SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ
新門司キニナリーニョ 第4回
高昇辰 選手
身体能力が高い選手のことを「フィジカル・モンスター」と表現、あるいは「あの選手、フィジカルが化け物だ!」などと言うことがあります。ただし、どういう身体的能力が優れているかはそれぞれで異なります。
抜群のスピードを誇る選手のことを指すことがあれば、どんな屈強な相手にも当たり負けしない体幹を鍛え上げた選手のことでもあり、スピードと持久力を兼ね備えて90分フルに走り切れる選手を言い表すこともあります。
今回、気になったのは高昇辰選手。今季、日本文理大から加入したルーキーも『フィジカルお化け』と評される特別な身体能力を持っています。それは跳躍力です。
1-1のドローで終えた第1節のFC岐阜戦。66分から出場した高選手は90分、岡田優希選手が蹴った右CKにヘディングでうまく合わせました。ゴールの枠を捉えることはできませんでしたが、目を引いたのはジャンプしてからボールを頭で捉えるまでの滞空時間の長さ、それを可能にする驚異的な跳躍力です。
村松航太選手は岐阜戦の後に「身長は高くない(172センチ)けれど、上から(ボールをヘッドで)たたける。あの武器を生かすようなシンプルなクロスを入れる場面をもっとつくってもよかったかもしれません」と話していました。そのコメントにあるのは高選手の跳躍力への高い評価でした。
驚異的な跳躍力はどのようにして生まれるのか、また身に付けたのかが気になりました。思い浮かぶのはショートパンツから除く圧倒的筋量を誇る太ももです。どうやって鍛え上げたのでしょうか。
「高校3年生の時に立て続けに両ひざを痛めました。そのリハビリを兼ねて大文字山を毎日毎朝、走って登りました。登り切るのに最初は12分かかりましたが、最後は9分、10分で。そうしていくうちに太ももが大きくなりました」
大文字山は京都にある山で、お盆の「五山の送り火」として山肌に「大」の文字が浮かぶ光景が夏の風物詩となっているので、ご存じの方が多いと思います。標高は466メートル。ピンとこない方のために、北九州の誇り、皿倉山の標高が622メートル。その中腹より少し上のあたりまで走って10分以内で駆け上がる。想像しただけで息があがります。
大文字山で鍛えた太ももパワーで高く飛べるようになったんですね?
「いえ、もともとジャンプ力はありました。太ももはありません」
えっ⁉ エッ―――――――――⁉
「これは“血”ですね」
本人が60センチ近くあるだろうと言う太ももと跳躍力に因果関係がない。そんなことがありますか!
「僕は男三兄弟の末っ子です。兄二人はそろってサッカーをプレーしていましたが、共通する武器は高さでした。ラグビーをしていた父親、舞踊をしていた母親の血なんだと思います。申し訳ないんですが、大文字山と太ももは関係ありません」
そうだったんですね。いずれにしても高選手の驚異的な跳躍力を生かしたヘディングの強さはピッチ上でのプレーを目で追えば理解できます。岐阜戦のようなゴール前のシュートシーンはもちろん、後方からのロングボールを相手DFと競り合う空中戦でも確認できます。
とにかく高選手自身が自らの武器に相当な自信を持っているので、その能力に疑いの余地はありません。
「空中戦で負けたことがありませんし、だからヘディングに関しては悩んだことが一度もありません」
しかしそれはあくまでアマチュアでの世界でのこと。プロの世界には同じような、あるいは上をいく能力を持つ選手がいるかもしれません。少し意地悪な質問をしてみました。「今後、空中戦で負けることがあったときには相当へこむのでは」。
「いえ、絶対に負けないんで、大丈夫です」
この選手、身体能力だけではなく、負けん気の強さも相当なものです。もう『負けん気お化け』と言ってもいいでしょう。そういえば、高校3年生の時にヒザを痛めた時は、対峙した選手に抜かれたことが悔しくて、相当な無理な態勢でスライディングをかけて自爆したとのことでした。
第2節・岐阜戦でのチーム3点目、岡田選手のゴールをアシストした場面を振り返った時のコメントも負けん気の強さが表れていました。
「とにかくあきらめるのが嫌でした。自分でもボールがゴールラインを割るかもしれないと思いながらも、絶対あきらめんぞ、と思い回り込むようにして右足を振って折り返したんです」
そのようにして高選手のプロ初アシスト『高の1ミリ』は生まれたんですね。
「初アシストだったので、岡田選手以上に喜んでしまいましたが、アシストには興味はありません。ゴールこそが僕の仕事。その仕事を1試合でも早く、一つでも多く果たせるように努めます」
高選手は果たして、フィジカルお化けなのか、負けん気お化けなのか。答えは「どちらのお化けでもある」ということになりそうです。
発言にもプレーにも勢いがある高選手に今の個人的な課題を聞きました。
「チーム戦術における役割をしっかり果たしながら、その上で自分の武器をどうやって効果的に出していくのか。どちらかの仕事をするだけでは満足できません。その両方を」
田坂和昭監督も高選手の身体能力の高さを評価しながら「まだまだ知らないこと、できないことが多い。だから鍛え甲斐がある」と話しています。つまりは、これからさらに“化ける”可能性があるということ。高選手がここからどんなモンスターになっていくのかに注目です。
[文:島田 徹]
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