SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第9回
山脇樺織 選手

出場機会をめぐる争いが激化する中、第11節・Y.S.C.C.横浜戦から第17節・いわてグルージャ盛岡戦まで7試合連続でメンバー入りを果たした山脇樺織選手。シーズン序盤はなかなかメンバー入りができず苦しんでいた山脇選手がどういう取り組みをしてチャンスをつかんだのかが気になって話を聞きました。

まずスタートで出遅れたのはコンディションの問題もあったようです。

「大学4年時に、あるJクラブの練習に参加させてもらったときに足首を痛め、同志社大学サッカー部の一員としてシーズン最後プレーできない状況に。そのままギラヴァンツ北九州の一員となりシーズンを迎える準備に入ったので、初めはコンディションを戻すことにかなりの労力を割くことになりました」

コンディション面に加えてプロ1年目の壁にも当たっていたようです。

「自分がやりたいこと、プロ選手になって何をどうアピールするべきか、思考の整理ができていない状況だったので、キャンプやシーズンインした後の練習でも良いプレーができませんでした。そして、なかなか試合出場のチャンスを手にできないことを自分自身で消化しきれず、焦りが先行していたように思います」

山脇選手の焦りは練習でのプレーに表れました。そうなると、期待の新戦力ですからコーチングスタッフからもさまざまなアドバイスが提供されます。それを聞くうちに、山脇選手の心も整理されていったようです。

「ターさん(田坂和昭監督)、チョウさん(長島裕明ヘッドコーチ)、シンジさん(小林伸二スポーツダイレクター)から、いろいろなアドバイスをもらうことで、まずは自分には多くの課題があることを実感しました。だからそれらを一つずつ克服することに集中しようと気持ちを切り替えることができました」

克服に努めた課題とは何だったのか、山脇選手はいくつかの例を挙げてくれました。

「サイドでプレーする際のボールの置き所について指摘を受けました。横から来たパスをボール1個分、外側に置く、オープンに置くことで自分の視野が広がる。それによって自分の選択肢も広がる、と。それまではどちらかというと内側にボールを置くことが多くて、相手に詰められると視野が内側にしか向かなくて、横パスやバックパスが多くなっていました」

「スピードを生かしてサイドを突破して、そこからクロスを上げるプレーが自分のストロングポイントの一つだと思っていました。でも、クロスの質が不十分で、ゴール前に入る味方に合わせることができない。だからクロス精度を高める基礎的な練習を繰り返し、そこに手ごたえを感じたら、今度はトップスピードで抜け出した上で質の高いクロスを上げる、という一つ上のステップに挑戦していきました」

シーズン序盤の居残り練習で、長島ヘッドコーチ指導のもと、ゴール前に走り込む同じくルーキーの坪郷来紀選手を目掛けて何本もクロスを入れる山脇選手を目にしたことが度々あります。それは一つひとつ課題をクリアにしていく作業過程だったのでしょう。

細かな課題をクリアしていく中で、山脇選手は自らのストロングポイントに改めて意識を置くようになったと言います。その武器とは伸びやかなストライドでピッチを駆けて表現するスピードです。

「スピードが武器であることは自覚していて、それを練習からアピールしようと努めるのですが、なかなかうまくいきませんでした。それまでと同様にコーチングスタッフからのアドバイスによって気づかされたことがあります。自分は『スピードでいろいろなことをごまかしてきたんじゃないか』と」

プロの世界に入って自分の武器であるスピードを思うように発揮できない。スピードを出す前にボールを奪われる、出そうと思ってもそのコースはすでに相手に消されている。自らのストロングポイントを発揮するための準備をしっかりすること、その質を上げていかなければ、スピードという武器を発揮するスタートすら切れない、ということに山脇選手は気づかされるのです。

「スピードを効果的に生かすためのポジショニングを取れているのか。このボールの置き所とドリブルのコースで果たしてスピードを十分に発揮できるのか。そういう状況判断を高めることを意識して日々の練習から取り組むようにしました」

コーチングスタッフの細かいアドバイスは山脇選手の能力を開花させるための当たり前の仕事ではあるのでしょう。しかし、山脇選手にはチームメイトからの厳しい要求もありました。しかし、山脇選手が下を向くことはありませんでした。『鈍感力』とでも呼ぶべき、プロ選手にとって大事なメンタルの強さ、それも山脇選手のストロングポイントの一つなのかもしれません。

「昔から周りの人からいろいろと言われるタイプではあります。僕には言いやすいんでしょうか。でも言ってもらえることはありがたい。客観的な意見は自分を伸ばしてくれる大事な要素と考えていますから、いろんな意見が僕に向けられることは嫌ではありません」

周囲の意見を積極的に自らの中に取り入れられるのは、「しっかりとした自分」を持っているからでもあると言えます。

「自分が自分を信じられるかが大事だと思うようになりました。少しうまくいかないからとって焦らない、あきらめない。自分を見失わず、客観的な意見にも耳を傾けて一つずつ課題をクリアしていけば、良い方向に進んでいける、そういうふうに考えるようになりました」

加入当初はサイドバックでのポジション争いをしていた山脇選手ですが、ここに来てサイドハーフやウイングバック、時に「1トップ2シャドー」のシャドーの一角に位置に入ってのプレーもしています。山脇選手はどのポジションでの定位置を狙っているのでしょうか。

「大学ではセンターバックもやりましたし、ボランチも。その前の時を含めれば、いろいろなポジションでプレーしてきました。そのことが影響しているのか、僕はポジションにはこだわりません。こだわりたいのは、たとえ1分の出場でも自分のストロングポイントをしっかり表現すること。スピードで相手を1枚でも多くはがしてゴールにつながるプレーを1回でも多くやること。そこで自分の存在価値を示す。そのことが何よりも大事だと思っています」

さまざまな課題を改善すべく地道な努力を行うことで自信をつけ、ストロングポイントを効果的に表現できるようになったことが出場機会の獲得につながったようです。そうした過程を経て、今の山脇選手は心の解放に成功したように映ります。今後は自らの存在価値発揮により注力することでしょう。だから、山脇選手が光り輝くのは「これから」ということになります。

[文:島田 徹]