SHINMOJI KININARINYO新門司キニナリーニョ

新門司キニナリーニョ 第3回
野瀬龍世 選手

3-0の快勝を収めた第2節のカマタマーレ讃岐戦で加入後初ゴール。続く第3節のカターレ富山戦では乾貴哉選手の2つ目のゴールをアシストする好クロスを供給。そして、いずれの試合も体力的にはきついはずなのに相手ボールホルダーへのプレッシングを連続して敢行し好機につなげるなど、野瀬選手の攻守における非常に躍動的なプレーはとても印象的です。
そうしたエネルギッシュなプレーの源となるものは何なのかが気になり、話をうかがいました。

札幌大を卒業した2021年、野瀬選手はヴァンラーレ八戸の一員としてJリーガーとなりました。ルーキーイヤーの21年は7試合の出場にとどまりましたが、2年目の昨季は18試合に出場して4得点。その活躍がギラヴァンツ北九州の強化部の目に留まり北九州の街にやって来たのです。

そんな野瀬選手への取材は「Jリーガーになって2部練習をするのは初めてなんです」との言葉で始まりました。

「ヴァンラーレ八戸に所属する選手の半分はサッカー選手とは別の仕事を持っていました。僕もその一人で、ホームスタジアムの施設管理課というところで働きながらプレーしていました。そこでの仕事内容は施設を利用する方々からの料金の受け取りや芝の管理、それからグラウンドのライン引き、とかです。そういう仕事をしながらでしたから、2部練習をする時間がなかったんです」

初めての2部練習を「正直きついです」と言う野瀬選手ですが、とても意欲的に取り組んでいます。そしてプロ・プレーヤーの活動に集中できる今の状況を「とてもありがたく感じていますし、非常に充実しています。もう毎日が楽しくて仕方がありません」と喜んでいます。
讃岐戦の59分に相手DFをスピードに乗ったドリブルでDF二人をかわして右足シュート。ボールわずか1個分、ゴールマウスから外れた時には、芝を両手で強く叩いて悔しがり、それから約10分後に自らのシュートのこぼれ球を押し込んで勝ち越しゴールを決めた時には髪を振り乱して歓喜の雄たけびをあげました。

普段は大人しい印象の野瀬選手だけにとても意外だったそんな豊かな感情表現も「楽しくて仕方がない」という心情だからこそ自然と生まれ出たモノなのかもしれません。

それにしても最後まで足を止めずにボールを追うことは体力的にかなり苦しいはずです。本人は「スピードは一番ですが、持久力にも自信があります」とは言いますが、攻守であれだけの回数のスプリントを繰り返せば相当にきついはずです。それでも足を動かせるのは苦しさを上回る『何か』がありそうです。

野瀬選手の獲得を決めた小林伸二スポーツダイレクターは野瀬選手のプレーについてこんなふうに話しています。

「確かにスピードはあるんだけれど、それだけに頼る感じではなくて、ドリブルをするときのボールの運び方や、コースのつくりかた、またその前のトラップも含めて『えっ、そんなことするの?』と、こちらを驚かせるアイディアをプレーで表現するんですよ」
「守備をするときも、相手のボールの動かし方や選手のポジションを見て圧力をかける方向、そのタイミング、スピードを変えることができる。そのへんの駆け引きのうまさというか、センスというか、遊び心というか、それは髙橋大悟(現・FC町田ゼルビア)に共通するモノを持っているんですよね」

野瀬選手自身も駆け引きの面白さについて話してくれました。

「もともと攻撃面での駆け引きは楽しいと感じていました。それで八戸でプレーするようになって守備も求められることになるんですけど、大学の時とは違って対戦相手はうまい選手ばかりですから、特に体が小さい僕は工夫をしないとボールを奪えないし、効果的な守備ができません。だから、攻撃の時と同じように駆け引きをしながら、ということを意識するようになったんです。そうすると、守備も楽しい、面白いと思えるようになりました」

充実したプロ生活とピッチ上における局面ごとの駆け引き。そこにある「もう、楽しくて」の感情が野瀬選手の活力源になっているような気がします。

田坂和昭監督が言う『走姿顕心』――走る姿にその人の心が表れる。野瀬選手の場合は、サッカーを楽しむ、という心が表れているのではないでしょうか。

[文:島田 徹]