SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第7回
坂本翔 選手

第9節までのすべてのゲームで先発出場を果たしているのはセンターバックの村松航太選手と左サイドバックの乾貴哉選手、それと右サイドバックの坂本翔選手の3人のみ。その中に今季加入のルーキー、坂本選手が入っていることは正直、驚きであり、本人も「出来過ぎのスタートです」と話しています。

ルーキーながらこれだけの出場機会を手にしているのは、当然、パフォーマンスが優れているから。特に目を見張るのが、攻守におけるルーキーらしからぬ抜群の安定感です。

プロ1年目の選手がなぜそのような安定感のあるプレーをできるのかが気になり、直撃しました。ちなみに名前は「翔」と書いて「カケル」です。サイドを疾走する坂本選手にふさわしい名前ですね!

田坂和昭監督はサイドバックに積極的な攻撃参加を求めます。坂本選手も激しく上下動を繰り返し、たびたび相手陣内の深くにまで進入しますが、やはり攻撃力を自らの武器としているのでしょうか。

「僕自身は守備の選手だと思っています。攻撃面の課題は守備面に比べるとはるかに多い。実際に左サイドバックの乾選手が公式戦で5点を取っているのに自分はまだ1アシストだけ(5月4日時点)。数字の部分でも結果を残せていませんから」

では自信を持っている守備においては、どういう点を意識してプレーしているのでしょうか。

「サイドバックは1対1の守備で負けないことが一番大事。相手のサイドアタッカーは速い、強いとか個の能力が高い選手が多いので、周りと協力して抑えることも大事ですが、まずは1対1、自分と相手だけの関係でしっかり制圧して自分のサイド、主に右サイドですが、そこで優位に進めることを一番大事にしています」

毎試合、異なる特徴を持つアタッカーに対して坂本選手の鋭く、そして力強く身体を寄せて相手から自由を奪うディフェンスは確かに目を引くものがあります。やはり身体能力の高さが、1対1の勝負を制するための鍵なのでしょうか。

「僕は足が速くありません。それはサイドバックとしては欠点とまではいかずとも、ないことを惜しく感じる能力です。今はスプリント能力を高めるトレーニングもしていますが、高校や大学では足が速くないことを嘆くのではなく、それを補える別の能力を高めることに努めました」

“別の能力”とは何なのでしょうか。

「予測力です。それを高めることで、自分が持っている身体能力を最大限に生かせるという考えです。例えば、アタッカーがこのコースのドリブルで抜いてくるに違いないと予測し、その予測精度が高いのなら、そこに向かって自分が持っているスプリント能力を100パーセントで使えます」

「こっちかもしれないし、あっちに行くかもしれない、という感覚でいると、分かりやすく言うと左右の足に半分ずつの重心を掛けている状態になるので、足の速い選手のスプリントについていけない、置いていかれてしまうのです」

考え方としては理解ができますが、もし予測が外れた時にはピンチを招くことにもなるはずです。そのことへの恐怖はないのかが気になります。

「予測が外れることはあります。第7節のFC琉球戦でも、自分がインターセプトを狙って前に出ていった時に、自分のところにくる直前にボールが前にいた相手選手に当たって裏を抜けた場面がありました」

「あの時は、そこでインターセプトできると確信して行っていたので、そういう予想外の出来事があった時の対応までは正直、考えていませんでした」

「そういうときはただ素早く反応して、最適のリカバリーが何なのかを考えて行動に移すだけです。でも、僕は予測をもとに動き出すことを躊躇したくありませんし、怖がりたくありません」

なぜ、怖くないのでしょうか。

「今まで自分が積んできたものを信じていますから」

それほどまでに自信を持つ予測力をどう高めてきたのか、その方法がとても気になります。

「いま、振り返って良かったなと思うのは、高校と大学ではゲーム形式の練習が多くて、その中で何回でも試行錯誤する部分がありました。何回も縦を抜かれる、あるいは判断を間違えて入れ替われてしまう、ということがたくさんあって、それを映像で見直して、忘れないようにノートにメモすることを続けていました」

「そのうちに、パッっと1対1の場面で構えた時に『そういえばあの時はこうなって、だから…』と、完全に覚えているわけではないけれど、以前経験したことのイメージが頭の中に残っていて、それで身体が勝手に動く、というのが自分の中で感じられる時が出てくるんです」

「うまく行かなかった時も、ノートにそのことを書き留めながら、こうしたらどうだろう、いや自分はこうしたい、と考える。ただ起こったことをノートに書くだけではダメで、どうすべきかを自分なりに考えてそれを書く。それで同じような場面が来たらその考えをプレーで表現してみる」

「それでもダメだったら、またそれを修正していく。それを続けて行けば、自然と良いプレーができるようになると思います」

「ノートに書くことで記憶に残す。それを何回も読み返すことで、記憶を持続させる。そうすると思い出せるし、そのイメージが頭に残っているから身体が自然と動くんだと思います」

プロになった今でも『坂本ノート』を書き続けていると言います。今は具体的にどういうことをノートに記しているのでしょうか。

「いろいろなことを書き込んでいますが、データに関して記すのは大学の時から続けていることです。自分のボールタッチ数、パス数、クロス数、インターセプト数など、その時に自分の課題と捉えている要素を中心に、試合の映像を見ながら正の字をつけて数えていくんです」

「そういう各種データは個人スタッツとして外部でデータ化したものをチームが手に入れて開示してくれますが、時には自分がクロスだと思って勘定していたものが外部データではクロスと認定されていないことがあります。認定されない理由があるはずなので、認定してもらえるように質を上げよう、そのためにはどういう練習が必要かを考えることにしています」

坂本選手の話はとても興味深いものでした。プロの世界で結果を残すことが難しいことは何となく分かっていましたが、そのためにそこまでの努力が必要なのかと、正直驚いたのも事実です。

考えること、結果を客観的に捉えて修正を加えていく。そのアップデートを連綿と繰り返す。坂本選手の安定感は、そういう努力の積み重ねによって手にしたものだと理解しました。

[文:島田 徹]