SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第6回
岡野凜平 選手

開幕前に強化部スタッフから聞いた特徴は「中盤ならどこでもプレーできること」でした。その多様性という武器を遺憾なく発揮しているのが今季、日本文理大から加入したルーキー岡野凜平選手です。「リン」は「凛」ではなく「凜」なので注意してくださいね。

複数のポジションでプレーできる選手をユーティリティー・プレーヤーと呼びますが、なぜ岡野選手がその多様性を持つに至ったかが気になり話を聞きました。

「僕は高校時代にV・ファーレン長崎のU-18チームに所属していましたが、1年ごとに監督が代わりました。そのうちの一人はギラヴァンツ北九州で監督を務めたことがある原田武男さんです」

「監督それぞれで選手に求める役割やプレーが変わってきますよね。そういう中でも僕は常に試合に出たいと考えていたので、監督が何を求めているのか、監督が代わるたびに言葉を必死で聞くようにしました」

監督によって異なる要求に何とか応えようとするうちに、一つの考え方にとらわれない柔軟な思考が芽生えたと岡野選手は言います。それが複数のポジションでのプレーを可能とし、日本文理大に進学してからも、さまざまなポジションでプレーするようになったということです。

今季第7節のFC琉球戦まで岡野選手は全試合に出場しています。それぞれのゲームのプレーポジションは以下の通りです。

第1節・岐阜戦/ボランチ、第2節・讃岐戦/ボランチ、第3節・富山戦/(左)サイドハーフ、第4節・今治戦/(左)サイドハーフ、第5節・八戸戦/ボランチ、第6節・松本戦/ボランチ、第7節・琉球戦/トップ下

開幕前に強化部スタッフが口にした通り、今季チームが採用している選手配置における中盤すべてのポジションでプレーしたことになります。

同じ「中盤」だからどこでプレーしても大きな違いはないんじゃないの? と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。

しかし、例えばタッチラインを背にしてプレーエリアが限られるサイドハーフと、360度の視野の中でプレーするボランチやトップ下では、ボールを受ける前の準備動作、ボールの置きどころ、ポジショニング、視線の方向まで違います。同じフィールドの中央でプレーするボランチとトップ下でも相手の圧力がかかってくる方向や強度が異なるので、プレー感覚はずいぶんと異なるのです。

その異なる感覚の中で、違和感なくプレーできるからこそ、岡野選手はすべての試合で、異なるポジションでプレーする機会を与えられているのです。つまりその多様性において岡野選手は田坂監督から厚い信頼を得ているということになります。

人の言葉に耳を傾けることが、簡単そうで実は難しいもの。それは皆さんも日々の生活で感じることができると思います。

自分の経験をもとに築き上げてきた思考や言動には当然、プライドを持っているわけで、“異物"に拒否反応を示すことはある意味自然なことでもあります。このあたりのことを岡野選手に聞くとこんな話をしてくれました。

「僕は両親と姉の4人家族で、僕以外の3人はバレーボール経験者です。サッカーに関しては詳しくはないのですが、僕の試合を見に来てくれると、何かしらのアドバイスをしてくれました」

「そういうアドバイスや感想を『サッカーを知らないくせに』と否定することはありませんでした。なぜなら、どの言葉も的を射たものだったからです」

「サッカーは知らないけれど、スポーツをしていることで身に付けたセンスというもののせいでしょうか。もちろん、家族だから、というのも大きな理由だと思いますが、そういう客観的な意見を聞く耳を持つことが僕にとっては当たり前になっていきました」

的確なアドバイスを提供できる家族の存在もあり、岡野選手は「聞く耳」と、客観的な意見を自然と自分の中に取り入れて自らの成長につなげるオープン・マインドの持ち主になったのではないでしょうか。そしてそれを自らの武器として、プロの世界で挑戦する機会を手にしたのです。

プロとして上々のスタートを切ったとも言える岡野選手にここまでの自己評価と今後に向けた課題を聞きました。

「大卒選手は即戦力であるべきだと考えていますから、ここまで試合出場の機会を手にできていることはまずまずの結果だと思います」

「ただし、先発は(第2節の)讃岐戦の1試合のみで、あとは途中出場。やっぱり先発としての定位置を確保しないと満足できません」

「永野雄大選手、井澤春輝選手、高吉正真選手と、ボランチで先発機会を得ている選手と比べると、僕にはまだまだ安定感が足りないと感じています」

「安定感を手にするためにはまず、攻守両方の場面で声によって味方をうまくコントロールできる力が必要だと思っています」

「大学の時ももちろん声の重要性は理解して積極的に出すことを意識していましたが、プロはプレーのすべてのレベルが上がるので、声の質も上げる必要がある。毎日が勝負の中で、今は特に声の質を意識して練習から取り組んでいます」

複数のポジションでプレー可能な岡野選手ですが、ボランチとして定位置を確保することを重視していることがコメントから分かります。

そして、優れた「聞く耳」を持つ岡野選手が次に備えようとしているのは「伝わる声」。そのチャレンジに注目していきましょう!

[文:島田 徹]