SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ
新門司キニナリーニョ 第8回
大石悠介 選手
今季新加入選手のうち、加入リリースが最も遅かったのが大石選手で2月23日。1月15日の新体制会見にも当然、参加していないので“謎の男”のまま開幕を迎えました。
開幕後にはケガのため別メニューとなったこともあり、クラブハウスでその姿は目にしていたのですが、格闘家のような、いかつい体と迫力のある顔に威圧されて声を掛けることができないままに時が過ぎ……。
しかし、5月21日の天皇杯1回戦・鹿児島戦での活躍に、ついに謎の男に迫る決意をしたのです。今回は気になることが多すぎたので、テーマを絞らずにとりあえずは突撃を試みました。
長い観察期間中にあれこれと想像していた中で予想通りの答えが返ってきたのは、周囲から似ているとよく言われる人物が、昨季町田でのプレーを最後に現役引退した鄭大世さん、ギラヴァンツ北九州のマネージャー、津田徹也さんであること。予想外だったのは、オフでは慎重派なことと、笑顔がとても可愛らしいことでした。
では、まずは驚異的な精度を誇るサイドチェンジについて。
「小さいころからキックが飛ぶ方だったので、ロングキックには自信を持っていました。そして山梨学院高校時代に、自主練でめちゃくちゃたくさん蹴って、自信を持てる武器になりました。国士館大学での攻撃スタイルがロングボール主体のものだったので、さらに精度が磨かれたと思います」
天皇杯1回戦の鹿児島戦では右サイドに向けた左足からの長いサイドチェンジのパスをバンバン通していたので、皆さんもその精度の高さは十分に理解していると思います。まず、サイドチェンジのパスをするときに何を大事にしているかが気になりました。
「基本的に意識していることは、相手が対応しづらい“低くて速いボール”を蹴ること。それと受け手が止めやすい、あるいは次のプレーに移りやすいところとタイミングを考えて蹴ることです」
高い成功率を誇れば当然相手も警戒してくるはずですが……。
「警戒されても通すだけの自信はあります、それだけの数は蹴り込んできましたから。例えばインターセプトを狙っている相手の裏をかいて、頭上を越えて空いているスペースの落とすボールを蹴るとか、そういう駆け引きをすれば、そう簡単には取られません」
「これからさらに警戒が強まった時には、大外にいる選手に出すと見せかけて、その内側にいる選手につなげる、少しフワリとしたミドルパスに切り替える。そういう技術も習得していきたいと思っています」
センターバックとして目を引くのはハードな守備です。
「大学の時はマンツーマンの守備が基本で、まずは自分がマークを担当する選手に自由にプレーさせないことを第一に考えていたので、どちらかというガツンと行く守備が得意でした」
そういう守備は、今も相手FWへの鋭い寄せに十分に表れていますね。ただ、プロとしてプレーするようになってから守備時のプレーに幅が出てきたようです。
「まず、監督や先輩から言われているのは『守備での“勝ち方”にもいろいろあるよ』ということ。ガツンと行ってつぶすだけではなくて、少し冷静になってわざと間合いをとって次のプレーに移ったときに勝負をかけるとか、自分で行かないでほかの選手に行かせ、自分はそのカバーに回ってボールを奪い取るとか」
そういうアドバイスを素直に受け入れられるのは、“ガツンと行く守備”だけでは通用しないということを実際に感じているからでもあるようです。
「天皇杯の鹿児島戦で途中から出てきた有田光希選手との空中戦に挑んだのですが、僕が空中戦で大事にしている『相手よりも先に飛ぶ』ということをさせてもらえませんでした。身体をうまく預けられて飛ばせてもらえなかったんです」
「じゃあ、どうするかというと、ボールを思い通りに収めさせないような圧力はしっかりとかけて、相手のボールタッチが少し乱れたところをボランチとかに取ってもらう。そういう賢いプレーも必要だと感じました」
その鹿児島戦では延長後半に貴重な同点ゴールを、ヘディングで決めています。あの落ち着いたヘディングシュートは、これまでにも多くのゴールを挙げてきたからこその自信と落ち着きがあるように見えました。
「いいえ。大学の時はセットプレーでとにかく外しまくりました。チームの中でもゴール前で触る回数ではトップクラスでしたが、ほとんど決めた記憶がありません。GKのビッグセーブもありましたが、ほとんどは枠外へ。守る時の競り合いはかなりの自信があるんですけどね……」
この鹿児島戦でのゴールは自信になるはずですから、今後のセットプレーでは大石選手に注目していきましょう。
話を聞いていると、自分の成長に非常に前向きなように思えます。ルーキーならば当然のことなのかもしれませんが、それ以上の熱を感じるのはなぜでしょうか。
「まず、いま僕がプロとしてプレーできていることを、ものすごく有難く感じています。推薦で入学した大学では1年生の時からトップチームに入れていただいて、調子に乗ってしまい、2年生からはBチームに降格」
「そこでクサってしまい、さらに悪い状況になり……。少し取り組む姿勢を変えて3年生の途中でまた試合に絡めるようになったのですが、4年生の後期リーグでは試合に出られず」
「そういう状況だったので、プロからの誘いはなく、でもプロに挑戦したかったので、社会人チームから挑戦しようと考えていました。そういう時に、ギラヴァンツ北九州から誘っていただきました」
「だから、めちゃくちゃ感謝しています。チームを勝たせることが一番の恩返し、そのためにはまず自分が成長しないといけません」
ヘディングにサイドチェンジ、対人。すでに個性と言えるものを手にしている大石選手ですが、どん欲な向上心から何事にも積極的にチャレンジして新たな個性を付け加えていく予感がします。途切れることのない変化と成長を続け、つかみどころのない謎の男であり続けてほしいと思います。
[文:島田 徹]
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