SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第3回
藤原 健介 選手

ジュビロ磐田からの育成型期限付き移籍という形でギラヴァンツ北九州の一員となった藤原選手は、加入後2試合目の出場となる第19節・福島ユナイテッドFC戦で鮮烈なミクスタ・デビューを果たしました。

49分に左足のミドルシュートで貴重な同点ゴールを奪うと、76分には高昇辰選手のヘディングシュートを右CKからアシストするという大仕事をやってのけました。

福島戦は後半開始からの出場でしたが、ピッチに送り出される時に増本浩平監督から「違いを見せてこい」と言われたそうです。

増本監督が言う「違い」とは何であるかは、増本監督が藤原選手の練習合流初日に口にした言葉から理解することができます。

「技術が高い、決断が早い、攻撃のテンポを上げることができるし、逆に意図的に落とすこともできる。やはりクオリティーが違う」(増本監督)

さらに増本監督は福島戦後には次のコメントを加えました。

「45分という限りがある時間の中でしっかり勝利につなげるプレーを見せた。健介が個の違いを出したゲームになった。その違いは周囲の選手を引っ張る力ともなるはずです」(増本監督)

今季、磐田の一員としてJ1で9試合に出場、うち4試合に先発出場。開幕から1勝4敗と苦しんでいた磐田は藤原選手が先発した第6節から第9節の4試合で2勝1分け1敗と好調に転じています。

J1でチームの勝点獲得に貢献していた選手ですから、高い能力の持ち主であることは間違いありません。では、そんな藤原選手がなぜJ3を戦うギラヴァンツ北九州への移籍を決断したのでしょうか。

「ギラヴァンツ北九州の熱意を感じたことが一つ。あとは、J3に行って活躍できなかったらそのまま沈む可能性があるというプレッシャーの中で自分を追い込みながら成長したいとの思いもあっての決断です」

プレッシャーのかかるチャレンジにあえて挑んだのは、藤原選手が自分を信じているからでしょう。そしてそこにはプロ・プレーヤーとしての独自の価値観と矜持があるのです。

「自信がなければ、上のレベルには行けません。自信があることがプロ選手としての価値だと考えていますし、僕が一番大事にする部分でもあります」

己に自信を持つ藤原選手は難しいチャレンジであればあるほど燃えるようです。ギラヴァンツ北九州の加入によって自身に求められるタスクは決して簡単なものではありません。

例えば増本監督からの要求はこうです。

「健介にはJ1基準を落とさないでくれと話しています。彼が周囲に合わせるのではなく、周囲が彼に合わせるように。そうすることで他の選手とチームがレベルアップできるはずですから」

簡単そうに思えますが、実際にJ3のゲームを重ねる中で、どうしても周囲の環境に慣れ、合わせてしまうこともあるはず。そういう難しい状況を藤原選手はどのようにして越えていくつもりなのでしょうか。

「常に良いパフォーマンスをするという強い自覚を持つこと。そのためのプレー強度や質のレベルは、自分の頭の中にあるJ1でのイメージと比較すること。そうすることで自分の基準を落とさずにすむと考えています」

ただ、藤原選手は練習やJ3での数試合を経験して「J3のレベルが低いとは決して思いません。逆に自分がボールを持った時に相手のガツンと来られる感じはJ3の方が激しいように思います」とコメントしています。

もう一つ、増本監督や池西希スポーツダイレクターから加入を誘われた時の言葉も自身の大事なタスクだと認識しています。

「お二人からはギラヴァンツ北九州というチームは大きな伸びしろがあるチームだけれども未完成のチーム。だから完成形とするために力を貸してほしいと言われました」

藤原選手はチームを完成形に使づけるために自分が何をすべきかを理解しているようです。

「まずは自分の特徴をすべての試合で出し切ること。攻守においてボールに深くかかわる。良いボールの動かし方をして攻撃力の向上につなげたいし、それによって守備にも良い効果をもたらしたい」

藤原選手が言う「自分の特徴」とは、一番の武器だと自負する精度の高いキックを存分に生かした配球力でしょう。

福島戦の決勝アシストとなったCKの鋭いキックはもちろん、加入後初先発となった第20節・ガイナーレ鳥取戦において、ボランチとして見せた長短織り交ぜた配球は実に見事なものでした。

永井龍選手は福島戦の後半に受けた藤原選手からのパスについて次のように話しています。

「自分がミートを失敗してしまいましたが、『えっ、そこに通してくるん?』と驚くようなコースでパスを出してきた。こっちの準備不足を反省するくらいのすごいパスでした」

パスの受け手が「いま欲しい」という瞬間はもちろん、それを越える早いタイミングでのパスを藤原選手が出すことができるのはなぜでしょうか。

パスの質はもちろん、ボールの置きどころなどのさまざまな要因があるだろうとは想像できるのですが、それを越える理由を藤原選手は明かしてくれました。

「僕はボールを間接視野で捉えています。直接的に見るのは味方選手、あるいは相手選手の方です」

ボールをしっかりと見て蹴る。だから周囲の状況は間接視野で捉える。これが普通だと思っていましたが、藤原選手の場合はその逆なのです。

つまりボールをしっかり見なくても、ちゃんと扱える技術が備わっているということ。この話に関連して一つ、磐田時代の面白い話も披露してくれました。

「ジュビロでの試合や紅白戦で、ヤットさん(遠藤保仁)とはものすごく頻繁に目が合う、それでプレーもしやすくなる。僕と同じようにボールは間接視野、周囲を直接見てプレーしていたことがその理由でしょう」

「ヤットさんの場合はそこから一歩進んで、パスの受け手とのアイコンタクトでメッセージを送る、あるいは受け取る。そういうことをしていた。だから、決定的なパスを当たり前のように出せていたんだろうと」

「僕はまだそのレベルにはありませんが、それができるように努力はしていきたいと思っています」

周囲との違いを見せられるレベルにはあるものの自分も未完。そう素直に思える20歳が自信を持って続けるトライによって己とチームを完成形に導く。その道程は注目に値するものであるはずです。

[文:島田 徹]