思うんですよね。でも、チラ見せ程度、常には無理です。僕のテクニックなんて大したものじゃないです、もっとうまい人はたくさんいます。
―そういう謙虚な姿勢はご両親の教育が影響しているんでしょうか?
どうですかね。
―ご兄弟は?
お姉ちゃんと弟がいます。
―真ん中、リンクマンじゃないですか!
あっ(笑)。そういえば、上のことも、下のことも気にしてたなぁ。
―生粋のボランチ!
でも、小学校、あと高校の時もボランチだけじゃなくてフォワードでもプレーしていましたよ。高校の時は1トップで、点もそこそこ取っていましたし。
―出身は山口市ですよね?突然で、しかもサッカーとは関係ない話で恐縮ですが、山口名物の『瓦そば』がおいしいお店を教えてください。
あっ、それ良く聞かれるんですけど、正直、知らないです。だって、僕たち山口の人間は基本、家で食べるんですから。
―なるほど。ということは各家庭に瓦が何枚かある?
ありません(笑)。フライパンでつくってお皿にのっけて食べますから。言っておきますが、あれ、茶そばを使った焼きソバですから、普通に自分でつくれますよ、ぜひ。
―ピッチで前を意識してプレーするようになると、ピッチ外でも、というふうになるものですか。例えば、みんなでご飯を食べに行ったときに前に出てはしゃぐとか。
それはありません。僕より面白い人ばかりなので、その人たちにお任せします。
―人の良いところを引き立てる、引き出す、というのはプレーに通じるところではありますね。
そうですかぁ(笑)。でも、周りの人には常に楽しんでいてほしい、とは思います。それはサッカーでも同じで、なんかプレーがやりにくそうな選手のことは気になるんです。ボールを持っている選手が困っているなと感じるとついつい近づいていって助けたくなる。
―お助けマン!それがボランチにとって大事なサポート力に?
例えば、サイドバックにコンバートされてまだ慣れていないシゲ君(茂平選手)だったら、僕が近づいてサポートすることでプレーがしやすくなるはず。出して、走って、また受けて、というプレーの方がシゲ君の攻撃面での良さが出ますから。でも、近づきすぎて逆に相手を困らせてしまうってこともあるんです。例えば、ガッキー(新垣貴之選手)みたいに自分の間合いを取ってドリブルで仕掛ける選手にとっては、僕が近づくことでドリブルに使うスペースを消すことになるので、余計なお世話になっちゃうんですよね。そこは相手の特徴をよく考えて判断する必要があります。
―そういうことができるということは、人のことをよく観察している?
練習でも常にチームメイトのことは見ています。なるべく特徴を知っておくために。
―そういう情報を得るには、見るだけ?会話でも特徴を知ることができるのでは?
僕の場合は、言葉をかわすよりも見て得る方が頭に入ってきます。
―得点への欲はどうですか?シュートを打てる場面でも「オレが打っちゃっていいのかな」と遠慮気味になっているようにも見えます。
もちろん、取りたいですよ。遠慮はしていません。ただ、バイタルエリアに入れば当然相手の圧力は強くなり、考える時間も与えられないので、焦っているの確かです。焦って打って相手のディフェンダーにブロックされるというのが何回か続くと、「打っても入らない、だったら入る確率の高い場所にいる味方にパスを出そう」ってなる。でも、打ったら何かが起こるかも、っていうくらいの開き直りみたいなのは必要かもしれません。高校時代にフォワードでプレーしていた時はあまり考えずに打っていたから入った、考えるより先に体が動いていたという感じでしたしね。
―藤原選手は阪南大出身ですが、同じ阪南大出身のJリーガーは?
同期なら、川崎フロンターレの脇坂泰斗(MF)と、京都の重廣卓也(MF)。脇坂はこの前、点を取っていましたね(J1第17節・磐田戦)。重廣はJ2で上位争いをしている中で主軸です。あと、1年後輩ですが、讃岐の中村亮(MF)とか。中村にはこの前の試合(第9節/1-1のドロー)で目の前でこぼれ球を決められました。みんなの活躍ってやっぱり良い刺激になるんです。連絡ですか? こういう性格なのでたまにしか取りません、活躍した時とか。
―阪南大の先輩では、井上翔太選手がいます。今季はボランチにチャレンジしているので、ライバルの一人になりますね。
日ごろの練習ではタラ~ってやっているように見えて、見るべきところはちゃんと見えているし、球際も戦えるし、ドリブルで突破できるとか、僕とは異なる特徴を持つボランチです。ショウタ君(井上選手)とコンビを組む時はやっぱり、そういう特徴をしっかり出せるようなプレーを心掛けたいと思います。
―今季の攻撃的なチームスタイルの中で、ボランチに求められる『カバー』の意味合いも去年までとは異なるのでは?
もちろん、今季はサイドバックが高い位置を取るので、守備に回った時は空いているサイドのスペースのカバーが必要になります。それはいわゆる守備におけるカバーであって、これまでも意識していたことですが、最近、小林監督に言われるのは攻撃時におけるカバーです。つまりフォワードの後ろに行ってサポートするという意味でのカバーです。僕がフォワードに縦パスを出した時はほかの選手がカバーに行くんですけど、ほかのところからパスが出た時は僕がフォワードのカバーに行く。フォワードが相手ディフェンダーを背負っている時はボールを落としやすい距離にいてあげることで、そのフォワードの選手もプレーがしやすいし、それによって攻撃にも厚みが増すからです。
―試合中にはよくしゃべっていますか?
意識してしゃべる、と言う感じではありませんが、もちろん、必要なことはしゃべっています。最終ラインの選手からフォワードの選手へ伝えたいことはつながないといけませんから。リンクマンですから(笑)。
―ここ数試合は失点が続いています。
早い時間帯で先制して、こちらの気が緩んでいるわけではないのですが、時間がある分、相手もまだ元気があるんですよね。そういう意味では追加点を早く取れば、相手の気力もそぐことができると思うんです。
―ボランチとしては、せっかく先制したのだから少し慎重に試合を進めようという気持ちにもなるのでは?
時と場合にもよると思うのですが、少なくとも今季のチームスタイルからすれば、先制したらさらに攻撃的に出て追加点を奪う、という共通認識があります。ただ、最近はそれをうまく形と結果で表現できていないので、それができるように、さらに前向きなチャレンジをしていきたい。構えている時に失点をしている印象なので、やはり、どんどん前へ前へ、という姿勢でいいんだと思います。その意識を継続した上で、ラストパスやシュートなど、ゴール前の質を高めていけば、きっと結果もついてくるはずです。
文・島田徹 写真・筒井剛史
(次回シマダノメ『深掘りインタビュー』の第11回目は7月末にアップ予定。登場する人物は? お楽しみに!)
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