SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ
新門司キニナリーニョ 第5回
乾貴哉 選手
第6節の松本山雅FC戦の開始4分に先制ゴールを挙げたのは乾貴哉選手でした。このゴールは乾選手にとっての今季4ゴール目となりました。
4ゴールはMF岡田優希選手の3ゴールを上回り第6節時点でのチームトップスコアラー、J3リーグ得点ランクでも3位タイにつける得点数。そしてJ3得点ランクトップ3の中でDF登録となっているのは乾選手だけです。
乾選手は2016年にジェフユナイテッド千葉の一員としてJリーグデビューを果たしてから今季で8年目のJリーグを戦っているわけですが、これまでの最多得点は千葉の選手として戦った2017年J2における3得点。今季は出場7試合で自身の記録を更新したことになります。
左サイドバックとしてプレーしている乾選手がなぜ4つのゴールを挙げることができているのかが気になり、本人を直撃しました。
「なぜ得点を取ることができているのか……、う~ん……なぜなんですかね?」
まさかの逆質問。しかし、そういう反応になってしまうのは乾選手自身の中にある、さまざまな戸惑いが原因になっているように思えました。
「僕はストライカーではありません。得点を取ることが本来の仕事ではないので、そこに注目してもらっても困ってしまうというか……」
ゴールを挙げるためにプレーしているわけではないので、自分の中で分析も追及もしていないというのが現状。だから得点を重ねることができている理由は解説できない、ということなのでしょう。
乾選手自身に分析してもらうのが難しいと判断して客観的な視点からも探ることにしました。まずは田坂和昭監督に聞いてみました。
「まず前提にあるのは今季のサイドバックには高い位置でプレーすることを求めていること。それによってゴール前に顔を出す機会が増えますし、その結果、シュートチャンスも訪れる」
「貴哉はシュート技術が高い上に、ゴール前に入る感覚に優れている。これはストライカーを語る時によく使いますが、『嗅覚』が鋭い。空いているスペースを見つける、あるいはここにスペースが空くだろうと予測する力、そして、そこに入るタイミングも良い」
サイドバックが高い位置でプレーするということで乾選手とは逆の右サイドバックの坂本翔選手もたびたび前線に進出していますが、坂本選手にはまだ得点がありません。松本戦で左ポストに当たる惜しいシュートは放っているのですが……。
「翔には嗅覚がありません(笑)。でも、チャンスメイクという点で大事な仕事ができる」と田坂監督が言うように、選手の特徴は異なります。
野瀬龍世選手や坂本選手がいる右サイドで相手守備陣を切り崩してチャンスをつくり、乾選手と岡田選手がいる左サイドで仕留める。これがいまのところのチームの一つの攻撃パターンになっています。松本戦の乾選手の先制ゴールは坂本選手からのクロスを乾選手が右足で仕留めたもの。田坂監督も「両サイドバックで取った得点ですよ!」と胸を張っていました。
岡田選手には乾選手とのコンビネーションについて聞きました。
「自分が中に入ってプレーするときは乾選手が外側のスペースをうまく使う。逆に自分が外にいて乾選手が中でプレーする形もあり、それは松本戦でもトライしたパターンです。そうして二人で良い位置関係をつくることができていることも、僕ら二人の得点につながっているのかもしれません」
岡田選手が言う「自分が外で乾選手が中」というプレーパターンは実は、松本戦で乾選手の得点が生まれる一連の流れの中にあったものです。アシストした右サイドの坂本選手にパスを出したのは、ピッチの中央寄りでボールを受けた乾選手でした。
チームとしての攻撃の形と乾選手が持っている、本人はそれほど自覚していないだろうと思われる得点感覚と嗅覚が4ゴールの要因だと言えそうです。それにしても乾選手は4ゴールへの関心は薄いのです。
「もちろん決めた時はうれしい。でも、得点を取った試合で勝てていないので……」
確かに、乾選手が得点を挙げたゲームの戦績は1分け2敗。自らの得点と勝利が重なれば得点を素直に喜べるのでしょう。
「いいえ、僕じゃなくてほかの選手が決めてもいい。そのためのプレーも自分は意識しています。むしろそっちのプレーの方を大事にしたい。とにかく勝つことが重要だし、何よりもうれしい」
そういえば、2-3で敗れた第3節のカターレ富山戦で2ゴールを挙げた乾選手は試合後に自身の2ゴールについて「2点差は追いつけると皆で話して、後半に臨みました。前半に自分たち後ろが原因で失点してしまったので、自分が取り返そうという気持ちでした」と振り返っていました。
シャイでクールな印象の乾選手ですが、勝利のためにプレーし、戦うという熱いハートの持ち主です。乾選手の4ゴールは勝利への強い欲求によってもたらされた副産物と言えるのかもしれません。
[文:島田 徹]
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