SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第10回
ミケル アグ選手

7月18日の加入発表からわずか4日後の第19節・福島ユナイテッドFC戦でギラヴァンツ北九州の一員としてのデビューを果たしたミケル・アグ選手。前所属の湘南ベルマーレでは天皇杯1試合のみの出場で十分な情報がなく、すべてが気になる選手だったので、7月26日に直撃してきました。

福島戦の前に田坂和昭監督から得たミケル選手に関する事前情報は次のようなものでした。

「高い身体能力を守備面でうまく生かせる選手で、ボールホルダーへのアプローチは速く強いし、球際の強さ、ボール奪取力が特徴。あとは高さも武器。守備強度、高さという、われわれにない要素を補ってくれる選手です」

田坂監督の言葉からイメージしたのは、アフリカ・ナイジェリアの出身らしく優れたフィジカル能力を生かした「強さ」、特にDF登録なので守備時のパワーが最大の売り物のプレーヤーでした。

実際に福島戦を前にしたトレーニングで初めて目にしたミケル選手は強さが際立ちました。紅白戦ではボールホルダーに激しく寄せてその選手を弾き飛ばしたあと、しっかりとボールを奪取。またこぼれ球を思い切りよく右足で叩き、鋭い弾道のミドルシュートをゴールに突き刺しました。

しかし、イメージ通りにパワーあふれる選手だなと感じながら、それだけではない特徴も見て取れたのです。例えば、チームメイトとのコミュニケーションの取り方です。

失敗に終わってもそれが良いトライなら手を叩きながら「ナイス!」と声を掛けます。また暑さの中で苦しい表情を見せる選手がいれば、スペイン語で「がんばろう」を意味する「バモス!」と励ましていました。

ちなみに今回のインタビューはスペイン語の通訳を通してのものでしたが、ミケル選手は英語と、過去にプレーしたことがある地のポルトガル語も使いながら選手やスタッフとコミュニケーションを取っています。福島戦で強化部の池元友樹氏がベンチに入っていたのは、急な出場でスペイン語を話すことのできるため通訳枠としてベンチ入りをしていました。

話は戻りますが、外国籍選手はどちらかというと自己主張の強いタイプが多いのですが、前記のような声掛けと姿勢からミケル選手には協調性があるように見えました。この精神性について納得できる話をミケル選手から聞くことができました。

「私は日本人と日本の文化が好きです。特にメンタルや考え方が好きです。そこには多くの学びがあります。例えば規律に対する考え。サッカーのようなチームスポーツをする上で一体感をとても大事にするところも素晴らしいし、共感できます」

まずミケル選手は日本とその文化に対して敬意を抱いています。とはいえ、そこに無理やり自分を寄せに行っているふうには見えません。なぜなら、とても自然な形で振る舞い、チームメイトとかかわっているからです。

もともとミケル選手の中に、個性の発揮と尊重を大事にしながら、集団の中で自身がどう振舞うべきかを考え、それを大事にする精神性が存在していたのだと思います。だから日本が合うし、湘南を離れた後もJリーグでプレーする場を探していたのでしょう。

さて、強さを発揮して相手ボールを奪取した後のミケル選手の球離れが非常に速いことを福島戦やガイナーレ鳥取戦を見た皆さんも感じたのではないでしょうか。もっと自我を出してボールを強引に前に運び、あるいはリスク承知のスルーパスを狙ってもいいはずなのに……。ミケル選手は言います。

「もともと僕は2タッチや3タッチで味方にボールを預けるタイプの選手です。センターバックをやる時も、またボランチとしてプレーするときも。そうする理由の一つは味方を信頼しているということが一つ。なるべく早く良い状態の選手にボールを預けることで、その選手の良さが生きるし、チームのためにもなる」

「それから僕にはほかにやることがあります。ボールをはたいた後に、その攻撃を後押しするためのポジションを速く取る必要があるし、あるいは攻撃をしている段階からいざ守備になった時のことを考えたポジションを取ることも必要。またフィジカルコンタクトを伴う激しい局面で勝つためのパワーも残し、備えなければいけません」

ミケル選手は福島戦と鳥取戦でフル出場を果たしていますが、そこで印象に残ったのは前記のプレー特徴のほかに、プレー姿勢に「落ち着き」が見えたことです。

この冷静さは30歳という年齢、これまでの経験から自然と身についたものかと思いましたが、そうではないようです。

「落ち着いてプレーできるかどうかに年齢は関係ないと思います。私もまだ不十分ですが、サッカーを知ろうと努力していくと、ボールを持っている時にいかにリラックスできるかが大事だと知ることになります」

「落ち着いていればピッチの中で起こっていることや状況が理解できるので、それに応じた正しいプレーの選択が可能になります。そのことを理解できれば、常に落ち着いてプレーしようと努めるわけです。だから経験や年齢ではなく、そのことの重要性を理解している選手が落ち着いてプレーできるようになるんだと思います」

ミケル選手に改めて自分の武器は何かと尋ねました。

「強さや高さも武器であることは確かです。でもそれ以上に、考えてプレーすることを大事にしている。インテリジェンスも私の大きな武器だと思っています」

賢くプレーするために、常に落ち着こうと努める。守備時の強さと高さだけではなく、ゲームをコントロールするところでも大事な働きをしてくれそうなミケル選手の今後の働きに注目です。

[文:島田 徹]